2話 戦技教官ダン
「少年!!少年!!こんなところで寝てると風邪引くぞ!!少年!!」
何者かに身体を揺さぶられて、僕は目を覚ました。
確か昨日は——、【無名の星屑】を追放されて……それからどうしたんだっけ?
まぁ、いいや。二度寝しよう……
「少年ンンンンン!?頼むから当たり前のように無視して二度寝しないでくれ!!さっきも言ったけどこんなところで寝ると風邪引くぞ少年ンンンン!!!!」
——よくわからないけど妙にやかましい人がいて再び起こされた。
「おはよう!!君がアルマ君だね?俺はギルド所属の戦技教官、ダン。よろしく!!」
「あ、どうもはじめましてアルマです」
寝起きのぼんやりした頭で挨拶を返したが——、ちょっと待って???
「貴方誰ですか!?なんで俺の名前を知って!?ゑ゙ゑ゙ゑ゙ゑ゙ゑ゙ゑ゙!?」
「あ、混乱しているようだからもう一度自己紹介するよ。俺はギルド所属の戦技教官、ダン。実は、君達【無名の星屑】とはギルド主催の合同訓練や冒険者講習会で既に会ってる。今回、アリオン君から君を鍛えて欲しいとの依頼……というかお願いをされてね、それで——」
なんだって!?
「その話……詳しく聞かせてください……」
「しょ、少年?少し落ち着こうか?顔が怖いぞ……??」
「落ち着いてなんかいられませんよ!!僕を裏切ったアリオンが今さらなんで僕なんかを気にかけるんだ……!!!」
——これは単なる八つ当たりだ、そんな事は充分わかってる。
だけど、溢れ出した僕の怒りと悲しみは、もう歯止めが効かなかった。
——その後、ダン教官は僕が落ち着くまで待って事情を打ち明けた。
「実はアリオン君からの紹介で、俺は君を鍛える事になったんだけど、アルマ君が【無名の星屑】から追放されたなんて話は聞いてなかった。アルマ君に修行を付けて欲しいのだとばかり思ってたよ……」
口では『追放する』と言ったり、かと思えばダン教官に僕の事を任せたり、アリオンの真意が全然わからない。
——だったら、直接確かめにいこう!!!
——で、
「なるほど、つまり君達は身勝手な善意の押し売りでアルマ君を俺のところに預けて、『後は知りません』と、そう言いたいんだね?」
「……返す言葉もございません……!!」
——何故かアリオンが、ダン教官にガチ説教されてます。
「確かに、君の紹介状に記載した内容が正しければアルマ君のスキルは鍛え方しだいで化けるかもしれない……だが!!!君達は少しばかりアルマ君の気持ちを無視していないかい?」
「おっしゃる通りです…………!!!」
「うむ、わかればよろしい!!!では、アルマ君の修行については保留にしておくから、またいつでも連絡してくれ!!!」
——そうしてダン教官は帰っていった。
【無名の星屑】の拠点として使ってる安宿の部屋で、僕とアリオンは再び向かい合う。
「……なんで戻って来たんだよ?お前ならどこへでも行けただろ?別に俺達のところじゃあなくても……」
「前にアリオンが言ったセリフ、覚えてる?ほら、『どうせ同じクズなら星屑を目指そう』ってやつ」
「テメー人の黒歴史をーーーーーー!?」
「あの言葉があったから、僕はここまで頑張ってこれたんだ。いつかアリオンが言ったように、クソッタレな世界に抗って、自分達の居場所を作る為に」
思えば、僕達はずっと抗ってきた。くり返される理不尽な現実に。
それでも、魔物と戦える力があれば生きる糧を得られるのだと信じて生きてきた。
環境のせいにして腐る事なく、自分達なりに誇りと矜持を持って生きてきた。
でも、今のままじゃあまだ足りないんだ。今のままでは、いざという時に仲間を守れない。
「僕、ダン教官のところで鍛え直してもらってくるよ。また『ハズレスキル』なんて言われないようにね」
「…………」
今度は決意を胸に秘めて、僕は宿の部屋を出る。
アリオンside
——全く、環境のせいにして腐ってたのは俺の方じゃあないか。
「リアン、フリュー、アルマが戻ってくるまでに俺達も少しばかり鍛え直すぞ。アルマに追い抜かれないように、気合い入れてけ」
「了解です。回復薬の在庫も補充しておきましょう」
「わかった……」
フリューは日課である薬剤調合に戻り、リアンは武器であるトマホークの手入れを始めた。
——アルマが強くなるのなら、俺達も負けちゃいられねぇ。絶対にお荷物になんかならねぇ!!!自分の居場所は自分で作る!!
じゃなきゃ、アルマに偉そうな事言った手前、示しがつかないからな。
アリオンside 終




