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8 朱音による応急処置(場面:神域の奥・霧の中)
倒れ込んだ紫乃を腕に抱きかかえ、朱音は焦った表情を浮かべながら周囲を見渡す。
空間は未だ濁った霊気に満ちているが、彼女が指摘したコアの動きは少しずつ落ち着きを見せていた。
彼女の視認が、精霊の暴走を一時的に抑えたのだ。
朱音は歯を食いしばりながら
「……限界まで視たのか。バカ……」
彼は紫乃の体をそっと寝かせると、腰のポーチから薬草の束と小瓶を取り出した。
震える手で茶色い粉末を溶かし、息を吹きかけながら額に塗る。
朱音は独り言のように、静かに
「俺は、バディを無理させるつもりなんてなかった。……だけど、気づいてたよ。お前が、誰より俺のために“視よう”としてたの……」
彼の声は、普段の茶化しも、意地悪な笑みもなく。
ただ、真っ直ぐで不器用な心の震えがそこにあった。
朱音はそっと額に手を置きながら
「だから、もうひとりで戦うな。──お前が戻ってくるまで、俺が守るよ」
濃霧の向こうで、精霊の気配が一瞬震える。
朱音は静かに立ち上がり、再び霊具を構えた。