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第6章 立ち直る村

【王暦424年・ダール渓谷の村】


 魔物襲撃から三日。

 村はようやく静けさを取り戻していたが、荒れた土地と痩せた畑は相変わらずだった。


「畑に種を撒いても育たないんだ。雨も少ないし、土がもう駄目なんだよ」

 村の男が肩を落とす。


 私は祖母の手帳を開いた。

 その一節に目が留まる。


「──大地は死なず。ただ眠るのみ。灰を混ぜ、水脈を開けば再び息づく」


 私は顔を上げた。

「試してみたいことがあります」



 村外れの畑に集まった村人たちは半信半疑だった。

 私は焚き火で燃やした枝や草木の灰を抱え、畑の土に混ぜ込んでいく。


「灰なんて混ぜても何にもならんだろう」

「いや、嬢ちゃんがやるなら信じてみようや」


 村人たちのざわめきを背に、私は次に井戸の前に立った。

 桶を下ろすと、底から鈍い音が響いた。


(やっぱり……水脈が詰まってる)


 祖母の教えを思い出し、私は井戸の内壁に手を当てた。

 湿り気のある石を探りながら、小さく呟く。


「ここ……!」


 私は村人たちに頼み、槌でその部分を砕かせた。

 すると、岩の奥から冷たい水が一気に噴き出した。


「水が……! 水が戻ったぞ!」


 歓声が上がる。

 子供たちが走り寄り、冷たい水をすくって飲んだ。

 土に染み込んだ水は畑を潤し、灰と混ざった大地は柔らかさを取り戻していく。



「……まさか、本当にやりやがった」

 呆然とする村人の声。


 私は胸に手帳を抱き、微笑んだ。

「祖母は言っていました。土も水も、正しく扱えば必ず応えてくれるって」


 そのとき、村の老婆が涙を浮かべて私に言った。

「あなたは……イレーネ様の孫だ。本当に……戻ってきてくれたんだね」


 村人たちが次々と私を囲み、感謝の言葉を口にする。

 その輪の外で、グレイ辺境伯が静かに腕を組んでいた。



 夕暮れ、畑を見下ろす丘の上で、グレイが低く言った。


「……見事だった」


「ありがとうございます」


「だが忘れるな。辺境の大地は気まぐれだ。一度芽吹いても、次には枯れることもある。……だが、お前のように諦めない者がいるなら、変わるかもしれん」


 不器用な褒め言葉に、私は小さく笑った。


(王都では追放され、何も持たないと言われたけれど……ここでは、私の知識が力になる)


 茜色の空を見上げながら、私は強く誓った。


(必ず、この村を立て直してみせる)

第6章をお読みいただきありがとうございます。

魔物襲撃を乗り越えたリシェルは、今度は祖母の知識を使い、荒れ果てた畑と水源を甦らせました。

王都で「無価値」と笑われた知識が、辺境では人々の命を救い、未来を繋ぐ力になる──その証明の瞬間です。


村人たちはリシェルを「希望の象徴」と見始め、グレイ辺境伯の態度も徐々に変わってきました。

冷徹に見えていた彼の言葉の中に、わずかに温かさが滲む場面……二人の関係がどう進展していくのかも見どころです。


次回は、村の発展を妬む者や外敵の影が迫り、リシェルの「逆転劇」がさらに加速していきます。

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