Level 2 精霊の祝福と空が見える迷宮
~ 聖典調和党の教会 ~
アルカディアの街にある教会は、単なる信仰のための施設ではない。それは聖典調和党が運営する、生活に欠かせない重要なインフラの一つとして存在していた。精霊術と精霊工学が発達したこの世界では、一般的な科学技術や医療は、それほど発展しなかったのだ。
ここでは、法力と呼ばれる精霊の力によって、治癒や治療はもちろん、重い病の治療や、蘇生までもが可能とされている。
「うっ……」
ゼオンがカイルに肩を貸し、引きずるようにして教会に入ってきた。精霊の力が濃いマジックロッド内では、歩くだけで体力が奪われるが、街に入ればそんなことはない。しかし、症状自体が良くなるわけではなく、毒による痛みや苦しみが消えるわけではなかった。
カイルは早速、教会が用意したベッドに寝かされた。
「毒の治療で120Gの寄付が必要だ」
けして安くなかったが、仲間のために五人はすぐにお金を出し合った。
そして、三人の僧侶がそれぞれオーブを掲げ、呪文を唱え始める。
「祈り……ささやき……詠唱……念じろ!」
儀式が終わり、カイルの顔に生気が戻り、血色が良くなっていった。どうやら毒は完全に抜けたようだ。
「まったく……世話の焼けるおぼっちゃんね」リリアンが安堵した表情で言う。
セレスは、まだベッドに横たわるカイルに、残っていたヒールの呪文三発を全弾放った。
「あれ?ここは……?」
まだ体力は完全には戻り切ってはいなかったが、ほとんど回復したカイルが起き上がる。
「Level 2 に入った途端これだぞ……まったく。早く元気になって、またマジックロッドに行かないとな」とゼオンが声をかける。
「全部使いきったから、残りの回復はまた明日ね。マジックロッドに入るには二~三日はかかりそうね」とセレス。
~ 成長の儀式 ~
そしてフロンティア・ハウスに一泊し、セレスの呪文が回復したところで、また彼女はヒールを放った。フロンティア・ハウスには広い中庭があり、そこでは呪文の使用が許可されていた。カイルの体力は完全に回復した。
翌日、リリアンとセレスは、またカイルを連れて教会に来ていた。
「なんだよ?もう毒は抜けてるだろ?」カイルは教会に来た理由を尋ねる。
「あなたも、ちゃんと祈りなさい。他のメンツは全員済んでるわ」とセレスが言う。
「え?必要なの?」カイルが疑問を口にする。「とりあえず、早くやって」とリリアンが言う。
カイルは渋々、僧侶がいる祭壇の前で手を合わせ、神に感謝をささげた。
するとカイルの体が光り輝き、体中に凄まじいパワーがみなぎってくるのを感じた。
「何だこれ!?」カイルは驚きの声を上げた。
「人間の体は、筋力を鍛えられるけど限界がある。でも、精霊の力、つまり法力を体に取り込めば際限なく強くなれるわ」とセレスが説明する。
「じゃあ、むちゃくちゃ祈りまくるよ!」カイルは興奮して言う。
「バカね。強くなるには、その精霊のエネルギーを固定化する必要があるの。マジックロッドに行って魔物に勝たないと、強くなるためのエネルギーが得られないのよ」とリリアンが呆れた顔で言う。
「じゃあ、マジックロッドに行こう!」カイルの目が輝く。完全にやる気を取り戻した。
「まったく……他のメンツはもう入り口で待ってるから、早くいきましょ」とリリアンが言うと、カイルとリリアンとセレスの三人は急いでマジックロッドの入り口に向かった。
~ Level 2への転送 ~
マジックロッドのディメンション・シフト前には、既にゼオンとアルウェンが待っていた。
「お久しぶりですねサイレント・シープの皆さん。カイルさんもすっかり元気になったようで、なによりです」
ホログラムのフィンが現れて、五人に話しかける。
「サイレント・シープの皆さんは、Level 1 区画のクリアを記録しましたので、Level 2 に入ってます。 Level 2 の入り口に転送できますが、いかがしましょうか」とフィンが説明する。
「もちろん、Level 2 に行くよな?」ゼオンがみんなを見渡す。カイルは力強く頷き、他のメンバーも無言で頷いた。
「じゃ、やってくれフィン」とゼオンが声をかける。
「じゃあ、いきますよ……」とフィンが言うと、サイレント・シープの五人は、再び眩い光に包まれた。
~ 眩い光の向こう側 ~
眩い光が消えたとき、サイレント・シープの五人は、Level 2 の迷宮の中にいた。
「ようこそ!Level 2 へ!……あ、一応、二度目でしたね」フィンがホログラムで現れて言う。
「あれ?待って?この前来た時は気にしてなかったけど……」リリアンが上を見上げて呟く。
「ああ、本当だな……」ゼオンも上を向いて呟く。つられるように全員が上を向く。
「空が……ある?」カイルが少し信じられないという口調で言った。
「ええ、精霊世界の中には、天体や大気がある場合もあります。要するに『空がある』場所だって存在するのです」とフィンが説明する。
考えてみれば、マジックロッドは建物や洞窟の中というわけではない。別の次元に転送されているという事なのだ。
「まあ……でも、やることは変わらないか……」とリリアンが呟くと、「おっしゃる通りです」とフィンが同意する。
「当面の目標は、Level 3 のディメンション・シフトを探すことです。まだ、Level 2 ですしね。それでは、はりきってどうぞ!」と言って、フィンのホログラムは消えた。
「まあ、しゃあねえか。前に進むか」とゼオンが歩き出す。「よし、行こう」とカイルもそのあとに続く。そして、サイレント・シープの五人は、また迷宮の奥に入っていくのであった。
「何か空があると迷宮の中って感じがしないわね」とセレスが言う。「そうね。壁も石造りだし……まるで街の中を歩いてるような感じね」とアルウェンが応じる。
~ ブラッド・ムーンの末路 ~
しばらく歩くと、石壁の中に頑丈そうな木製の扉の前に来た。「何か、誰かの家の前に来たような感じだな」とゼオンが言う。
「あれ、やらないの?」カイルが期待を込めて尋ねる。
「しょうがねえな」と言うと、ゼオンは一呼吸置いて、ドンッ!と扉を蹴破った。
「きゃあ!」セレスが悲鳴を上げる。
目の前には、扉の向こうの部屋に六人の冒険者の死体が転がっていた。
「なんだこりゃ……」ゼオンが呟く。
「宝箱の解錠を失敗したのね」リリアンが黒焦げの死体と、激しく損傷した宝箱の残骸を見て、冷静に分析する。「明日は我が身かもね」とアルウェンが縁起でもない事を言う。
「フィン!」リリアンがフィンを呼ぶ。
ホログラムで現れたフィンはこの惨状を確認し、「これは……ブラッド・ムーンの方々ですねえ。早速、担当のトラッカー・サポートに連絡して、軍の死体回収を手配させます。ご連絡ありがとうございました」と言う。
「サイレント・シープの皆様におかれましては、引き続き探索を頑張ってください。では」と言ってフィンは消えた。その口調は極めて事務的だった。
「部屋の中には天井があるんだな」とカイルがどうでもいいことに気づく。「まあ、先に進むか」とゼオンが言うと、ガチャリとリリアンが奥の扉を開ける。「じゃあ、行くわよ」とリリアンが言うと、他の四人はそのあとに続いた。
~ 他パーティーとの遭遇 ~
しばらく歩くと、通路の奥に不自然なまでの漆黒の暗闇が見えた。「空が見えてこんなに明るいのに、何であそこだけ真っ暗なんだ?」とカイルが言う。
「ダークゾーンね。とりあえず、今突っ込むのは無謀だわ。後回しにしましょ」とリリアンが冷静に判断する。
「あら、川が流れているわ」とアルウェンが言う。
川には木製の橋が掛けられており、橋の向こうには六人の人影がこちらを見ていた。
「今度は生きているパーティーね。どうする?」とセレスが言う。
「同じ冒険者同士、あいさつしに行こう」とカイルがそのパーティーに向かって腕を振りながら歩き出す。「お前ってやつは……」とゼオンが呟く。
「まあ、いいことじゃない」とアルウェンが微笑んだ。
そして、サイレント・シープは初めて、マジックロッドの中で他のパーティーと遭遇することになった。
~ レッド・ソーサーとの邂逅 ~
「おーい!」
カイルは橋を渡り、マジックロッドで初めて出会うパーティーに近寄っていった。相手は六人組。自分たちと同じく、前衛が三人、後衛が三人というバランスの取れた構成に見えた。
「俺、サイレント・シープのカイルって言うんだ。よろしくな」
カイルはフレンドリーに手を差し出したが、パーティーの先頭に立つ男は腕組みをしたまま、その手を冷たく無視した。
「なんだこいつ……」カイルはその態度に少しイラっとした。
そこにサイレント・シープのあとの四人が追い付いてきた。
後ろの四人を一瞥した魔法使いらしき女性が、「無視するのも失礼だから、名乗ってあげたら?」と男に言う。
「どうしたんだ、ミナ?ま、いいか。俺たちはレッド・ソーサーだ。俺はライオットだ」と男は名乗った。その声には、カイルたちを見下すような、明確な威圧感が含まれていた。
「あなたがライオットで?そっちのあなたがミナ?だっけ?」リリアンが聞き返す。
「待て、聞くのはこっちのほうだ」ライオットはさらに威圧的に言葉を重ねた。
「メダリオンを知ってるか?」
「知らねえなあ」ゼオンが答える。ライオットとゼオンは同じくらいの体格だったが、装備している剣や鎧は明らかにライオットのほうが上等で強そうだった。
「こんなやつら……時間の無駄だ。行くぞ」
ライオットが言うと、あとのレッド・ソーサーの五人も無言でついていく。
彼らが通り過ぎる際、ミナと呼ばれた女性魔法使いが、アルウェンの耳元に聞こえるか聞こえないかの微かな声で呟いた。
「永劫の凍星……こんなところで会えるとはね……」
それを聞いたアルウェンは、それまで浮かべていた穏やかな微笑みを消し、らしくない鋭い目線でレッド・ソーサーたちの後ろ姿を睨んだ。
「なんだ!あいつら!ムカつく!」カイルが憤る。
「言わんこっちゃない。冒険者なんて、あんなもんよ、ほっとこほっとこ」セレスが気持ちを切り替えるように促す。
「どうしたの?アルウェン?」リリアンはアルウェンに異変を感じた。
「ふふふ……何でもないわ。いきましょ」アルウェンは、すぐにいつものように微笑んだが、その瞳の奥には、どこか遠い過去を見つめるような冷たさが宿っていた。
~ シークレット・ドアの先に ~
しばらく歩いていくと、小部屋のドアが連なる路地に入った。そこにはオークやゴブリン、ラットバットなど戦う敵に事欠かなかった。彼らは立て続けに戦闘をこなし、気が付けば、カイルの革袋の中はアイテムでパンパンに詰まっていた。
「ここは稼げるなあ」とカイルがほくそ笑む。「しっかし、傷だらけだなお前。食らいすぎだよ」とゼオンが言う。
「そう言うお前だって血が垂れてるぞ」とカイルが口をとがらせて言い返す。
頭からつつーと垂れてきた血を舐め、「あれ?ホントだわ」とゼオンが言う。
セレスがカイルとゼオンにヒールを一発ずつ放つ。「ここじゃキリがないから一旦戻らない?」とセレスが提案する。
「そうね。みんなの革袋もいっぱいで持ちきれなくなってきてるし」とアルウェンも微笑みながら同意する。
「ちょっとだけ待って……」と珍しく沈黙を貫いていたリリアンが、コンコンと壁を叩きながら言った。
「確かにドアが等間隔で並んでて、そこだけ壁になってるけどさ……何かあるの?」とセレスが聞く。
「何か気配を感じたの……」
リリアンが壁の一部を静かに押す。すると、壁の石がひとつだけ引っ込み、ゴトン!という音を立てた後、ガラガラと石が崩れ落ちた。そこにシークレット・ドアが現れた。
「どうよ?」とリリアンが得意げな顔をする。
「しょうがないなあ。そこだけ覗いていくか」と言ったゼオンの顔は、中を見たくてたまらないという、興味津々な表情をしていた。
「ガチャリ」言ってる間に、カイルがドアを開ける。
中に入ると祭壇が一つ。その中央に金色のメダリオンが飾られていた。
「あいつらが言ってたの、もしかしてこれ?」リリアンがメダリオンを手に取る。
「まあ、それはもう俺たちのものだ。持っていこう」とゼオンが言う。
「そうね。じゃ、戻る?」リリアンがセレスを見る。セレスが無言で頷く。
「フィン!帰り道、見せて!」リリアンがフィンを呼ぶ。
「承知致しました」フィンが迷宮のホログラムを展開する。
こうして、サイレント・シープの五人は、アルカディアの街に一旦戻っていった。
~ 冒険者のルーティーン ~
「これください!」
カイルは新しいロングソードをカウンターに置く。さらに鎧も、より防御力の高い鎖帷子に買い替えた。カイルは自分が買ったロングソードを見て惚れ惚れとしている。ゼオンも既にロングソードと鎖帷子は装備済みだ。
「男って単純よね」と言ったリリアンの弓もショートボウからロングボウになっていた。
「そうよねー」と相槌を打つセレスの武器もクラブから、より頑丈で破壊力のあるメイスに変わっていた。
「ふふふ……」と言って微笑むアルウェンには、特に買うものは見当たらなかった。彼女は、防具は精霊術の妨げになるという昔からの信念があるのかもしれない。
「じゃあ、明日もマジックロッドに集合ね、おつかれ」とリリアンが言うと、「バイバーイ」とセレスが手を振り、さらにそのあとにアルウェンも続いて取引所から出ていった。
「またフロンティア・ハウスで、酒でも飲むか」とゼオンが言うと、「俺も行くよ」とカイルが付いていく。既にセレスの回復魔法により、体力は完全に回復していた。
またソファで寝て起きて、教会で祈ってから、マジックロッドの入り口に集合する。もう冒険者たちのルーティーンは出来上がっていた。
~ 慣れからくる油断 ~
「さあ!本日もLevel 2 の探索の始まりです。はりきってどうぞ!」といつものフィンの決まり文句。
「よくないなあ、マンネリは」とゼオンが迷宮の奥に向かって歩き出す。「結構、強くなったからな、俺たち」とカイルも後に続く。
「こうやって慣れてきた時が危ないのよね」とリリアンもついていく。「まあ……でも、まだLevel 2 程度だしねえ」とセレスが言う。
「ふふふ……」といつものようにアルウェンが微笑みながら、あとをついていく。幸か不幸か、いきなり無謀な前進をしない、石橋を叩いて渡るようなパーティーだからこその安定感からくるマンネリだった。
~ クリーピングコインの襲撃 ~
ドンッ!と音を立てて扉を蹴破る。「ここには、まだ来てないよな……ん?」
ゼオンが部屋の奥に進むと、床には金貨や銀貨が散らばっていた。「おお……金が落ちてる」とゼオンがにやける。「すげえ!ラッキー!」カイルもはしゃぐ。
しかし、後ろからアルウェンが冷静な声で告げた。
「クリーピングコインが二十体よ。気を付けて」
次の瞬間、散らばっていたコインたちがカタカタと音を立てて浮かび上がり、ものすごいスピードで突進してくる。
コン!カン!バシッ! 高速で飛んでくるコインがサイレント・シープの五人を襲う。
「うわ!」「きゃあ!」「いてっ!」メンバーが悲鳴を上げる。「もう!どうしたらいいんだ!」カイルがロングソードを構えるが、小さすぎる敵に当てるのは難しい。
そしてクリーピングコインたちが一か所に集まり、最後の止めの攻撃を狙っている。
しかし、その瞬間をアルウェンは冷静に逃さなかった。
「ファイア……」
アルウェンが呪文をコールすると、業火がクリーピングコインたちを一瞬にして焼き尽くし、チャリン、チャリン、と力を失ってまた床に散らばった。
「ふう……危なかったわね。アルウェン、また新しい呪文を覚えたの?」とリリアンが言う。
「私の場合……覚えたというより、思い出した……が正しいかな」と言ってアルウェンは微笑んだ。その笑みには、何かを隠すような、意味深な色が含まれていた。
「まあ……これで回復呪文がなくなるわけね……マンネリとか気が緩んでたから、天罰が当たったんだわ。またすぐ街に戻らないと」セレスが落胆した声で言う。
「ビジュアル的には華やかだけど、冷静に数えると、全部拾っても三百G~四百Gってとこかしら?」とリリアンが言う。
「案外しょぼいな」と言いつつ、ちゃっかりコインを拾い集めるカイルとゼオン。
こうしてサイレント・シープの五人は、マジックロッドに入ったばかりなのに、また街に戻っていくのであった。
~ エルフのインフラビジョン ~
「結局、ここね」とリリアンが腕組みしながら言った。
もうLevel 2 の迷宮も、ほとんど歩きつくした。残るは、目の前に広がる漆黒の暗闇、ダークゾーンだ。一歩踏み入れただけで、魔力の濃さが変わるのが肌で感じられる。
「どのみち進むしかないんだから、うだうだしてたって仕方ない」
そう言うと、カイルは暗闇の中に一歩踏み込んでいった。「仕方ないわね……」とセレスが言うと、残る四人も暗闇の中に踏み入れる。
ゴンッ、いってえ! ゼオンがすぐに壁にぶつかる。
暗闇に目が慣れてきて、かろうじて周りの動いている者の動きはぼんやりとは感じるが、暗闇過ぎて何がなんだかわからない。皆が混乱する中、何事もないかのように、すーっと前に進む人影がひとつ。
「こっちよ……」
その人影がリリアンの手を掴む。「アルウェン?」
リリアンはそう言うと、とりあえず近くにいたゼオンの手を掴む。ゼオンはカイルの手を掴み、カイルはセレスの手を掴んだ。
「エルフのインフラビジョンね!」リリアンが言った。暗闇の中でも物が見える、エルフやドワーフが持つ特殊能力だ。
「ふふふ……」暗くて全く見えないが、アルウェンはいつものように涼しい顔で微笑んでいるのだろう。
アルウェンの先導で、パーティーはまるで一本の綱のようになり、暗闇の道を進んだ。
~ 砲撃の荒れ地 ~
しばらく、暗闇の中を歩いていくと、地鳴りのような振動を感じた。次の瞬間、ドオォォン! ボカァァァン! 凄まじい爆発音や炸裂音が響き渡る。
「うわあ!なんだ?」カイルがうろたえる。「何が起きているんだ?」暗闇の中でゼオンも不安な声を上げる。
「どうする?進む?戻る?」というアルウェンの問いかけに、「進む……しかないわよね」とリリアンが答える。「そうだな。ここまで来たら行くしかないよ」とカイルも同意する。
やがて、暗闇を抜け、少し広い場所に出る。その前に広がるのは広大な荒れ地。そこに高い砂煙が起こり、凄まじい轟音と地鳴りが響く。
「なんだ?なんだ?」カイルが驚きの声を上げる。
どうやら、荒れ地の奥のほうから、大砲で砲撃されている感じだった。地面が捲れ上がり、土塊が飛散している。よく見ると、何組かのパーティーの死体が転がっていた。
「んん……?」リリアンが何かを見つけ、その動きを凝視している。
それは、以前に出会ったレッド・ソーサーの一行だった。激しい砲撃の中、ライオットを先頭にして、まるで遊歩道でも歩いているかのように涼しい顔で、砲撃を避けながらまっすぐ進んでいく。
「フィン!これはどうするの?」とカイルがフィンを呼ぶ。
フィンのホログラムが現れ、「ひゃあ!これは……。とにかく、この砲撃を止めないと、全滅したパーティーの死体回収もままなりません」とフィンもうろたえて言う。
「仕方ないわね……行くわよ」リリアンが決意を固めたような口調で言った。
「嘘だろ!?」ゼオンが怖気づく。「ここは、リリアンを信じてみよう」カイルがそう口にする。「え?大丈夫なの?」セレスが聞く。
「……多分」リリアンが呟いた。「ホントかよ……」ゼオンが観念したような表情をする。「行くぞ!」とカイルは気を引き締める。
「ふふふ……」こんなときでもアルウェンは微笑んでいる。
リリアンを先頭にして、激しい砲撃の中を歩いていくサイレント・シープの五人。
「まずは右……そして左……まっすぐ行って……そこで中央……」
リリアンは、レッド・ソーサーの足取りを一瞬で記憶し、その記憶を頼りに、彼らが通った安全な経路を辿って、慎重に前に進んでいった。
~ 砲台への突入 ~
容赦なく激しい砲撃が降り注ぐ中、慎重に歩みを進めるサイレント・シープの五人。
しかし、どうやら砲撃がこちらを狙っているわけでもないことに気づき始めた。ただ、荒れ地に向かってやみくもに砲撃している……そんな表現がぴったりだ。
少しだけ周りを見る余裕ができる中、カイルが何かに気づいた。「あいつら……!」カイルの目線の先に、レッド・ソーサーの六人の姿を遠く小さく捉えた。
「右に入っていったわね」とリリアンが言う。「おそらく、あの向こうにLevel 3 のDSがあるんだろうな」とゼオンが言う。
左側に、ようやく砲撃する砲台の並びが見えてきた。
何とか砲台の横に回り込んだサイレント・シープの五人。この角度からは砲撃は当たらない。
「ふう……ここに来たら、とりあえず安全ね」とリリアンが安堵のため息をつく。「じゃ、どうする?」リリアンはどうしたいか、みんなに確かめた。
「そんなの、決まってんだろ」とゼオンが言う。「俺は、あそこに突入するぜ」とカイルのロングソードが、砲台が並ぶ後ろにある扉を指した。
「あんたたちって最高ね。そうこなくちゃ」とセレスが言う。「ふふふ……」とアルウェンが微笑む。
「みんな、覚悟はいい?」リリアンが最終確認をする。四人が無言で頷く。「じゃ、いくぜ!」ゼオンが勢いよく扉を蹴り上げた。
中には鉄球の砲弾が積み上がり、軍服を着たゴブリンたちが大砲に砲弾と火薬を詰め、火のついたトーチで火をつけている。指揮官らしきゴブリンがこちらに気づき、部下のゴブリンに指図をした。
軍服を着たゴブリンたちが軍刀を構え、一斉にこちらに切りかかってきた。
問答無用で先頭のゴブリンにブレスを浴びせるゼオン。炎は一瞬でゴブリンを黒焦げにした。さらに、後ろから飛んできたリリアンの矢が、その横のゴブリンの頭を射抜く。
次の瞬間、身を低くして踏み込んだカイルが、ゴブリンの首筋を切り裂き、そのまま反転して、そのとなりのゴブリンの胸を切り裂く。それと同時に高速で半透明のセレスが飛び出し、もう一体のゴブリンの頭をメイスで叩きつぶす。
ゼオンが勢いをそがれたゴブリンの群れに突進し、次々に切り裂いていく。そこにカイルも加勢する。さらにセレスも幽体離脱で殴りに行く。アルウェンは冷静に、その後ろにいるゴブリンたちにファイアの呪文を浴びせた。
どさくさに紛れて逃げようとする指揮官のゴブリンをリリアンは見逃さない。逃げようとするゴブリンの背中から近づき、レイピアで背中から胸まで貫いた。
一瞬のうちにゴブリンの軍隊を葬り去ったサイレント・シープの五人。
パチパチパチパチ。ホログラムのフィンの拍手が響き渡る。「素晴らしいご活躍です!フロンティア連合からも感謝の意が届いております。只今よりパーティーの回収作業に向かうそうです。砲台を撃破して頂き、誠にありがとうございました!」とフィンが言った。
こうしてサイレント・シープの五人は、Level 2 の最後の試練を突破した。




