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13 朱音サイド:過去に向き合う覚悟
一晩中、朱音は動き続けた。
紫乃が霊的に転移された痕跡を辿り、感情精霊の波長を追って、山中の旧神域へ足を運ぶ。
そこは、かつて彼が浄化に失敗した精霊の封印地──封じたはずの“痛みの残響”が、いまだ残っていた場所だった。
彼の記憶の中には、ひとりの少女の姿が焼きついている。
まだ“バディ”という意味を知らなかった頃、朱音は「任務」を優先し、対話を途中で断った。
その精霊は、消滅というかたちでその想いを断ち切られた──と、彼はずっと思っていた。
けれど、それは“断ち切った”のではなく、“押し込めただけ”だった。
「逃げたんだ、俺が……怖かったんだよ。あのとき、心を預けるのが」
朱音は拳を握りしめる。
目の前の空間に、霊具を構えた。自身の霊衣を強化し、転移の術式を組む。
「でも、もう逃げない。紫乃は……俺のバディだ。守るって決めた。誰よりも、俺が──」
魔方陣が発動し、彼の身体が霊的領域へと沈んでいく。
次に目を開けたとき、彼は紫乃が囚われる“心の深淵”へ、足を踏み入れていた。
「──紫乃ッ!!」
その声は、夢と現実の境界を裂き、確かに彼女の元へ届いた。