3話 練氣術
ギルド管理下の訓練施設、その一室で僕とダン教官が向かい合っている。
これから何の訓練が始まるのだろうか?まぁ、なんにせよ全力でついて行くだけだ。
「ダン教官、よろしくお願いします!!!」
「うん、気合い充分だね。まずは、君のスキル『魔鎧装』の燃費が悪い問題を解決できるかもしれない手段が一つある。それは——、練氣術だ!!」
練氣術?初めて聞く単語だ……一体どういう物なんだろうか?
「基本的に、人間の体内に貯蔵されている魔力は有限だ。だが、練氣術はその制御効率や瞬間的な出力を大幅に底上げする事ができる!!!」
そ、そんな便利な技が……!?あれ?でも、そんなぶっ壊れ技あるならもっと広く知られてても良くない?
「ダン教官——。つまりは、練氣術が一般に広まらないのには何か理由があるんですね?例えば、ものすごく難しいとか……」
「いや、技法としては単純だ。しかし、単純故に奥が深い。つまり『練氣術』とは、一生をかけて極める物なんだよ」
そ、そういう事だったのかァーーーー!!!
そりゃあ、一般に広まらない訳だ。なにせ、人間は楽な方に流される生き物だからね。
明るい未来よりも一時の充実、己を律するより他者を縛りたがり、善性を持って生きるよりも偽善や悪に容易く染まり、流されて生きる方を選びたがる。
おっと、少し思考の方向性がずれたけど、練氣術の話だったね確か。
「では、ご指導よろしくお願いします、ダン教官!!」
僕はなんとしてでも強くなる。その為なら練氣術だってなんだって、使える物は使う。
そうでもしないと、仲間を守れないから。
▷▷▷
「練氣術の基本は、己の内側に意識を向ける事だ。とりあえず目を閉じて?」
——教官に言われるがまま目を閉じる。
「そのまま己の内側に意識を向けていくと、身体の奥に渦巻く力があるだろう?それが魔力だ。それを少しずつ束ねて練り上げる!!それこそが練氣術だよ」
目を閉じたまま、教官の言う通り己の内側に意識を向け、自分の中にある魔力の胎動を感じ取った。
これを少しずつ束ねて練り上げるんだよね……?
「そうそう!!!それだよアルマ君!!ここまでが入門編で、次はそれを常時保つ事を意識するんだ!!!目を開けてもその感覚を忘れないで維持して!!!」
練氣術の維持に意識を向けつつ目を開ける。すると——、
「ハイここでスクワット30回!!」
「……ッ!?」
——何故かダン教官にスクワットを命じられた。
訳がわからないが言われたままスクワットをこなす。全く意味がわからない。
「ところで、これ何か意味あるんですか?」
「いや?スクワットそのものに意味はない!!!」
意味ないんかいッ!?
思わずツッコミそうになるが、余計に疲れそうなのでやめた。
「確かにさっきのスクワットには意味はない。だけどアルマ君、スクワットの途中で何度か、練氣術の維持が途切れただろう?」
「……ッ!?」
完全に図星だった。そうか、つまりそういう事か!!
ダン教官の教えが実感をもって理解できた。
「理解したようだね?練氣術の達人は、呼吸と同じような感覚で練氣術を常時保つが、少なくとも君にそのレベルはまだ求めてない。さっきのスクワットは、練氣術を維持する為の鍛錬の初級編だよ」
「実戦で練氣術を活用する為には、意識せずとも自然に練氣術を維持できるようになる必要がある。試しに、今から練氣術を維持したままスキルを使ってみてくれ」
——よし、試してみよう。【魔鎧装】、発動……対象は右腕!!
右腕が一瞬で灰白色の外骨格に覆われる。なんかいつもより消費魔力が……少ないような……?
「大丈夫だ。まだあんまり実感はないかもしれないが、間違いなく魔力制御の効率は上がってる。これからも頑張ろう!!」
「はい!!!」
その後、毎日の鍛錬メニューに『練氣術』の項目が増えた。




