6 任務後(帰り道)
精霊の怒りが収まり、静寂が戻った廃屋の中。
木々のざわめきが遠くからかすかに聞こえ、かすかな風がカーテンを揺らしている。
夕暮れの柔らかな光が窓から差し込み、二人の影を床に長く伸ばしていた。
朱音は霊衣の一部をはだけさせ、額にかいた汗を手の甲で拭いながら、いつもより少しだけ真剣な表情で紫乃を見つめた。
「……助かったよ。お前の“目”、本物だったな」
紫乃は胸の鼓動を感じながら、顔を少し赤くして視線を伏せる。
「そっちこそ……あんなふうに精霊と向き合うなんて、すごいと思いました」
その言葉に朱音はふっと微笑んで、眉間の力を抜いた。
「褒めるのうまいな。俺が惚れるぞ?」
紫乃は一瞬、驚いたように顔を上げたものの、すぐに慌てて目を逸らす。
「っ……そ、そんなつもりじゃ……!」
朱音はじっと紫乃を見つめ、意地悪そうに片目を細めてにやりと笑った。
「……照れた。可愛いじゃん」
紫乃の頬はさらに熱を帯びて、呼吸が少し早くなる。
彼女は言葉に詰まりながらも、胸の奥で何かがじわりと温かく広がるのを感じていた。
外からは鳥のさえずりが聞こえ、二人の間に漂う甘く静かな空気が、まるで時間を止めたかのようにゆっくりと流れていく。
朱音はそんな紫乃の様子を楽しむかのように、軽く肩を叩きながら言った。
「おい、もうちょっと素直になれよ。お前のこと、もっと見たいんだから」
紫乃はくすぐったそうに笑みを漏らし、心の中でそっと呟いた。
(ほんとにもう、朱音先輩ってば……!)