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断罪の日に追放されましたが、辺境で無双していたら元婚約者が土下座してきました  作者: マルコ


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第4章 初めての力

【王暦424年・ダール渓谷の村】


 翌朝、村の広場には緊張した空気が漂っていた。

 子供の泣き声が途切れず、女たちが慌ただしく行き来している。


「何があったのですか?」


 私が声をかけると、老婆が振り返った。

 昨日会った、祖母を知る村の古老だ。


「子供が熱を出してね。もう三日も下がらんのだ……薬も尽きている」


 胸が痛む。

 王都でなら医師を呼び、薬を買えば済む話。けれどここは辺境。

 何もない。いや──何も「残されていない」だけだ。


(祖母なら、きっとこういうとき……)


 私は荷袋から古い手帳を取り出した。

 ページをめくると、震える字でこう記されている。


「──水辺の苔を煎じ、月草の葉を添えよ。熱を散らし、命を繋ぐ」


 私は顔を上げた。

「近くに川がありますか?」


「あるが……あの川はもう濁って、獣の溜まり場になってる」


「私が行きます」


 村人たちがざわめく。

 女一人が行けば、狼や魔物に食われるだけだと。

 だが、背後から低い声が響いた。


「俺が同行する」


 グレイ辺境伯だった。

 黒衣のまま現れた彼は、ただ一言「行くぞ」とだけ言った。



 川は渓谷の下にあった。

 濁った流れの中に、まだ青々とした苔が岩にしがみついている。


「……あった」


 私は膝をつき、苔を丁寧に削ぎ取った。

 グレイは剣を抜き、背後に近付く狼を一太刀で斬り伏せる。

 血の匂いに吐き気を覚えながらも、手を止めなかった。



 村へ戻り、火にかけた鍋に苔と月草を入れる。

 緑の香りが漂い、苦味のある湯気が立ち昇る。


「飲ませてください。……必ず効きます」


 母親が怯えた目で私を見た。

 だが子供の荒い息遣いを見て、震える手で煎じ薬を口に運んだ。


 一刻ほどして──。

 子供の顔に汗が浮かび、苦しげな呼吸が徐々に落ち着いていく。


「熱が……下がってる……!」


 母親が涙を流し、子供の手を握りしめた。

 周囲の村人たちも、信じられないという顔で私を見ている。


「ただの言い伝えじゃなかったのか……」

「いや、本当に……効いたんだ」


 ざわめきが広がり、次第に歓声に変わった。

 私はそっと手帳を閉じ、胸に抱いた。


(お祖母様……あなたの知識は、やっぱりここで生きる力になる)



 その夜、焚き火の明かりの中で、グレイ辺境伯が私に言った。


「……お前のやり方、見せてもらった。王都の机上の学問とは違う。本物だ」


「ありがとうございます」


「だが忘れるな。辺境は一度成果を出した程度でお前を受け入れたりはしない。……生き抜きたければ、次も示せ」


 冷徹な声。けれどその瞳には、ほんのわずかに認める光が宿っていた。


 私は火の粉を見上げながら、静かに頷いた。

(必ず、この村を立て直してみせる)

第4章をお読みいただきありがとうございます。

祖母の手帳に記された知識を頼りに、リシェルは初めて辺境で「力」を示しました。

王都では嘲笑された古い療法が、ここでは命を救う力になる──この対比こそが、彼女の逆転劇の始まりです。


村人たちはまだ完全には彼女を信じていませんが、「役に立つ存在」と認識し始めました。

そしてグレイ辺境伯も、冷徹な態度の裏で彼女をほんの少し認めつつあります。


次回は、村を襲うさらなる試練。そしてリシェルが二度目の「無双」を示す場面へ。

辺境での暮らしが本格的に動き出しますので、ぜひ楽しみにしてください!


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