表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/25

17 春の息吹のなかで~未来への約束

場所は、朱音が療養している郊外の静かな診療院。

山の麓にあり、風が運ぶ春の香りが窓を揺らしていた。

紫乃は、ゆっくりと扉をノックする。


「……朱音先輩、入ってもいい?」

「……おぅ。来ると思ってた」

懐かしい声。


ベッドに腰かけ、軽く笑みを浮かべる朱音がそこにいた。

頬は少し痩せたけれど、その眼差しは相変わらず──真っ直ぐで、優しい。

紫乃は、たまらず彼に駆け寄った。


「よかったぁ……! 本当に、よかった……!」

「大げさだって……言いたいとこだけど……お前の泣き顔、また見たくねぇしな」

彼女の髪にそっと手を伸ばし、ふわりと撫でる。

紫乃の瞳が潤む。


「……ずっと、怖かったんだけど。目を閉じるたびに、朱音先輩が遠くにいっちゃう夢ばかり見て……」

「悪い。……でも、俺はちゃんと戻ってきた。お前が──俺の隣で泣いた声が、引き戻してくれたからな」


「……先輩」

「俺の願い、ちゃんと叶ったろ? “お前の隣に、ずっといたい”ってやつ」

紫乃が静かにうなずいた。


ふたりの指先が、迷うように触れ合い──自然と、手が重なる。

「……これからも、ずっと隣にいてください。今度は、私が守るよ」

朱音は、照れくさそうに目を細めた。

「そっか……やっと言ったな。じゃあ、正式に……よろしくな、紫乃」

紫乃は微笑み、朱音の手をきゅっと握り返した。


数ヶ月後。


ふたりは再び、精霊災害の小さな現場へと赴いていた。

今では息もぴったりで、かつてのぎこちなさはもうない。


事件を無事に収めたあと、朱音は紫乃をとある丘へ連れていった。

そこは春の花が咲き誇る、秘密の場所。


「前にさ、言ってたろ。『落ち着く場所ですね』って。──ここも、お前に見せたかった」

花が風に揺れ、やわらかな光が降り注ぐ。

紫乃が、小さく微笑む。


「……きれい。でも、朱音先輩がいるからだと思います」

朱音は懐から、ひとつの小箱を差し出した。

「これ、前のよりちゃんとしたやつ。……今度は、“霊具”じゃない。俺の気持ちの、証拠」

開くと、中には細い銀のペアリング。


紫乃の名と、朱音の刻印が彫られていた。

「まだ結婚って年でもないけど……“約束”って意味では、本気だから。……受け取ってくれるか?」

紫乃は唇を噛み、そしてそっと、手を伸ばした。


「──はい。ずっと、ふたりで。……未来も、隣にいてください」

空には一羽の鳥が舞い上がり、春の光の中へ溶けていく。

世界はまだ混沌と静寂の狭間にあるけれど──


ふたりの心は、もう迷わない。

精霊と人間をつなぐ“共鳴”の物語。

それは今、新しい章を迎えていた。


──End


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ