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マジックロッド  作者: さだきち


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Level 5 マジックロッドの真実とメカニカルな迷宮


~ トラッカー本部の門 ~



サイレント・シープの五人は、フィン・キャリブレイトに連れられて、アルカディアの街並みを歩いていた。ホログラムでしか知らなかったフィンが、透き通るようなプラチナブロンドの髪と淡い水色の瞳を持つ実在の青年として隣を歩いていることに、リリアンたちはまだ慣れないでいる。


「フィン……今更なんだけどさ……」とカイルがフィンに話しかける。「何でしょうか?」フィンが問うた。


「レッド・ソーサーの六人はどうなったのかなあ?」カイルが尋ねた。彼らを助けられなかったという後悔が、三日間、カイルの胸に重くのしかかっていた。


「ああ、それでしたら、あのあとすぐに担当のトラッカー・サポートに連絡して、すぐに死体回収されたと聞いておりますが。きっともう蘇生の儀式も終わっていると思いますよ」とフィンは淀みなく答える。


「そうか。それなら良かった」カイルは胸のつかえが取れたような顔をした。フィンとサイレント・シープの五人は、さらに歩いていく。


そして、目の前に巨大な建物が現れた。その立派な門構えの上に、「フロンティア連合本部」と書かれていた。


「ここが私の職場です」とフィンが言う。「ほえー、ここから、いつも私たちに話しかけてたの?」とリリアンが建物を見上げる。「はい、その通りです」とフィンが答える。


「それでは、中に入りましょう」とフィンが建物の中に入って行く。サイレント・シープの五人が、後に続いた。



~ 設計者との対面 ~



「申し訳ございませんが、マジックロッドの内部情報は、アルカディアの機密扱いになっておりまして……館内を案内する事ができません」とフィンが断りを入れる。「ここに、マジックロッドの内部情報があるの?」とセレスが聞く。


「ええ。ここでマジックロッドの内部を監視している関係上、ここにマジックロッドの情報が集約される仕組みになっております」とフィンが答える。


「いいよ別に。見学に来たわけじゃねえし」とゼオンが言う。カイルがキョロキョロしながら、少し残念そうな顔をする。


そして、フィンがある扉の前に着くと、カードリーダーにカードを通す。「ピー」と音がした後、「入ります」とフィンが言い扉を開けた。


部屋に入ると、白髪交じりの短髪に、がっしりした体つき、仕立ての良いダークグレーのスーツを着た男が、サイレント・シープの五人を出迎えた。


「フロンティア・トラッカー本部へようこそ。私が総責任者のケビン・フォーマです」と穏やかな笑みを浮かべて言った。


「ケビンさんは、私の上司であり、マジックロッドを設計した開発者でもあります。あのディメンション・シフトを作ったのは、この人なんですよ」とフィンが紹介する。


「ははは。私なんか、ただのインフラ設計の担当者に過ぎんよ。さあ、そこのソファにおかけになって下さい」とケビンがサイレント・シープの五人に言った。


「すみません、なんかわざわざお呼び頂いて。私たちに、どういった御用ですか?」とリリアンがかしこまって尋ねる。


「そうですね。それを今からご説明しましょう」とケビンは、その鋭い眼光をサイレント・シープに向け、話し始めた。



~ マジックロッド開発の歴史 ~



「あなたたちはスタンド・ワンから、ストライカーに任命されましたね?」ケビンは尋ねた。


「ええ。これです」とセレスがカードを見せる。「そうですか……」とケビンはカードを見て腕組みした。


「何から話しましょうか……まず、先ほどフィンから紹介され通り、私もマジックロッドの開発者のひとりでした」ケビンは重い口を開いた。


「マジックロッドというのは、召喚呪文を改造し、精霊世界に魔力の薄い泡を作る技術です。ある意味で言えば、我々は召喚呪文に特化したエキスパートでもあるのです」


ケビンは、研究所の新人だった頃、泡を大きくするところから始まり、やがて迷宮を作れる大きさになった経緯を語った。その頃、アルカディアでは魔法電池の製造が始まり、出力不足という問題に直面していたという。


「アルカディアからの要求は迷宮を広くすることではなく、より強い魔力の品を生み出すことにシフトしていったのです」


マジックロッドから生み出される魔力の強い触媒を利用し、さらに強い呪文を作ることで、より深い Level 2 の精霊世界に泡を作ることに成功した。


「その技術を成功させた男こそが、私の同期のゼニス・ヴォルトだったのです」ケビンは衝撃の事実を告げた。


「ゼニス!?」思わずリリアンは声をあげ、セレスと顔を見合わせる。「え?ゼニスをご存知なんですか?」ケビンが驚いて尋ねた。


「いいえ。私たちは、その名前を聞いただけで、何のことかはわからないのです。そのままご説明を続けてください」とアルウェンが穏やかに微笑み、会話を遮った。


「そうですか……」ケビンは戸惑いつつも説明を続ける。「ゼニスは天才でした……今のマジックロッドは、彼が作ったと言っても過言ではありません」



~ Level 8 への禁断の道 ~



ゼニスは技術開発を続け、とうとうLevel 7 までの迷宮を作り上げた。しかし、どんなに魔力の強い触媒で呪文強化を重ねても、Level 8 には到達できない。「Level 7 が理論限界」と言われていた。


「出口のディメンション・シフトがあるでしょう?あれは、次の Level の迷宮をつくるための出力装置でもあるのです。だから、Level 7 にも DS はありますが、今の段階ではその DS を動かす方法がない」


「しかし……ゼニスはその限界を超え、Level 8 に泡を作る方法を発見したと。それをアルカディア政府に提案したのですが……あまりにもリスクが高いと却下されました」


ケビンは息を吸い込んだ。


「それは『魔力爆発マナ・エクスプロージョン』と言われる方法で、Level 1 から Level 6 までの迷宮に精霊世界の魔力を逆流させると、その魔力が全て Level 7 の迷宮に流れ込んできます」


「すると Level 7 の出口の DS に魔力が集中し、その魔力を DS で呪文の力に変換されることにより、Level 8 に迷宮を作ることが可能になります」


「でも、それはLevel 1 から Level 7 の迷宮を消滅させてしまう。入り口の DS から街に戻れるのは知ってますよね?しかし、Level 1 から Level 7 の入り口の DS が無くなったら、街までのルートが消滅し、戻れなくなるのです」


「私はゼニスが狂ったと思いました。彼はアルカディアに反逆し、自らマジックロッドに潜入し、Level 8 の迷宮を作ろうとしています」



~ ストライカーの真の目的 ~



「そのゼニスを捜索するのが、ストライカーの任務なんですか?」リリアンが聞く。「それは、違うんです……」とケビンは苦い顔をした。


「私はアルカディア軍にゼニスの捜索を依頼したんです。しかし、ゼニスは特殊な召喚呪文を駆使してアルカディア軍を退けました」


「そこで軍最高幹部のグラント・ヴォーダンが、スタンド・ワンを立ち上げ、ストライカーと呼ばれる冒険者を捨て駒にすることを思いついたのです」


「ゼニスを止められない場合、軍の最終目的は『魔力爆発』を防ぐために、Level 7 の DS を内部から破壊することです。その危険な任務に、冒険者を利用しようとしている……」


「そのことに気づいた我々は、そんなことは止めさせなければいけないと思い、今回みなさんをお呼びして、今こうして説明をしている次第です」とケビンは言った。


サイレント・シープの五人は、事の真相を知り、しばらく呆然としていた。



~ ゼニスを追う理由 ~



「ゼニスってのは悪い奴なんですか?」カイルがまっすぐな目でケビンに聞いた。


「いや、そんなことはない……なかった……はずだ」ケビンは苦しげに答える。「以前の彼は、アルカディア全体のことを考えて仕事をしていた。目先の研究成果のために、こんな危険なことをやるような男ではなかった。それなのに……」


「ですからね、みなさんもストライカーなんて任務は忘れて、また今まで通り Level 5 の攻略を目指しましょう」とフィンが、張り詰めた空気を打ち破るように気持ちを切り替えるよう促した。


「いや、俺はストライカーの任務をやるよ」カイルが、表情を一つも変えずに言った。


「なに言ってんの!?あんた?」セレスが驚いて声をあげる。


「どっちみち、誰かがゼニスを止めなきゃいけないんだろ?」カイルは、レッド・ソーサーを見捨てた軍への怒りと、仲間を失った悲劇が繰り返されることへの恐れから、すでに覚悟を決めていた。「しょうがねえな。一人でも行くって言うんだろ?俺も付き合うよ」とゼオンが肩をすくめた。


「あなたたち勝手なこと言わないで!またアルウェンが倒れるようなことになったら、どうするの?」リリアンが声を荒らげた。


「ううん、私もカイルと一緒にゼニスを探すわ」アルウェンは、横にいるカイルに視線を向け、優しく微笑んだ。「まだ、わからないけど、私が呼ばれた理由はそこにあると思うから」


「呼ばれた理由?」リリアンが聞き返す。「それは、今はいえないけど……」とアルウェンは、多くを語らずに微笑んだ。


「まあ……行くしかないか」セレスがリリアンを見る。


「しょうがないわね」リリアンもため息をつきながら、腹を決めた。



~ 我々の信念 ~



「あなたたちを止めようとしたのに、逆に危険な任務に行かせる結果になって申し訳ない」ケビンが、総責任者としての立場を忘れ、深く頭を下げて謝罪した。


「いや、俺たちはそのグラント……アルカディア軍には従いません」カイルは立ち上がって言った。「自分たちの信念で行動します」


「では、このようなことで申し訳ありませんが、よろしくお願いします。サイレント・シープのみなさん」ケビンは、再び頭を下げた。


「じゃあ、フィン。これからも案内をよろしく頼むよ」カイルが、システム管理者を務める青年に向かって、いつもの調子で言った。


「ははは、ではまず、これから Level 5 のブリーフィングに入らせていただきます……」とフィンが苦笑いをしながら扉を開ける。


そしてサイレント・シープの五人は、ケビンに対して並んで一礼をし、その部屋を出ていった。彼らの胸には、軍の命令ではなく、己の意志で危険な迷宮へと足を踏み入れるという、強い決意が刻み込まれていた。



~ メカニカルな迷宮 ~



サイレント・シープの五人は、Level 5 の入り口のディメンション・シフト(DS)まで転送されてきた。


「いやー、久々のマジックロッドかあ……」とカイルが伸びをする。「なんか……やけにメカメカしい雰囲気だな、ここは」とゼオンが周りをキョロキョロする。


四方を囲むのは、鋼鉄製で滑らかに整った壁だ。天井には照明が規則的に並び、あたりを均一に照らしている。壁のところどころには、計器類やランプが点在しており、まるで巨大な内部システムの中にいるような錯覚を覚える。


「フィン?ここはどういう場所なの?」とリリアンが尋ねる。「実はマジックロッドって、これがデフォルトというか、ベースの姿なのです」とフィンが答える。


「これをベースに、有機的なものに加工され、迷宮が出来ていくと……そういうイメージになります」とフィンが説明する。


今までの石壁やら砂浜が加工されたもので、これが原始的な姿とは……見た目とのギャップに、サイレント・シープの五人の理解が追い付かないという様子だった。


「まあ、でも出口の DS を目指すのは変わらないでしょ?」とセレスが言う。「そうですね……一応、ゼニス氏を捜索するという目的が追加されてはいますが……」


「しかし、まだ何も手がかりがない以上、結局今は先に進むしかありません。一応、ゼニス氏も Level 7 を目指してる……ということだけが、今わかっていることです」とフィンが言った。


「よし、じゃあ行くか」とカイルが歩き出す。「別に今までと変わりなしか」とゼオンが後に続く。


「ふう……じゃ、行きますか」とリリアンがセレスを見ると、セレスも無言で頷く。「ふふふ……」とアルウェンも微笑み、三人が後に続いた。


「気を付けてくださいねー」とフィンが言って、ホログラムが消えた。



~ スタンド・ワンの横柄な命令 ~



通路の奥の扉の前に立つと、「プシュー」という音と共に、自動で扉が開く。「加工されて退化するって、どういうことだよ?このままにしとけよ」とゼオンの文句がありつつ、サイレント・シープの五人が部屋の中に足を踏み入れる。


「何もないな……」とカイルがあたりを見回す。そのとき、もうひとつの扉が「プシュー」と音を立てて開き、何者かが入室してきた。


「遅いぞ!サイレント・シープ!今まで何をしていた?」と、武装したアルカディア軍の部隊の隊長らしき男が言ってきた。


「まあ、いい……ついてこい」と言ってアルカディア軍の部隊が歩き出す。「何だろう?こいつら?」とカイルが小声で言う。「あれじゃない?スタンド・ワンでしょ」とセレスが小声で返す。


「うるさい!俺たちはスタンド・ワンだ!いちいち言わせるな!黙ってついてこい!」と隊長が怒鳴る。


「だから、そう言ってんじゃん」とセレスが納得いかない様子で小声で言い、あっかんべーをした。


そして、軍の指揮下に入ることを拒否しつつも、ゼニスへの手がかりを掴むために、サイレント・シープの五人は渋々、スタンド・ワンのあとをついて歩いていった。



~ スタンド・ワンの命令 ~



スタンド・ワンの部隊は、いくつかの自動ドアを開け、迷宮の通路をどんどん進んでいった。しかし、隊長が右手を上げ、ひとつの扉の前で整列して止まった。隊長は部隊に対して顎で合図を送ると、一人の兵士が警戒しつつ部屋に入室する。


「なんだ?」カイルが呟き、サイレント・シープはその様子を見守っていた。


すぐに扉が開き、慌てた表情をした兵士が出てきて隊長に耳打ちする。隊長は頷き、冷たい視線をサイレント・シープに向けた。


「お前ら!部屋に入れ!」隊長が指示を出す。「え?俺?」カイルが自分を指さす。「何で俺たちが?」ゼオンが首をかしげる。


「いいから、早く行け!」隊長が怒鳴る。


サイレント・シープの五人は、渋々部屋の中に入室していった。部屋の広さに比べて、中にいる魔物の数は異常だった。


「トロルが三体、オーガロードが五体、ナイトストーカーが六体ね」アルウェンが即座に識別する。


「ははーん、こういうことか……」カイルが剣を抜いた。ここは、軍が消耗を避けるための偵察役、あるいは捨て駒としてサイレント・シープを押し込んだ場所だった。


「よし、こっちは任せろ」ゼオンが息を吸い込んだ。



~ 覚醒した力 ~



ゼオンがナイトストーカーに向かってブレスを吐き出した。そのブレスの範囲や威力は、今までと比べ物にならないほど強化されていた。黒い炎が空間を舐めるように広がり、ナイトストーカーの六体のうち、四体が瞬時に黒焦げに燃やされた。


リリアンが燃え残った二体に高速で矢を浴びせる。ナイトストーカーは一瞬で全滅した。


「お前……」カイルはゼオンを見て絶句する。「なんか、知らないうちに強くなったみたいだな俺たち」ゼオンも自身の威力に驚きつつ言った。


「この前のブラック・ドラゴンの魔力が、ことのほか凄かったようね。教会で祈ったことで、みんな強くなってるわ」とアルウェンが微笑む。


「前を見て!まだ終わってない!」リリアンが叫ぶ。「気を抜かないで!」セレスも警告を発した。


「よし、行くぞ!」


カイルが低い姿勢で踏み込み、トロルに切りかかる。トロルはこん棒を振り回し、カイルにぶつけようとするが、姿勢の低いカイルには当たらず、空を切る。カイルはそのまま接近し、トロルの足を切り裂いた。


足の痛みでトロルは片膝をつく。カイルはトロルの腕を切り裂き、体を傾けたトロルを袈裟に切り裂いた。一体のトロルが倒れた。


ゼオンは、カイルを殴ろうとしていた残り二体のトロルに近づき、一体の胴体をロングソードで切りつけ、もう一体のふとももをショートソードで刺した。二刀流の連続攻撃だ。ゼオンは体をくるりと回し、その勢いでさらにトロルの胸をロングソードで切り裂く。一体のトロルが大きな音を立てて倒れた。


カイルは片膝をついたトロルの首筋を切り裂きの剣で突き刺す。トロルは力なく崩れ落ちた。



~ 圧倒的な制圧 ~



カイルとゼオンがトロルと戦っていた時、同時にアルウェンが呪文をコールしていた。「メガフリーズ」——残っていたオーガロード五体が瞬時に凍り付き、そのうち二体がバラバラに崩れ落ちる。


セレスが高速で幽体離脱し、一体のオーガロードにフレイルを打ち込む。オーガロードは氷の塊となってバラバラに砕け散った。リリアンが残りの二体のオーガロードに、心臓を正確に貫く矢を放つ。二体のオーガロードが倒れた。


サイレント・シープの五人は、十四体のモンスターの群れを、一瞬にして葬り去った。


扉の外から見ていたスタンド・ワンの隊長は、部屋の奥で静かに立ち尽くす五人を見て、口元を歪ませた。


「すごいな……レッド・ソーサー以上だ」



~ テレポーター・トラップ ~



「よし、行け」隊長が合図すると、スタンド・ワンが続々と部屋に入ってきて、床や壁を乱暴に捜索しだした。彼らはサイレント・シープの功績を無視し、自分たちの任務を遂行し始める。


兵士の二人が、部屋の奥の壁際に隠されていた宝箱を荒々しく引っ張り出し、サイレント・シープの前に「ドスン」と置いた。


「お前ら、何とかしろ」隊長が命令する。


「何とかしろって、どういうことよ!」セレスが憤慨してフレイルを握りしめる。


「はいはい。やりますよ……やればいいんでしょ」リリアンが諦めたように息を吐き、宝箱の調査を始めた。この手の作業は、いつものことだった。


リリアンは宝箱の表面に手をかざし、慎重に魔力の流れを読み取る。すぐに顔が曇った。

「セレス、お願い」リリアンがセレスを見た。

「ディバイントラップ……」セレスが呪文をコールする。瞳が輝き、宝箱の仕掛けを透視した。


「どうだった?」リリアンが尋ねる。


「テレポーターだわ」セレスの表情が曇った。空間をねじ曲げて、使用者をどこか遠くへ、あるいは壁の内部へと転送する、最も悪質なトラップの一つだ。「一致しちゃったわね……」リリアンが呟いた。


「離れて!」リリアンが叫ぶ。周りにいたサイレント・シープとスタンド・ワンのメンバーは、その言葉の緊迫感に、びくっとしてすぐに距離を取った。



~ 空間の静寂 ~



リリアンは一つ一つ慎重に、小さなネジやピンのようなものを丁寧に外していく。テレポーター・トラップは、解除に失敗すれば、その場で周囲数メートルを巻き込み、全てを空間の彼方に吹き飛ばしてしまう。リリアンは緊張で汗だくになり、首筋に玉のような汗が流れる。


「カチャリ……」


リリアンは宝箱から外した板のようなものを、丁寧に慎重に持ち上げた。


「どいて!そこ空けて!」リリアンが何もない空間を指差し、スタンド・ワンの部隊に呼びかける。スタンド・ワンの部隊は、彼女の殺気立った声に驚き、慌てて飛びのいた。


リリアンがその板を、誰もいない空間に投げる。


「ブオォォン!」


板が空間に触れた瞬間、そこが一瞬歪んだ。周囲の空気が一箇所に吸い込まれるように渦を巻き、風が巻き起こる。そして、爆発音も衝撃もなく、静寂が戻った。リリアンは安堵のため息をついた。



~ 報酬と次の指令 ~



「よし!そこをどけ!」隊長が怒鳴り、兵士が宝箱の中身を袋に詰めだす。


「何よ!あんたたち!」セレスが怒ってフレイルを握りしめるが、リリアンが首を振って手で制止する。今は衝突すべきではない、と彼女は判断した。


隊長は内容物を確認することもなく、一枚の紙切れをカイルに手渡した。「これを取引所に持っていけ。今回の報酬だ」


カイルは、報酬の紙切れではなく、隊長を睨みつけた。「なんだ、こんなもの……」


「ここからは、別行動だ。お前らはあの扉から出ろ」隊長が、部屋の隅にあるもうひとつの扉を指さし、スタンド・ワンの部隊は、来た扉から部屋を出ていった。


「何だ?あいつら?好き放題やって出ていきやがって!」ゼオンが怒って壁を蹴る。


「悔しいけど、今はあの扉から出ましょ」リリアンが言う。


サイレント・シープの五人は、もやもやした気持ちを抱えたまま、指示された扉を開けた。


扉の奥には、Level 6 へのディメンション・シフトが眩く光っていた。「やっぱりね……」リリアンが呟く。スタンド・ワンは、この部屋を Level 6 へのショートカットとして使うために、サイレント・シープを利用したのだ。


ホログラムのフィンが現れ、「お疲れさまでしたー、それで、どうでした?」とサイレント・シープに声をかける。


「どうもうこうもねえよ!早く転送してくれ!」とゼオンが怒って言う。「ごめんね。八つ当たりしちゃって」とセレスがフィンを気遣う。


「いえ、いいです……お察しします。それではまいりますよ……」


眩い光に包まれ、サイレント・シープの五人は、理不尽な怒りを抱えたまま、さらに深層のLevel 6 の迷宮の入り口に転送された。



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