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マジックロッド  作者: さだきち


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Level 7 不死鳥と満天のサイバー・コスモス


~ スタンド・ワンの裏切り ~



Level 7 の迷宮に転送されてきたサイレント・シープの五人とゼニスは、一斉に空を見上げた。


「きれい……」セレスの目が輝く。


空は、満天の星空だった。漆黒の空間に吸い込まれそうな無数の光がまたたき、深遠な宇宙を感じさせる。リリアンもその星空を眺め、うっとりしていた。


周囲の環境は、これまでのLevelの有機的な迷宮とは大きく異なっていた。床と壁は滑らかに整えられた鋼鉄製で、そこかしこに計器類とランプが点在している。極めて近未来的なサイバーな空間が、頭上に広がる原始的な宇宙と対比し、異様な美しさを醸し出していた。


「ゼニスさん……入り口まで届けるのが約束でしたよね?ここが、Level 7 の入り口だ。さあ、設計書を渡してもらおうか?」


スタンド・ワンの隊長は、彼らの感動を邪魔するように、高圧的に言い寄る。


「あいつらさえ居なければ、絶景ポイントなのにな」ゼオンが不満げに言う。「まったくだな……」とカイルも同意した。


「これは渡すが……マジックロッドの閉鎖と、中にいる全員の強制退去、そしてその警報も条件だったはずだ」ゼニスは設計書を差し出す。


隊長はそれを受け取り、ファイルの中身をちらりと確認すると、不敵な笑みを浮かべた。「お前らを除いて……な。まあ、任せろ。じゃあな」


そう言って、スタンド・ワンはディメンション・シフト(DS)の近くに並んだ。


「おい!フロンティア・トラッカー!街へ転送だ!早くしろ!」隊長が怒鳴る。


「フィンですよ、名前があるのに。何ですか、もう……」とフィンが文句を言いながら転送の操作をする。


眩い光に包まれ、スタンド・ワンが街へ転送される。「くっくっく……」転送されている途中、隊長は勝利を確信したかのように不敵な笑みを浮かべた。


「あれ?何だこれ?」フィンがDSに変なものが付いているのを発見する。何かの黒い箱が張り付いているようだった。赤いランプが点滅している……


ドオォォーン!


突然、その箱が爆発する。Level 7 の入り口のDSが完全に破壊された。「しまった!……なんてこ……みな……わあ……」フィンのホログラムが崩れ始め、ついにはプツンと音を立てて消えてしまった。



~ 魔力逆流の加速 ~



「くっそー!やられた!」ゼオンが叫ぶ。「あいつら、最初からこれが目的だったのね!」とリリアンが憤慨する。


「何て事してくれたんだ……こいつは、まずいぞ……」ゼニスの顔が真っ青になる。「閉じ込められましたね……」とカイルが言う。


「そうじゃない。いや、確かにそれもあるが、事はもっと重大だ……」ゼニスが言葉を継ぐ。「あいつらはこれで、魔力の逆流を防いだ気でいるだろうが……全く逆効果だ。さらに危険になった。入り口のDSが無くなっても、依然としてLevel 7 からLevel 1 までのルートは存在している。インフラが使えなくなっただけだ」


「しかも、入り口のDSが破壊されたことで、出口のDSも一気に不安定になり、魔力の逆流が加速してしまう……」


言いながら、ゼニスは空を見上げた。



~ 不死鳥の出現 ~



満天の星空が消え、遠く向こうの空から赤く染まっていく……。


あぎゃぁー!という何かの鳴き声が響いた。「これは、まずいぞ……」ゼニスが呟く。


向こうの空から、全身が炎に包まれた巨大な鳥がゆっくりと羽ばたいて近づいてくる……。


不死鳥フェニックスよ!」アルウェンが悲痛な警告を発した。「絶対に勝てない!逃げるわよ!」


そしてサイレント・シープとゼニスは、 Level 7 の迷宮の奥に向かって、通路を急いで走り出した。



~ 不死鳥からの決死の逃走 ~



Level 7 の空間に現れた不死鳥フェニックスは、巨大な翼を広げて飛んだ。その巨体は、まさに空一面を覆いつくすようで、一瞬にして満天の星空を炎の赤色に塗り替えた。サイレント・シープとゼニスは、その圧倒的な存在感の下を、ただひたすら必死に駆け抜けていく。


フェニックスの羽ばたきからは、炎の塊が雨のように零れ落ちる。「うわっち!あちちち…」カイルが走りながら、体に付いた炎を振り払った。


「あの扉に早く!」アルウェンが通路の奥に見える扉を指さすと、全員がそこに向かって全力で走った。


フェニックスは、彼らが扉に入っていくのを確認し、ゆっくりと空を旋回する。リリアンとゼオンは、少しでも時間を稼ごうと、扉の前で振り返り、フェニックスを待ち構えた。


リリアンが弓を連射する。しかし、彼女の放った矢は、フェニックスの体に届く前に、全て燃え尽きて炭となってしまった。


ゼオンがブレスを吐く。しかし、その強力なブレスも、フェニックスのまとう炎に阻まれ、火花となってかき消された。


「早く入れ!急いで!」カイルが必死の形相で、急いで部屋に入るよう呼び掛ける。



~ 閉ざされた恐怖 ~



フェニックスは、彼らが逃げ込む寸前、その巨大な頭を向け、ブレスを吐こうとしている。リリアンとゼオンが部屋に飛び込んだ、その一瞬後――。


フェニックスが凄まじいブレスを吐き出す。その炎は扉を通り抜け、反対側の壁にあたり跳ね返った。ゴオオオ!と凄まじい音と高熱が部屋全体を包み込む。


「ひいいいいっ!」セレスが恐怖におののき、顔を覆った。


やがて、扉が自動で閉まっていき、フェニックスのブレスを遮断してくれた。全員がその場に崩れ落ち、しばらく恐怖と絶望で動けなくなっていた。「自動ドアじゃなかったら死んでたな……」ゼオンが力なく呟く。


「あれは何?狂ってるわ!」リリアンが荒い息を整える。


「魔力の逆流が始まったんだ……DS の暴走が第一段階に入った。有り余る強力な魔力が、あのような異常なモンスターを生み出す」ゼニスは青白い顔で説明した。


「あの鳥は不死身よ……どんな攻撃も通じない。あの姿を見たら、ただ逃げる事に専念して」アルウェンが冷静に警告する。


「こんなときにフィンもいないし、地図もない。どこに DS があるかもわからない。こりゃ笑うしかねえわ……」ゼオンが諦めたように力なく笑う。



~ 詠唱石に懸ける希望 ~



プシュー、とカイルが扉を開ける音がした。「あなた、何やってんの!」リリアンが驚く。


「こんな時こそ、前に進むんだ!」カイルは扉から通路を覗き込み、声を上げた。「今は……いない!進むチャンスだ!」


ゼニスがカイルの肩をぽんっと叩く。「よし、行こう……この詠唱石に懸けて……」彼は持っていた円盤を強く握りしめた。


「それは、何ですか?」セレスが尋ねる。


「次の部屋まで無事に辿り着けたら話そう……ついてこれるかい?」ゼニスが言った。


「いいねえ。その話聞きたくなったぜ」ゼオンがにやりと笑い、再び戦意を取り戻す。「面白くなってきたわね」とリリアンも自分を奮い立たせた。


「こうなりゃ、やぶれかぶれよ!」セレスも気合を入れる。


そして、サイレント・シープとゼニスは、生と死の境界線にある部屋を飛び出し、ディメンション・シフトへと続く通路を全力で駆け出した。



~ 原初の贖罪と予言者の導き ~



サイレント・シープとゼニスは、全力で鋼鉄の通路を走った。やがて、向こうの空から夜空を照らす赤い光が急速に近づいてくる。


「隠れて!」


アルウェンの鋭い掛け声で、皆が壁の影に身を隠す。そっと顔を出しながら、フェニックスが轟音と共に飛んでいく姿を確認する。「よし!気づいてない…進むぞ!」カイルが身を低くし、そろそろとフェニックスの後ろを抜けていく。全員がそのあとに続いた。


目の前に扉が見える。空を飛ぶフェニックスがゆっくりと飛び去るのを確認する。


「今だ!」


プシュー、と扉を開け、全員が雪崩れ込むように部屋の中に入った。


「ふいー…、きっちいなあ」ゼオンが汗をぬぐう。



~ 詠唱石の秘密 ~



「え…で、それ何だっけ?」カイルがゼニスがまだ握っている円盤を指さす。


「そうだったな。約束だから…」ゼニスが微笑んで円盤を見つめた。


「これは、プライマル・アトーンメント(原初の贖罪)の呪文が込められた詠唱石だ」


その呪文の名前を聞き、アルウェンが驚きの顔で目を見開く。


「そう……伝説のフォース・エレメントが唱えたとされる究極の呪文ですよね…アルウェンさん」ゼニスはアルウェンをまっすぐ見つめた。


「魔王と恐れられた魔術師を打ち滅ぼし、世界を救った四人…それほどの事を成し遂げたのに、ほとんど記録も文献も残ってない。いやあ、この呪文を探すのに本当に苦労しましたよ」ゼニスは研究者としての情熱を覗かせた。


「ふふふ…もう、だいぶ昔の話よ。その呪文を唱えると全ての力を失うの。その四人は、普通の人になったわ」アルウェンは穏やかに微笑む。


「そんな事があったなんて…」セレスが絶句する。


「ううん、でもそのおかげで、こうしてあなたたちと共に、また成長する旅を楽しめたわ。むしろ、感謝してるくらいなんだから」アルウェンは慈愛に満ちた笑顔を見せた。



~ 過去の贖罪と決意 ~



「ゼニスさん…何であんな凶悪な魔物を召喚していたんですか?私、とてもあなたが、あんなことする人だとは信じられなくて…」リリアンが静かに問いかけた。


「ああ、あれはね…私も逃げるので必死だったんだ。軍を退けるために使ったつもりだったが、冒険者を巻き込んでしまって申し訳なかった…いや、今さら謝っても、償えることではないよね」ゼニスは顔をしかめる。


「いや、ゼニスさんは悪くない!」カイルがゼニスの罪を否定する。「そうだ!それを利用したのがスタンド・ワンのやつらだ!あいつら…」ゼオンが怒りに震える。


「でも、こうなってしまったら、その怒りもどこに向けたらいいか…って、何これ?」セレスがため息をつきながら、ふと扉に書かれた光る文字を見つけた。



~ 予言者の道標 ~



「ちょっと待って!」アルウェンがその光る文字を見て叫ぶ。「え?なに?なに?」リリアンが驚いてアルウェンを見る。


「これは…この『R』の文字は、予言者ロードの導きのサイン……。死してなお私たちを導いてくれるのね!」アルウェンは感激したように言った。「この扉の先に進むべきよ!」アルウェンの目が輝く。


「よし、ここはアルウェンを信じるぜ俺は」ゼオンがみんなを見回す。「もちろん、俺は行くよ」とカイルも続く。


「じゃあ、先に進みますか!」リリアンが立ちあがる。「よーし、行くわよー」とセレスが腕まくりをする。


そして、カイルが扉を開けフェニックスが近くにいない事を確認すると、また全員が部屋を出て、全力で駆け出していった。



~ ベインの再会とフォース・エレメントの再起 ~



フェニックスが炎の塊を零れ落としながら、ゆっくりと羽ばたいていく。サイレント・シープとゼニスは、じっと息をひそめ、見つからないように辛抱強く耐えた。


フェニックスが通り過ぎるのを確認して、また走り出す。彼らはフェニックスの隙をつき、部屋に入り、「R」の光る文字を見つけ、なんとか迷宮の奥に進んでいった。


そして、再びフェニックスの目を盗み、ひとつの扉に逃げ込んだ。


「ひえー、キリがねえなこりゃ。いつまで逃げればいいんだ……」ゼオンが疲弊したように言った、そのとき、


「ふふふ……ここで終わりだよ」


と、何者かの声が響いた。


「誰だ!?」カイルが警戒して叫び、声がしたほうを見ると、いつかの……あの美味しい魚を焼いていた老人が立っていた。



~ ベインの告白 ~



「ベイン……何であなたがここに……?」アルウェンは驚きと懐かしさの混じった眼差しでベインを見つめる。「やはり、来てしまったか……アルウェン」とベインは静かに言った。


「じゃあ、あの『R』の文字、ひょっとして……」アルウェンが核心に迫る。


「そうだよ。ロードみたいだっただろ?」ベインは愉快そうに笑った。


「もしかして、あなたがあの、フォース・エレメントのベイン・レイパート……」ゼニスが、目の前の老人が伝説の英雄だと気づき、問いかける。


「おお、ゼニス。俺もお前を探してたんだ。やっと会えたな」とベインは穏やかな顔で言った。


「ゼニスはね……プライマル・アトーンメントの詠唱石を作ったのよ」アルウェンが微笑んで説明を加える。


「なるほどな……この魔力の暴走をどうやって止めるかと思ったが、その呪文なら確かに、全ての魔力を Level 8 に吐き出せそうだな」ベインは感心して頷いた。


「それにしても、よう探したな、そんな呪文……」ベインが目を細める。「苦労しましたよ……」とゼニスが答える。



~ Level 8 への道標 ~



プシュー、とベインが扉を開ける。


「ほらそこ……」ベインが指さしたその先には、ディメンション・シフトが見えた。それは、怪しい紫色の煙のようなものを吐き出し、明らかに不安定な挙動を示している。


「これは……だいぶ、魔力の逆流が早まってますね……何とかしないと」ゼニスが焦りを見せる。


「でも、フェニックスがね……」リリアンが見たその先には、羽ばたく不死鳥の姿が見えた。


「アルウェン……アイスウォールならコールひとつでいけたかな?」ベインがアルウェンに尋ねる。


「いけるけど……まだ、かつてのような力は戻ってないわ」アルウェンが答える。


「もしかして……ハイエイシェントってやつ?」セレスが興味津々に聞く。


「ふふふ……古代の精霊術よ。今の洗練された、コールのみで発動できるような、お上品なものばかりじゃないわ」アルウェンが微笑む。


「長ったらしい詠唱が必要だったり、準備が必要だったり、一筋縄ではいかん。しかし……その中には、今では考えられないような凶悪な威力を持つ呪文も、多数存在する」ベインが説明を続けた。


「この前、無理して唱えたら、正直死にかけたわ……」アルウェンが打ち明ける。「ふふふ……実はな……」とベインが笑った。



~ 再びの覚醒 ~



「プライマル・アトーンメントで、全ての力を失ったのが俺は悔しくてな……長い年月をかけて修行を繰り返し、またかつての力を取り戻したんだ」ベインが衝撃的な事実を打ち明ける。


「まさか!そんな……じゃあ!」アルウェンの目が輝く。


「すまんが、時間稼ぎをお願いできるか?」ベインがにやりと笑う。


「これは、いけるわ!」アルウェンは確信したように言った。


そして、二人のフォース・エレメントは部屋を出て、ゆっくりと通路を歩き出す。かつての、フォース・エレメントの伝説の戦いが、長い年月を経て、今、再び Level 7 の迷宮で繰り広げられようとしていた。



~ 禁断の共闘 ~



フェニックスは雄大に大空を舞い、炎の塊を零れ落としている。その下を、フォース・エレメントの二人が、魔力の奔流が渦巻く通路をゆっくりと歩いている。


やがて、アルウェンが立ち止まり、両手を振り上げた。フェニックスの炎が依然としてあたりを赤く照らしていたが、アルウェンの目は、それでもはっきりわかるくらい、青白く光輝いた。


フェニックスは二人の姿を捉えると、ゆっくりと旋回してくる。


「アイスウォール!」


刹那に、アルウェンの異様な声が響き渡る。絶対零度の巨大な壁が突如として現れ、フェニックスの進路を塞いだ。


フェニックスが「ゴオオオ!」という轟音を響かせ、凄まじいブレスをアイスウォールに吐きかける。アルウェンのアイスウォールは、そのブレスを完全に防いではいたが、既に少しずつ溶け始めていた。


「さあ早く!長くはもたない!」アルウェンが額に汗を浮かべながら言う。


ベインが頷き、静かに手で印を結ぶ。



~ 古代精霊術の神髄 ~



「ヤーハ……ワーム……スラーレフ……ゼー……レー……」


ベインが、その場にいる誰にも聞き取れないほどの静かな声で、何かの呪文を唱える。すると、たちまち空が雨雲に覆われ、大粒の雨が降り注ぎ始めた。


フェニックスが身にまとっている炎と、吐き出すブレスの威力が、心なしか弱まっていくような感じがした。さらに不思議なことに、溶け始めていたアイスウォールが、雨を浴びて、また徐々に完全な姿に戻っていく。


「まさに……これは、野蛮な武器と武器のぶつかり合いなどではない。ひとつひとつを儀式のように手順を踏む……これこそが、古代の精霊術の神髄か……」ゼニスが呟き、息をのんだ。


「風の精霊よ来たれ……」


ゆっくりと静かにベインが両手を振り上げる。突風が吹き荒れ、雨雲が稲妻で光り、大地に轟くような雷鳴が鳴り響く。そして、ベインの詠唱が異様な声で響き渡った。



~ 瞬雷の疾風 ~



「我こそは四元の契り、瞬雷の疾風たる我、命ある者を死へ招かん」


「生者は死を飲み、死者は生を謳う。運命に抗いし不滅の魂よ、裁きの罰を一度に受けよ」


「瞬雷の閃きをもって、破壊と再生の道を示せ」


「四元の盟約の下、精霊の力をここに降臨させ、全てを滅ぼす神罰の鉄槌となれ!」


その瞬間、雨雲から巨大な柱のようないかずちが閃き、フェニックスの体を貫いた。


「あぎょえー!」


不死のはずのフェニックスが悲痛な断末魔を上げ、その炎がバラバラに砕け散る。しかし、それでも巨大ないかずちは止まらなかった。


フェニックスの体を完全に消し去ると、少しずついかずちは弱まり、やがて雨雲は消えていった。空は再び満天の星空を取り戻した。


アルウェンが安堵のため息をついて、そっと手を下ろす。すると、「ガッシャアン!」と音を立て、アイスウォールがガラスのように砕けて崩れ落ち、やがて消えていった。


「す……すげー……」カイルがその戦いに圧倒され、足がガクガクと震えていた。「何なの一体……」いま目の前で起きたことが、信じられないという表情でリリアンが呟いた。


「へえ、あれだけの呪文を詠唱しても平気なのね」アルウェンがベインを見て微笑む。「ふふふ……まだまだいけるよ」とにやりと笑い、ベインはどこからか取り出した杖をつきゆっくりと歩きだした。


やがて、全員が部屋から出てきて、魔力が暴走したディメンション・シフトの前に近づいていった。



~ 絶望の通告 ~



魔力の暴走を始めたディメンション・シフトは、淡い紫色の煙のようなものを吐き出しながら、危うい雰囲気を漂わせていた。


「このためにタリスマンの力を得たわけだが……少しの間だけ、私の体は精霊の魔力に耐えられるだろう。その間に、詠唱石の円盤を取り付け、Level 8 への出力を起動する」ゼニスは手順を説明する。


「しかし……」とゼニスは言葉を区切り、サイレント・シープとベインの顔を見回した。「それと同時に、この迷宮は消え失せ、あなたたちは精霊世界へと放り出されてしまう……」


ゼニスは絶望の通告をした。


「特にあなたは……タリスマンの加護すら受けていない」ゼニスはベインの顔をまっすぐ見つめた。


「はっはっは……とっくに覚悟は出来てるさ……ロードに呼ばれた、その時からな」ベインは笑って言った。



~ ベインの悟り ~



「昔の戦いのあと力を失い、それで俺はまた力を求めた。力は取り戻せたが……そんなものは、今思えば空しいものだ」ベインは満天の星空を見上げる。


「どうだ?この異常な世界でも、こんなに綺麗な自然がある……俺はこの命の営み、尊い奇跡のような日々の幸せがあることに、気づくべきだったんだ」ベインはアルウェンを見た。「そう、お前のようにな……」ベインは優しく微笑む。


「ベイン……」アルウェンの頬に涙が伝う。


「俺は……死に場所を探しにここに来たのかもしれないな」ベインが言うと、たまらずアルウェンはベインを抱きしめた。ベインもまた抱きしめ返し、その目から涙が伝う。



~ サイレント・シープの覚悟 ~



「みなさんも……タリスマンの加護を授かっているとはいえ、助かるとは限りませんよ?もし、助からなくても、死体回収すらされず、精霊世界で消失するのみです……」ゼニスは悲痛な顔をした。


「俺たちだって覚悟はできてる。自分で行くって言って来たんだ、後悔はないさ」カイルが力強く言う。


「そうだな……みんなも一緒だろ?」ゼオンがみんなを見回し、にやりと笑う。


「最高の五人だったわ……ここで消えても後悔はない!」リリアンが言った。「あなたたちと一緒なら……ここで消えても本望よ」といったセレスの目にも涙が浮かぶ。


ベインが歩いてきてゼニスの肩をぽんっと叩く。「一番の犠牲は……多分、お前だ。お前は、その覚悟があるのか?」ベインが穏やかな顔でゼニスに問う。


「そもそも、私の責任ですから」


ゼニスは一言だけ言い、涙が浮かんだ笑顔で頷いた。



~ プライマル・アトーンメント ~



「みなさん、覚悟が決まりましたね……では、行ってまいります」


ゼニスは深く一礼をし、ディメンション・シフトへと向かう。そして、紫色の中にその姿を消した。


ゴゴゴゴ……と地鳴りのような音が鳴り響き、迷宮全体が激しく揺れ始める。


カイルとゼオンとリリアンとセレス、そしてアルウェンの五人が手を取り合い、しっかりと握りしめる。


ベインが優しく微笑む。「せめて、お前たちだけでも助かるよう祈らせてくれ……」とベインが祈る。「ベイン……」とアルウェンの頬に再び涙が伝う。


そして、眩い光に包まれ……全てが消え去ってしまった。


=====







「おーい!もういちど、のぼってこれるかー?」







=====


アルカディアにあるマジックロッドの入り口。そこでは緊急警報が鳴り響き、アルカディア軍がディメンション・シフトの様子を監視していた。


ディメンション・シフトが光り輝き、大爆発と共に消え去ってしまった。英雄たちの活躍で、この世界は救われたのだ。それと同時に、アルカディアの街はマジックロッドを失ったことを知った。


フロンティア・トラッカーの本部。モニターでその様子を見ていたケビン・フォーマが涙を浮かべて、


「やったな、ゼニス」


と一言呟いた。



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