【1話】幼少期Ⅰ
眩しい光が差し込む。
全身に痛みはない。息も、ちゃんと吸える。――生きている。
(……ここは、どこだ?)
目に映るのは、真っ白な天井と天蓋付きのベッド。そして、異世界らしい豪奢な装飾。
だが、そんな非日常の光景にもかかわらず、不思議と恐怖はなかった。
(ああ……生まれ変わったんだな、俺は)
記憶はおぼろげだが、最期の光景だけは鮮明だった。
夜の交差点。明るすぎる車のライト。
頑張ろうと決めた矢先、何もできないまま終わってしまった俺の人生。
(今度こそ……悔いのない人生を、生きてみせる)
まだ声も出せないほど幼い肉体で、俺はただ固く心に誓った。
もう逃げない。もう後悔はしない。
この命、今度こそ、自分の力で生き抜いてみせるのだと。
――それが、リオ・アルヴァレストとしての人生の、始まりだった。
それからの数年間、俺はリオとして日々を過ごしていた。
笑い、泣き、言葉を覚え、歩けるようになった。
父や母、使用人たちとの穏やかな日常。
どこか“異世界っぽい”出来事は多かったが、不思議と違和感はなかった。
いや――きっと、忘れていたのだ。
俺が、かつて「風見 涼」という名前の日本人だったということを。
それは、3歳の誕生日を迎えた夜のことだった。
祝宴が終わり、ひとり静かになった部屋で、俺はふと空を見上げていた。
「……なんだろう、この感じ……」
胸の奥が、妙にざわつく。
涙がこぼれそうな、けれど理由のわからない切なさ。
そして――突然、激しい頭痛が襲った。
「っ……ぐ、あ……!」
脳の奥で、何かが弾ける感覚。
次の瞬間、堰を切ったように記憶が押し寄せてきた。
日本の景色。
くだらないと嘆いていた日々。
あの日、命を落とした交差点。
初めて“親友”と呼べた存在に出会った、あの頃。
(俺は……俺は、風見 涼だった……)
呆然としたまま、床に膝をついた。
すべてを、思い出した。
孤独だったことも、やっと努力が実りかけた矢先に命を絶たれた夜のことも。
「……誠司……俺、お前みたいになりたいって、そう思ってたんだ……」
誰に聞かせるでもなく、自然と言葉がこぼれた。
でも、今の俺には、この世界がある。
やり直せる時間がある。
もう一度、努力できる機会がある。
(やろう。今度こそ……本当に、自分を変えるんだ)
胸の奥で、何かが静かに、だが確かに灯った。
――その日、リオ・アルヴァレストは再び“自分”を取り戻した。
かつての悔いと誓いを胸に、リオはようやく、もう一度生きる覚悟を定めた。
それは、第二の人生の、本当の幕開けだった。
■登場人物紹介(第一話時点)
リオ・アルヴァレスト
本作の主人公。
前世では「風見 涼」という名前の日本人だった青年。
努力を始めた矢先に事故死し、異世界に転生。
3歳の誕生日に前世の記憶を取り戻す。