表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/25

11 精霊の襲撃と拉致(山中の儀式場跡)

日が落ち始め、空は紫に染まりかけていた。森の奥、いつものように調査を進めていた朱音と紫乃の前で、突如として空気が変わった。


冷たい風が吹き抜ける。

それはまるで、感情そのものが空間を支配したかのような、得体の知れない気配。


紫乃は眉をひそめ、ふと足を止めた。

背中を走る悪寒と、胸を締めつけるような異様な気配が、彼女の“視える目”を通じて強制的に流れ込んでくる。


「……っ、頭が……うそ、コアが……こっちに来てる……っ!」


額を押さえて苦悶の声を漏らす紫乃の体が、大きく揺らいだ。

次の瞬間、朱音が振り向くより早く、周囲の空間が淡く歪んだ。


「──紫乃ッ!!」


叫びが届くこともなく、紫乃の身体はその場に浮き上がる。

まるで目に見えない霊的な手に引かれるように、彼女の全身が淡い青白い光に包まれていく。


それは暴走した精霊の波──


けれど、ただの暴走ではなかった。

朱音の脳裏をよぎったのは、かつて自身が「対話に失敗し、浄化ではなく消滅させてしまった」感情精霊の名だった。


「……まさか、あれは……!」


朱音の顔から血の気が引いていく。

その瞬間、空間が音もなくひび割れ、まるで結界が逆流するような強制転移が起こった。


紫乃は微かな呻き声と共に、霊波に飲み込まれ──

そして、まるで泡のように、朱音の目の前から消えた。


一瞬の静寂。

立ち尽くす朱音の手には、彼女のリボンが一枚だけ残されていた。


それは、彼女が本当に消えたという証のようで。

そして──自分の過去が、今なお誰かを傷つけていることへの、痛ましい証明でもあった。


「……ちくしょう……俺が……」


朱音は拳を握り締め、リボンを胸に抱えた。

もう二度と、失いたくなかった。


彼女の声を。温もりを。


「紫乃……今度こそ、俺が……助ける」


夕闇が、森を包み込む。

その奥に、朱音の罪と向き合う夜が、静かに始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ