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マジックロッド  作者: さだきち


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Level 1 マジックロッド突入


~ 扉を隔てた世界 ~



マジックロッドとは、単なる洞窟ではない。それは、精霊術と精霊工学を融合させ、この世と精霊界を結びつける、先進的で高度な技術の結晶だ。


迷宮の入口がぽっかりと空いているわけではない。そこには「ディメンション・シフト(DS)」という、魔力で生成された次元間転送装置が設置されており、これを介してのみ、冒険者は精霊世界の境界に作られた「泡」へと転送される。


しかし、その技術は諸刃の剣だった。もし精霊世界とこの世が意図せず繋がってしまうようなことがあれば、精霊界の強力な魔力がこの世に流れ込み、世界は壊滅的なダメージを受けかねない。扱いを間違えれば、世界を崩壊させかねない非常に危険な技術であるため、その取り扱いはアルカディア軍によって厳格に管理されていた。


だが、実際にマジックロッド内で活動する冒険者パーティーを管理しているのは、議会の中の派閥、フロンティア連合(FC)の配下にあるフロンティア・トラッカーという組織であった。



~ 部隊名「サイレント・シープ」~



リリアンとセレスは、フロンティア・トラッカーの受付での手続きを終え、カイルたちのところに戻ってきた。


「適当に決めといたから、部隊名」リリアンが事後報告のように言う。


「ええ!?相談しろよ!」カイルは憤る。自分の初めての冒険の看板となる名が、適当に決められたことに納得がいかない。


「お前って、そういうのこだわるタイプなの?」ゼオンがカイルを見て言う。


「勝手にしろ!」カイルはムスッとして、もはや口論するのも面倒だと顔を背けた。


「それで…部隊名は何にしたのかしら?」アルウェンが優雅な仕草で聞いた、そのときだった。


DSの方角に立つアルカディア軍の門番から、太い声で呼ばれた。


「サイレント・シープ! 来い!」


「うわ……また弱っちそうな名前だなあ。『静かな羊』って。俺たちのことなの?」ゼオンが不満を漏らす。


「ほら見ろ」カイルは、ゼオンに向かって呆れた顔で言うと、門番の方に歩き出した。


「部隊名なんて何でもいいでしょ。早くマジックロッドに入りたいんだから」リリアンも後に続く。「そうそう。また何だかんだここで長引いても面倒だしね」セレスがリリアンとカイルの間に立ち、歩調を合わせた。


ゼオンは「チッ」と舌打ちしたが、仕方なく後に続く。


「いいじゃない、サイレント・シープ。私は好きだけど」アルウェンは最後に、楽しげな表情でついていった。



~ ディメンション・シフト ~



「よし、ここで止まれ!」門番は名簿を見ながら確認する。「五人全員いるか?」


リリアンが「全員揃ってます」と応じる。


「よろしい」門番は右手を高く上げ、奥の職員に合図を送った。


五人は、高さ二メートルほどの、魔力で生成された光の柱をまとうディメンション・シフト(DS)装置の前に近づくよう指示された。


そしてサイレント・シープの五人が、DSの眩い光に包まれる。光で何も見えなくなり、耳鳴りのような音が響き渡り、やがて光が消えていく。周囲が見え始めたとき、彼らは「迷宮」の中に立っていた。


そこは、岩肌と精霊エネルギーの青い光が満ちる、薄暗い空間だった。


「ここがマジックロッドか……」


訓練期間を終え、ついにこの世界を形作った技術の核心に立ったカイル・ブレイク。その胸には、抑えきれないほどの衝動と緊張が沸き立っていた。



~ ホログラムの男 ~



「さて、サイレント・シープの皆さん!マジックロッドにようこそ!」


その時、カイルの目の前に、突然、上半身だけが浮かんでいる青年が話しかけてきた。


「うわあ!!何だ!?」


あまりのことに、カイルは思わずショートソードを抜き、身構えた。


それを見たリリアン、ゼオン、セレス、そしてアルウェンから大爆笑が起こる。


「そうか……カイルは初めてだったか……」ゼオンは笑いが止まらない様子で、肩を震わせた。


「何だ!驚かせやがって!」カイルはショートソードを収め、上半身の男を睨みつける。


「これは……驚かせてすみません」男は少しバツの悪そうな顔をした後、すぐに表情を引き締め、自己紹介を始めた。


「私は、あなたたちの専属トラッカー・サポート担当、フィン・キャリブレイトと申します。以後、お見知りおきを」



~ トラッカー・サポートの限界 ~



「えー、こほん」フィンはホログラムの中で咳ばらいをひとつする。「僭越ながら、私のほうからマジックロッドの構造についてご説明させていただきます」


「いまこの現在地は、最も入口に近い『Level 1 』と呼ばれるフロアになります。ご存じの通り、マジックロッドとは精霊エネルギーを希釈した泡であり、本来であれば、人間など一瞬で消滅してしまう精霊世界の中で、あなたたちは、いま生きてこうして立っています」


カイルは頭の中で(全然ご存じじゃねえよ)と呟きつつ、精霊世界に立っているという恐ろしい事実を突きつけられ、足がすくむような感覚を覚えた。


フィンはホログラムを操作し、Level 1 の青く不確かな地図を浮かび上がらせた。「マジックロッドの内部は、常に精霊の力で満たされています。だからこそ、私たちがあなたたちに指示を出したり、現在地を共有したりするために、ゴーグルやヘッドギアは必要ありません。空間の魔力そのものを媒体として、音声と映像ホログラムを送り込みます」


彼は続けて、最も重要な点を強調した。


「ただし、私たちは内部のリアルタイムな状況までは把握できません。私たちは、外側から魔力の濃淡のデータを見ているに過ぎません。魔物の配置、トラップ、そしてディメンション・シフト(DS)の正確な位置は、あなたたち自身が踏み込んで初めて確定する情報です」


ゼオンが腕を組んで尋ねた。「おい、要するに、俺たちが道に迷ったときくらいしか役に立たねえってことか?」


「……その通りです。ここはLevel 1 。まだ精霊のエネルギーが薄く、生成される魔物も弱く、手に入るアイテムも価値が低い。当面の間、サイレント・シープの目標は、Level 2 に通じるディメンション・シフトを探すことになります」


フィンはホログラムを収束させ、再び上半身だけの姿に戻った。


「ああ、忘れてました。私を呼び出すときは、私の名前を呼んでください。『フィン』で大丈夫です。それでは、良いマジックロッド・ライフをお過ごしください」


そう言い残し、フィンのホログラムはパッと光を放ち、消えてしまった。



~ 最初の行進 ~



「じゃあ、先に進むわよ」リリアンが言った。


「え?何か作戦とか打ち合わせとかしないの?」カイルは立ち止まったまま聞く。彼の訓練場の常識では、まず状況確認と作戦立案が必須だった。


「そんなもん、先に進んで見ないと状況もわからないし、作戦もへったくれもないわよ。フィンも言ってたでしょ」リリアンは呆れた顔をする。


「大体ねえ、あんな説明、初心者のカイルがいなかったら要らないって言ってたところなんだから。ほら行くわよ」リリアンはそう言って、慣れた足取りで薄暗い迷宮の通路へと歩き出した。


「ちぇっ、俺のせいかよ……」とカイルは不満を漏らしつつも、慌てて彼女に付いていった。


「まあまあ。俺だって毎回、あんな説明聞いてないからな。もう内容忘れたよ」ゼオンは、慰めなのか何なのかわからない言葉を、カイルの背中に投げかける。


「人の話くらい、ちゃんと聞いてよね」セレスが呆れ顔でゼオンに突っ込む。


「ふふふ……」と微笑みながら、アルウェンも最後尾から続く。彼女の優雅なローブ姿は、荒涼とした迷宮の風景の中で、異様なほど目を引いた。


こうして、サイレント・シープの五人は、いままさに、マジックロッドの迷宮の奥に足を踏み入れていった。



サイレント・シープの初陣


~ 最初の扉 ~



サイレント・シープの五人は、ディメンション・シフトから程近い、通路の突き当たりにある古い石造りの扉の前まで来た。


「ほら、ここよ。準備はいい?」リリアンが立ち止まり、レイピアの柄に軽く手をかける。


「え?準備?なんのこと?」カイルはショートソードを構え直しながら尋ねる。彼の頭はまだ、訓練場のマニュアル思考から抜け出せていなかった。


「だいたい、扉を開けると魔物が出るのよ」セレスが、クラブを握りしめながら答える。


「え?絶対出るものなの?」カイルがまだ納得できない様子で問い返す。


「出ないときは出ない」ゼオンが面倒くさそうに吐き捨てる。


「何を準備するんだ?」カイルの問いに、ゼオンは「あー、もう、面倒くせぇ」と、言葉の代わりに行動で示すことにした。


ゼオンは勢いよく扉に突進し、ドラコン族の膂力で扉を蹴破った。


「通路側は狭い!早く中に入って陣形を整えて!」セレスが叫ぶ。彼女は既に僧侶として最悪の状況を予測している。


慌てて部屋の中に飛び込む五人。言われた通り、部屋は通路よりも広く、五人が戦闘陣形を組むのに程よいスペースがあった。



~ 炎の咆哮 ~



部屋の奥から、低く重い「うごめく音」が聞こえてきた。


岩陰から現れたのは、人型の影。犬の顔をした毛むくじゃらの生物が、錆びついた剣と盾を構えている。


「コボルドよ。六体いるわ。気を付けて」


後方から、穏やかなアルウェンの声が響く。


「識別できるのね。さすが魔法使い」リリアンが小さく呟いた。


カイルとゼオンが前衛で前に出る。体格差を活かし、カイルは盾を左に、ゼオンは右に寄せて、通路からの突入を防ぐ壁を作る。その後ろにセレスとアルウェンが下がる。リリアンは一旦前衛から下がり、弓を構えた。時期は違えど、いずれも訓練場で長い訓練を積んだ者たちだ。この程度の連携の動きは、いちいち説明しなくても、即座に体が動いた。


カイルが低く身構え、飛び出そうとした瞬間、ゼオンが手でカイルを制した。


「なんだ?」カイルがゼオンを見る。ゼオンは胸を膨らませ、目いっぱい息を吸い込んでいた。彼の喉元が、内部の熱を帯びたように赤く光る。


次の瞬間、「ゴオォォ!」と音を立て、炎の息がコボルドの一体を襲った。コボルドは一瞬のうちに丸焦げになり、悲鳴も上げられずに崩れ落ちる。


「凄い威力だ……」カイルが呆気に取られていると、ゼオンが「いくぞ」と低い声で言い、カイルはそれに頷いた。



~ スピリットの奇襲 ~



残る五体のコボルドが、炎の匂いに刺激され、一斉に襲いかかってきた。


先頭の一撃を、カイルは角度を付けた盾でいなす。体勢が崩れたところで、カイルは素早くショートソードで魔物の肩を切りつける。痛みで肩を庇おうとしているコボルドの首をはねた。カイルは一体のコボルドを仕留めた。


別のコボルドがゼオンに切りかかってきた。ゼオンは剣を絡めとり、剣先で手首を切りつけた。コボルドの盾を力任せに弾き飛ばし、膝元を切りつける。体勢が崩れたコボルドの胸を、ゼオンのショートソードが貫いた。ゼオンもまた、一体のコボルドを仕留めた。


リリアンがコボルドに弓を放ち、一撃は腹に命中する。痛みで苦悶の表情を見せるが、コボルドの動きはまだ止まらない。


そのとき、カイルの体を何かが高速ですり抜けていく。


「わあっ!なんだ!?」カイルが思わず声を上げる。


セレスの体が、カイルの体を半透明の残像のようにすり抜け、クラブで腹を負傷したコボルドの頭を殴りつけた。


そして、すり抜けたセレスは、すぐ後ろで目を閉じて眠っているかのようなセレスの実体に戻っていく。クラブで殴られふらついているコボルドの首筋を、リリアンが素早くレイピアで突き刺して仕留めた。



~ 魔法使いの戦術 ~



アルウェンは戦況を冷静に見つめていた。彼女は知っている。強力な呪文は破壊力があるが、それは同時に仲間をも傷つける諸刃の刃にもなりえる。むやみやたらに呪文を連発していては、仲間もろとも全滅させかねない。


「スリープ……」


アルウェンは静かに呪文をコールする。呪文を習得する際は、触媒や儀式、長い詠唱が必要だが、一度習得した呪文は一言のコールで即座に発動する。アルウェンのコールと共に、魔力の波動が広がり、残る二体のコボルドはその場でふらつき、床に倒れて眠ってしまった。


カイルとゼオンは、眠っている二体を落ち着いて仕留める。「さっきの何だったの?」カイルは驚きの表情でセレスを振り返る。


「あれ?言ってなかったっけ?私はスピリットよ」セレスは穏やかに言う。


「スピリット?」カイルはまだ意味が分からないという表情を見せる。


「要するにスピリットって種族は、幽体離脱して敵を攻撃できるのよ」リリアンがまとめてくれた。


「そうそう。ただ、離れている間は実体部分が無防備になるから、あまり遠くには離れられないけどね」とセレスが付け加える。


こうしてコボルドたちは全滅した。サイレント・シープのデビュー第一戦は、華々しい完勝で幕を閉じたのだった。彼らの能力と連携は、想像以上に強力だった。



~ 戦利品とエルフの知識 ~



「はいはい!みんな探して探して!」リリアンが手を叩いて、戦後の作業を促す。


「え?何を探すの?」カイルが聞くと、ゼオンは呆れたように吐き捨てる。「そりゃあ、お宝に決まってんだろ。何しに来たんだお前は?」


セレスとアルウェンも何かを探すように、うろうろと部屋の中を動き回る。「え?そういうもんなの?」カイルも渋々、あてもなく何かを探し始めた。


「でもさ……あのブレス強力だったな」カイルがゼオンに感嘆の声を上げる。「おう」と一言、ゼオンはにやりと笑う。


「なんで、一発だけなの?」カイルが素朴な疑問を口にする。「なんでってお前……そんなすぐにガスが溜まらねえからな」ゼオンが面倒臭そうに言う。


「え?あれオナラなの?」カイルが聞くと、「口から屁をこくわけねえだろアホ!」ゼオンが若干イライラする。


「ああ、そうか。オナラじゃなくてゲップか」カイルが真面目な顔で呟いた。


「だーかーら、違うって言って……」ゼオンが声を荒げかけたそのとき、「あった!みんな来て!」とリリアンの呼ぶ声がした。


リリアンのほうに集まると、そこにはやや小さめの宝箱が置いてあった。五人は宝箱を取り囲む。


リリアンが何か棒きれのようなもので宝箱を、色んな角度からツンツンしている。カイルには、そう見えた。「何やってんの?早く開けないの?」カイルが聞く。


「いま、トラップの調査してんの。こんなの舐めてたら、高レベルのパーティーでも全滅する事もあるんだからね。黙って見てなさい」セレスがカイルに注意する。


「セレス、『ディバイントラップ』の呪文はまだなんだっけ?」リリアンがセレスに聞く。「ごめんね、まだ覚えられないの」セレスが答える。


「うん、じゃ、やるわよ。カイル、そこどいて」リリアンがカイルに言う。「え?オレ?」カイルが後ろに下がろうとすると、「そうじゃなくて。右か左に。とにかくその方向を空けて」リリアンが指示し、カイルは渋々それに従った。


「いくわよ」リリアンが宝箱のフタを少しだけ持ち上げる。ピンッと何か針のようなものが勢いよく飛び出し、壁に突き刺さった。アルウェンがその針に少し触れ、「毒針ね」と冷静に言う。


「よし、開くわよ」リリアンが宝箱を開ける。中にはナイフが二つと松明がひとつ入っていた。


「はぁ……相変わらずしょぼいなあ……二束三文にもならねえ……」ゼオンが落胆して言う。「まあ、Level 1 なんだから仕方ないでしょ」セレスも諦めたように言う。


「あとは、ゴミばっかりか。しょうがないわね」リリアンがナイフと松明だけ取り出し、フタを閉めようとした。


「待って!それ、ゴミじゃないわ」アルウェンがリリアンを制する。「なに?なんなの?」リリアンが驚いて聞く。


「コウモリの羽に、魔物の牙……折れた短剣に、壊れた十字架……これ、全て魔力を帯びた『触媒』となるものよ。精霊術の儀式にも使えるし、取引所にも売れるわ」アルウェンが諭した。


「え!?そうだったの!今まで全部捨ててたわ!」リリアンが驚く。「えー!私たちもそうだったわ。バカみたいじゃない」とセレスも続く。


「へぇ、そうなのか。何か宝の山に見えてきたな」ゼオンが言う。「じゃ、とりあえず革袋に移そう」カイルが持ってきた革袋に取得したアイテムを入れ始めた。



~ 帰還と能力の制約 ~



「まあ、とりあえず、一旦街に戻る?」リリアンが提案する。「え!?こんなんで、もう戻るの?」カイルが驚いた口調で言う。


「まあ、俺らの力量じゃ、それが無難だな。あっさり勝てたのも運みたいなもんだし」ゼオンが現実的な意見を述べる。


「そう言えば、さっきスリープを使ってたけど、あと何発使えるの?」セレスがアルウェンに尋ねる。


「全部で四発使えるわ。スリープを使ったから、残り三発ね」アルウェンが微笑む。「えー、そんなもんなのか」カイルが言う。「ブレスも、もう打ち止め?」カイルがゼオンに聞く。


「ブレスは、もうそろそろ吐けそうだけど。まあ、一戦闘に一回ってとこかな。でも、ブレスだけあっても、しょうがねえからなあ」ゼオンが言う。


彼らの会話から、魔力や特殊能力には厳しい制約があることが明らかになった。無謀な連戦は、このパーティーにとって非常に危険だ。


そして、サイレント・シープの五人は、来たときのディメンション・シフトの場所に戻ってきた。「じゃあ、DSにみんな近づいて」とリリアンが声をかけると、五人がDSに近づく。


「フィン!いる?」リリアンが呼ぶと、「何か御用でしょうか?」とフィンのホログラムが再び現れる。


「街に戻してちょうだい」とリリアンが言う。「承知致しました……それでは、みなさん、お疲れさまでした。またのお越しをお待ちしております」と言ってフィンのホログラムが消える。


そして眩い光に包まれ、サイレント・シープの五人は迷宮の外、マジックロッドの入り口に戻った。



~ アルカディアの夜 ~



アルカディアの街に戻ってきたサイレント・シープの五人。彼らが真っ先に向かったのは取引所だ。


「これ、お願いします!」カイルはカウンターテーブルに革袋を置く。


「少々お待ちください」カウンターのお姉さんがにっこり微笑むと、奥から屈強そうな男の係員が現れ、革袋を持って奥に持っていった。


しばらくすると、感じの良さそうなおばちゃんが奥から現れ、カウンターのお姉さんに紙と布袋を渡し、サイレント・シープの五人に微笑みかけ、ぺこりと頭を下げて、奥に戻っていった。


カウンターのお姉さんが、紙に書かれた内容を読み上げる。「ナイフが25G、松明が10G、コウモリの羽が80G、魔物の牙が80G、折れた短剣が40G、壊れた十字架が40Gの……合計300Gになります。お受け取りください」と言ってお姉さんがにっこり微笑んで、布袋を差し出す。


「ありがとうございまーす」と言ってリリアンがカウンターから受け取り、「はーい、本日の報酬ね」と言って、一人一人に60Gずつ均等に手渡していった。


最後に自分の60Gを取り出し、空になった布袋をお姉さんに返す。すると、お姉さんはにっこり微笑み、「またこれに入れて持ってきてくださいね」と言って、新しい革袋を渡す。


お姉さんから革袋を受け取ったリリアンが、「じゃ、これはあなたが持ってて」と言って、カイルに手渡した。


「あんな羽とか牙とか、そんなに高く売れるのか。びっくりしたぜ」ゼオンが呟く。「アルウェンさまさまね」とセレスが言う。「ふふふ……」とアルウェンが微笑む。


そんな事を言ってる間に、「これください」と言って、早速カイルが商品棚から持ってきた革鎧を購入する。「50Gになります」お姉さんがにっこり微笑む。


「私もスリングショットを買っていこうかしら」とアルウェンも買い物をする。スリングショットは30Gだった。


「さーて、これからどうする?」リリアンが尋ねる。「ちょっと街ブラしてから、フロンティア・ハウスに泊まるわ」とセレスが言う。「それ、いいね」とリリアンが言う。


「じゃあ、各自で自由行動にしましょ。明日10時にマジックロッドに集合ね」


サイレント・シープの五人は取引所を出ると、バラバラに別れていった。


「お前、これからどうすんの?」カイルがゼオンに聞く。「どうするって、フロンティア・ハウスで飯食うけど?一緒に行くか?」とゼオンが言う。「じゃ、一緒に行くよ」とカイルが言う。どのみち右も左もわからない初めての経験だ。知ってる人についていくのが一番だった。


二人はフロンティア・ハウスに着くと、酒と料理を頼み乾杯をし、食事を始めた。食べながら会話が進む。


「今夜はどうするの?」カイルが聞く。「ここのロビーのソファで寝るよ」とゼオンが言う。


「え?部屋を取らないの?」カイルが尋ねる。


「部屋なんか……簡易寝台でも10G取られるしな。クソ狭くてソファのほうが寝心地いいくらいだから。エコノミーはまともだが、200Gは高くて払ってられん」とゼオンが答える。


「へえ、そうなんだ。リリアンたちは、どうするのかな」カイルが疑問を口にする。「女どもも、普通にソファで寝るぜ。ここでは」とゼオンが言う。


「え!?そうなの?」カイルが驚く。


「俺たちサイレント・シープで登録してるだろ?その場合、シャワールームを借りるだけなら無料だし、毛布も無料で貸してもらえる。フロンティア連合公認なのさ」とゼオンが言う。


「ロビーのソファって混まないの?」カイルが聞く。「まあ、いっぱいいるはいるけどな。でも、ここのロビーは無駄にクソ広いから、必ずどこかは空いてるよ」とゼオンは答える。


カウンターテーブルに並べられた皿は、ほとんど空になっていた。「じゃあ、俺はシャワーに行くけどどうする?」とゼオンが尋ねる。「じゃ、俺もいく」とカイルもついていく。


こうしてフロンティア・ハウスの夜はふけていった。



~ 隠された扉と毒の試練 ~



「さあ!サイレント・シープのみなさん!早いもので、もう10回目のご入場となります!その間、全滅はなし!死亡者もなし!素晴らしい!」と、担当エージェントであるフィン・キャリブレイトの溌剌とした声が、迷宮の石造りの通路に響き渡った。


「うるせえなあ……でもって、大げさだしよ」と、ゼオンがぼそりと呟く。

「まだ、Level 1 だし……こんな行って戻ってを繰り返してるの、私たちくらいじゃない?」と、リリアンが呆れたようにため息をついた。

「でも、死んでないのはいいことよ」と、セレスが冷静に言う。

「そうね」と、アルウェンが優しく微笑み、その言葉に同意した。


「Level 1 は60%踏破したんだっけ?フィン?」と、カイルが確認する。

「そんなことないですよ」と、フィンは即座に否定し、迷宮の立体ホログラムを展開した。「御覧の通り、もう80%は踏破しております」

「おっかしいわね……Level 2 に進むディメンション・シフト(DS)が見つからないなんて。こんなに歩いてたら既に見つかっててもいいはずだわ」と、リリアンは首をかしげ、ホログラムの地図を睨んだ。


「まあ、いいじゃないか。まだ行ってないとこに行ってみよう」と、カイルが軽く声を上げ、迷宮の奥へと歩き始める。その背中に導かれるように、あとの四人が間隔を取りながら付いていった。


奥へ奥へと進み、ゼオンが頑丈な石の扉の前に立つ。

「ドン!」っと、扉を思い切り蹴破る。

「あれ?何もなしか」

がらんとした部屋の中に、警戒を解いたカイルが真っ先に踏み込んだ。

ピチョン、ピチョン、と水滴が垂れる音だけが響く。

「つめてっ」

カイルの顔に冷たい水滴が当たった。彼は反射的に天井を見上げた――その瞬間。


「危ない!バブリースライムよ!よけて!」

アルウェンの鋭い叫び声が響いた。

「うわあ!」

警告もむなしく、天井に張り付いていたゼリー状の緑の化け物が、カイル目掛けて高速で落下し、彼を覆いかぶさった。

「ちっ!」

すぐさま反応したのはゼオンだ。彼は剣の切っ先を突き立て、ズルリとバブリースライムを引っ掛けると、そのまま力任せに壁へと叩きつける。

壁に張り付いたバブリースライムに向けて、ゼオンは大きく息を吸い込み――「はあっ!」――灼熱のブレスを吹き付けた。緑色のゼリーはジュワリと音を立てて焦げ付き、とりあえず脅威は排除された。


カイルは青ざめた顔で咳き込みながら立ち上がろうとする。呼吸が苦しそうだ。

「これは……毒にやられてるわね」セレスが血の気の引いたカイルの肌を見て言った。

「よし、掴まれ」ゼオンはすぐにカイルに肩を貸す。


「ぐわぁ!」


数歩進むたびにカイルに激痛が走り、体力が奪われていく。セレスは応急処置として、痛みを和らげるヒールの呪文を唱えた。

「キュアポイズンがあれば……」セレスはまだ毒消しの呪文を覚えていないことを悔いた。


「フィン!マップを見せて!」リリアンが指示を飛ばす。

「承知致しました」フィンが迷宮のホログラムを再び映し出す。

「セレス……あと何発ヒール残ってる?」リリアンが鋭く尋ねた。

「あと3発ね……」セレスが苦しげに答える。

リリアンはホログラム上の現在地から入り口までの距離を見て、小さく呟いた。

「これは入り口までもたないわね……」

「どうするんだ?」ゼオンが焦りを含んだ声で聞く。

「絶対に死なせない」リリアンは強い決意を込めて答えた。


しばらくの沈黙と停滞。ゼオンは苦しむカイルを支え、セレスは呪文の残弾を数える。しかし、リリアンだけは、周りの壁をコンコンと手の甲で叩いて回っていた。

「何をしてるの?」アルウェンが尋ねる。

「ちょっと、静かにして……」

リリアンは壁に耳を当て、拳を壁にこつんと当てて、微かな音の違いを探る。


「ここね……セレス、クラブを貸して」

セレスが装備していた打撃武器のクラブをリリアンに手渡す。リリアンはクラブで壁をガンガンと殴りつける。すると、硬いはずの石の壁に少しずつひびが入ってきた。

「ちょっと頼む……」

ゼオンはカイルをセレスに預け、セレスが力なく倒れかかるカイルを支える。

「貸せ」

ゼオンがリリアンからクラブを受け取る。彼はクラブを両手で構え、渾身の力を込めて壁を叩きまくる。砕けた石の破片が飛び散り、轟音とともに壁が崩れ落ちた。


崩れ落ちたあとに、鉄の蝶番がついた古びた扉が現れた。

「シークレットドアだ。やっぱりね」リリアンが確信に満ちた声で言う。

「ありがとう」と言ってゼオンはセレスにクラブを返し、再びカイルに肩を貸した。


リリアンが扉を開けると、その奥には、Level 2 に進むディメンション・シフト(DS)が光を放っていた。


「しかし、そのディメンション・シフトからは街に戻れませんよ?」フィンが警告を発する。

ゼオンがカイルをDSのそばまで連れていき、サイレント・シープの五人は光の柱の近くに集まった。

「いいから、Level 2 に転送してちょうだい」と、リリアンは迷いなくフィンに指示する。

「それでは……いきますよ……」

フィンがそう言うと、一行は眩い光に包まれた。光が消えると、目の前にはLevel 2 の迷宮が広がっていた。


そして、彼らのすぐ目の前には、Level 2 の入り口のディメンション・シフトがある。

「フィン!これなら街に戻れるよね?」リリアンが急いで尋ねる。

「なるほど!この入口のDSからなら、どこからでも街に戻れます!さあ、いきますよ……」

そしてまた眩い光に包まれ、サイレント・シープの五人は、何とか無事にマジックロッドの入り口まで戻ってきたのだった。



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