1話 追放は突然に
プロローグ〜いつか見たあの希望を〜
ああ、なんでこんな事になったんだろう……
暗い夜の中、路地裏でうずくまり現実から目を逸らすも、僕が『パーティから追放された』という事実は変わらない。
フリュー、リアン、そしてアリオン……僕にとってはみんな大切な仲間だったけど、どうやらアリオン達はそうじゃなかったみたいだ。
だから僕を裏切ったんだ——。
僕はこの苦しい現実を受け入れられず、夢であるように何度も願った。
心の中に浮かぶのは、かつてのアリオン達と過ごした日々——。
————、
痩せ細ったみすぼらしい少年が、スラム街の路地にうずくまっている。
——、かつての僕だ。これが死ぬ前に見るソーマ灯ってやつかな?それとも、現実を受け入れられないあまりに幻覚が見えてるのかな?
『食えよ、腹減ってるんだろ?』
服装こそ立派だがあちこち汚れくたびれて威厳も何も感じられない、いわば没落貴族のような印象の少年がかつての僕にパンを差し出す。
——、出会ったばかりの頃のアリオンだ。思えば、第一印象通り本当に没落貴族だったのには驚いたけど。
『なぁお前、居場所がないなら俺と一緒に来ないか?』
『どこへ……???』
『どこでもいいさ。俺達の居場所は俺達で作る。抗うんだ……このクソッタレな世界に、俺達の力でな!!!』
——、追憶の中のアリオンは、あの時と同じように何の根拠もない自信に満ち溢れていた。その背中に憧れて、僕は彼と共に冒険者を目指したんだ。
————、また少し場面は飛んで、今度はパーティ結成時のちょっとした演説。この頃には4人全員揃って冒険者になっていた。
『アリオン、リーダーらしくちょっと何かかっこいい事言って見せてよ!!パーティ結成記念のつもりでさ!!』
『こういうのガラじゃあないんだがな……え〜っと、俺達はクズだ!!!』
『いきなり何言い出すのこの人!?』
——、自分から無茶振りしておいてなんだけど、この時のアリオンのセリフには面食らったなぁ……。
『で、その心は?』
——、パーティの紅一点であるフリューが笑顔で圧をかけている。今思い返しても怖過ぎる。
『あ……その、つまりだな……俺達は揃いも揃って、社会から爪弾きにされた、クズの中でも選りすぐりのクズだ。スラム街育ちのリアン、エルフの里を追放されたフリュー、馬鹿みたいに大食いのゴクツブシアルマ、そして没落貴族の俺……だが、それの何が悪い!!!クズで結構、どうせ同じクズなら星屑を目指そうじゃないか』
『俺達はこっからだ。ここからクソッタレな世界に抗うんだ、俺達の力で!!!』
『なるほど……つまり、『環境のせいにして腐るよりも自分達なりの誇りと矜持を持って生きよう』という事ですか』
——、そうだった。フリューがわかりやすく要約してくれたんだったな確か。
『そうだ!!!つまりはそういう事だ!!!』
『…………リーダーの言ってる事、いいと思う……オレ、バカだけどもっと勉強する。もっと強くなる……』
——、リアンは、出会った頃には読み書きすらできなかったんだよなぁ……3人でローテ組んで教えたら、なんとか最低限の読み書きができるくらいまでになって、結局リアンの冒険者登録が一番時間かかったんだっけ。
今となってはいい思い出だ。ああ……、なんだか眠くなってきた……
プロローグ 終
◁◁◁
「アルマ、お前を【無名の星屑】から追放する」
唐突に、パーティリーダーのアリオンから告げられたその言葉は、僕の精神を大きく揺るがした。
少しばかり状況を整理しよう。
僕の名はアルマ。王都『クロスキングス』の冒険ギルドに所属する冒険者で等級は黒鉄。
そして今、訳もわからないまま、幼い頃から一緒に活動してきたパーティ【無名の星屑】のリーダーである『アリオン』から追放の宣告を受けている。
——どうして……どうしてなんだよアリオン……
あまりのショックに呆然と立ち尽くす僕。
「どうして……」
「ハズレスキルの無駄飯食らいはいらねぇんだよ!!!」
スキル。人間なら誰しもが持つ、生まれながらの得意不得意などの才能を司る固有能力のような物。
例えばアリオンなら、【吟遊詩人】——、詩や演奏によりバフやデバフを使いこなす。
リアンは【バーサーカー】——、純粋なタフネスとフィジカルの強化で敵をねじ伏せる。
【無名の星屑】の紅一点、フリューは【鳥使い】——、鳥類限定のテイマー系スキルだ。使い魔として契約した鳥を斥候や狙撃の際の観測手として扱う。
そして僕のスキルは【魔鎧装】——、魔力を物質化した外骨格を造り出し、身に纏うスキルだ。外骨格を纏う事で、膂力と防御力が強化される。唯一の欠点は、魔力消費が激しい事。あっという間に魔力が枯渇して体力まで持っていかれるので腹も減るし……
でも外骨格を腕に纏えば腕力が、脚に纏えば脚力が、そして全身に纏えば——、理屈の上ではパワーと防御力を兼ね備えたスーパーアルマくんが爆誕する筈だが、悲しいかな魔力消費の問題が解決できないので未だ実現できていない。
「【魔鎧装】はハズレスキルなんかじゃないよ!!このスキルのおかげでひ弱な僕でもタンク職ができるんだから」
「その燃費の悪さでか?持久力の無いタンクなんて邪魔だ邪魔!!そのくせ、メシだけは人一倍食いやがる……とにかくお前は追放な」
『ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!追放ダ!!追放ダ!!』
フリューのペット兼使い魔のオウム、『ゲイル』が冠羽を逆立てながらけたたましく叫んだ。
「そういう事です。既にボク達3人で相談して決めました……」
——そんな……フリューまで……
目の前の銀髪翠眼のエルフ少女——、つまりフリューは僕を冷たい目で一瞥してそう言った。
「すまない……アルマ。オレも同意見だ」
先程まで一言も喋らなかった寡黙な大男——、リアンまでもが目を伏せる。
「…………ッ!?」
もはや居ても立ってもいられず、その場から逃げ出すように部屋を飛び出した。
アリオンside
「全く、何が『ハズレスキル』だ……あまりにも下手な嘘過ぎて、我ながら笑えてくるぜ……」
そう、今しがたアルマに投げかけた言葉は全て嘘。【魔鎧装】がハズレスキルなんてとんでもない、アレは鍛え方しだいで化けるスキルだ。現に俺達は、以前一度だけその可能性を目の当たりにした。
——だから追放した。
今のあいつに必要なのは、より良い環境だ。アルマはこんなところで燻っていていい存在じゃあない。
「あいつは、俺達の事を恨むかな……?」
だとしても、甘んじて受け入れるさ。どうか、俺達の事を許さないでくれ——。
「自己嫌悪に浸るのは結構ですが、今一番辛いのはアルマです。それをお忘れなく。——って、共犯者のボクが言えた義理ではないですけどね」
「わかってるよフリュー……」
本当に何やってるんだろうな俺……だが、俺は……俺達は、今のままだといずれ、必ずアルマのお荷物になる。
既に『教官』宛にアルマの紹介状は送っておいた。
あとは何もしなくても『教官』があいつを鍛え導き、再起させてくれるだろう。
今は辛いだろうが、いずれ新しい仲間だって見つかるさ。
「達者でな、アルマ……」
アリオンside 終




