15 冬の神社に、想いを結ぶ
冷たい風が頬をかすめる午後。
神社の境内は、冬の光に包まれていた。空は高く澄み、静かな空気の中、霊たちの気配も穏やかに眠っている。
任務の合間、ふたりだけの時間が流れていた。
朱音は手を水にくぐらせ、息を吐く。
澄んだ水面に映るのは、隣に立つ紫乃の横顔。
「こういう静かなとこ、似合うな。……お前の、澄んだ声がよく響く」
少しだけ意地悪そうな微笑み。けれどその目は、優しさでにじんでいた。
紫乃は頬を赤らめ、視線を逸らす。
「もう!またからかう……でも、ありがとね。……落ち着くね、ここ」
水音だけが響く手水舎。
言葉より、呼吸の重なりが温度を伝えていた静かに、鈴の音が風に溶ける。
ふたりは並んで手を合わせ、目を閉じる。朱音の横顔に、紫乃は小さく問いかけた。
「願い事、何にしましたか?」
朱音は少しだけ間を空け、照れたように笑う。
「お前の隣に、ずっといられるように……ってな」
その言葉に、紫乃は目を見開いた。
頬がふっと染まる。
「……それ、ずるいですよ」
「じゃあ、俺の願いが叶うか──賭けてみるか?」
優しく響く声。ふたりの視線が重なり、時間がゆっくりと流れていく。
朱音はゆっくりと境内の奥、誰もいない裏手の小径へと歩き出す。
紫乃もついていき、気づけばふたりきり。小さな灯籠の光が、冬枯れの木々に揺れていた。
朱音がふと立ち止まる。
そして真っすぐ紫乃を見つめた。
「──今までは冗談まじりに言ってきたけど、これはちゃんとした“告白”な」
言葉が静かに、けれど力強く落ちる。
「俺はお前が好きだ、紫乃。誰より、強くて綺麗で……意地も張ってて、それでも真っ直ぐなとこ全部、好きだ」
紫乃は息を呑み、小さく震える声で答えた。
「……私も、ずっと……気づいてました。
でも、怖かった。この関係が壊れたらって、こんな気持ち抱えちゃいけないって……」
朱音はそっと手を伸ばし、彼女の頬に触れる。
「壊さねぇよ。むしろ、もっと強くなる。
──だって今は、“好きな女”だからな」
そして──唇が重なる。冷えた空気の中に、心臓の音だけが響く。
やがてふたりはゆっくりと目を開き、そっと微笑み合った。
朱音はコートの内ポケットから、小さな桐箱を取り出した。
「……実はさ、ずっと前から準備してた」
そっと箱を開くと、中には小さな銀の指輪が。
霊紡士の結界符が内側に刻まれ、そして──小さく「紫乃」の名が彫られていた。
「俺が作った。護符としての力もある。
……でも何より、“無事でいてくれ”って祈りながら彫った。だから、お前に持っててほしい」
紫乃は言葉を失い、指輪を見つめる。
「……そんなの……もう、泣いちゃいます……」
震える指で受け取る紫乃。
朱音が、そっと彼女の指に通すと、結界の光がやさしく灯った。
「これで、お前は俺の願いそのものだ。絶対に、手放さない」
紫乃は涙をこらえながら、笑った。
「……ずっと、大事にします。
たとえ霊の気配が消えても、ずっと、あなたと」
冬の風が、ふたりの周りを優しく通り過ぎていった。
温もりを分かち合いながら、朱音と紫乃はそっと手を繋ぐ。