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第8章 隣領の妨害

【王暦424年・ダール渓谷の村】


 その夜、畑を見回っていた村人が慌てて駆け込んできた。


「畑が……! 何者かに荒らされてる!」


 私は飛び出し、グレイ辺境伯と共に畑へ向かった。

 月明かりの下、芽吹いたばかりの苗が踏み荒らされ、灰を混ぜた土には毒の粉が撒かれていた。


「これは……硝石に混じった灰。わざとだ」

 私は手に取った土を嗅ぎ、顔をしかめた。


「隣領の仕業か」

 グレイが低く呟く。


 村人たちが口々に怒りをあらわにする。

「ヴァルデンのやつらめ……!」

「せっかく芽が出たのに!」


 しかし、私はすぐに手帳を開いた。

 「毒灰に穀を植えるな。まずは灰を中和せよ。石灰と水で洗い流すべし」


「まだ手はあります!」


 私は声を張り上げた。

「川の石灰岩を砕いて粉にしてください! それを畑に撒けば、毒は和らぎます!」


 村人たちは半信半疑だったが、私の必死の声に押され、動き始めた。



 夜明けまでの作業だった。

 男たちは岩を砕き、女たちは水を汲み、子供たちまでが土を混ぜた。

 私は泥まみれになりながら、皆の手を導いていく。


 そして朝日が昇る頃。

 畑に再び水を撒くと、昨日の毒の匂いは消えていた。


「……生きてる。芽がまだ、枯れてない……!」


 誰かの呟きに、村人たちの顔が明るくなる。

 歓声が上がり、皆が抱き合った。



「よくやったな」

 背後から低い声。振り返ると、グレイ辺境伯が立っていた。

 その瞳は、いつもの冷徹さを保ちながらも、わずかに柔らかい光を宿している。


「王都の令嬢にできることはないと思っていたが……お前は違う」


 不器用な言葉に、胸が熱くなる。

「私は……もう王都の令嬢ではありません。ここで生きる者です」


 その言葉に、グレイはわずかに口角を上げた。


「ならば、この村を守る覚悟を示せ。俺が剣で守る。お前は知識で守れ」


「……はい!」


 私は強く頷いた。

 破壊の痕跡の残る畑の真ん中で、決意は揺るぎなく燃え上がっていた。


(たとえ誰に妨害されても、私はこの村を立て直す。そして証明してみせる。追放された令嬢でも、ここで生き抜けるって──!)

第8章をお読みいただきありがとうございます。

隣領ヴァルデン家の妨害によって、せっかく芽吹いた畑が荒らされました。

しかしリシェルは祖母の手帳の知識を活かし、村人たちと共に被害を食い止めることに成功します。

「剣で守るグレイ」と「知識で守るリシェル」。二人の役割がはっきりと示されたことで、物語は新たな段階に進みました。


次回からは、外敵の圧力だけでなく、村の内部にも揺らぎが生まれます。

信頼の芽がどこまで育つのか、そして妨害の黒幕が誰なのか──ますます緊張感が高まっていきます。

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