14 再会
──ここは、霊の記憶と、紫乃の心が交錯する“感情領域”。
霧のような情念に包まれ、紫乃の周囲には幾重にも“怒り”と“悲しみ”が渦巻いていた。
その中心にいる精霊の影は、かつて朱音が封じた“未浄化の存在”──孤独と否定の残骸。
紫乃は気づいていた。
この霊は、ただ“わかってほしかった”だけなのだと。
だけど、自分の声も、気持ちも、届くかどうかは分からない。
目の前で形を成しつつある精霊の“本体”が、強い霊波を帯びて紫乃を包み込もうとする。
「──私なら、あなたと向き合える。だから、お願い……!」
その声が消えかけたとき。
「……勝手に連れてって、勝手に閉じこもってんじゃねぇよ」
低く、熱のこもった声が背後から響いた。
振り返る。
そこに立っていたのは、霊衣に包まれた朱音だった。
「……朱音先輩……!」
紫乃の目に、涙が浮かんだ。
彼はゆっくりと歩み寄り、紫乃をかばうように前に立つ。
「お前が何を思って、こんなふうに怒ってるのか……俺は昔、考えるのをやめた。
怖かった。正直、向き合うのが怖かったんだよ。相手の痛みに、自分が引きずられるのが」
彼は、正面から精霊を見据える。
「でもな──今は、紫乃がいる。
こいつが、俺に教えてくれたんだ。痛みから逃げないってこと、ちゃんと“見る”ってこと」
紫乃の手が、朱音の袖をそっと掴んだ。
ふたりの霊波が重なる──それは、霊と人との対話を超えた、“魂の共鳴”。
朱音は手を広げ、紫乃と共に精霊へ呼びかける。
「お前が消えたと思ってたのは、俺の都合だ。ほんとは、今もここにいたんだな。……だったら今度こそ、俺たちの声を聞いてくれ」
「あなたの痛み、私たちも抱えていくよ。共にあることでしか、癒えないものがあるなら……ちゃんと、隣にいるから!」
霊光が溢れる。
精霊の影が、初めて“人の姿”を帯びて微笑んだ。
「……ありがとう」
その瞬間、暴走していた霊波が静まり、世界が穏やかに色を取り戻していく。
紫乃の身体が、ふわりと浮かび上がり、朱音の腕の中へ落ちた。
「……戻ろう。お前と一緒に」
朱音は、強く彼女を抱きしめた。