百物語『名刺交換』
「これはまだこの辺りに田んぼがあった頃の話―――」
一人が語り終えて蝋燭の火を消す。
残り99本。
「次は俺か。これはこの辺りにまだ銭湯があった話なんだが―――」
語り終えて残り98本。
「それじゃ、私ね。もう今じゃどこにもないんだけど、昔の小学校では―――」
97本。
96本。
95本……。
そして最後の1本。
主催である大妖怪が話し始めた。
「さて。私の番だ。この星には昔、人間と言う生き物が……」
すると集まった妖怪たちがため息をつく。
「滅びちゃったんだよね」
「そうそう。だからこの季節になる度にこうやって集まってるんだから」
「名刺交換みたいに過去の栄光を語ってさ」
既にお開きのムードに大妖怪が怒鳴った。
「やめんか! まだこちらが話しているだろう!」
「どうせ、オチは同じでしょ?」
「それは貴様らとて同じだろう!?」
やんややんやと言い合いをしている内に蝋燭が消えた。
これで蝋燭は0本。
だけど、もう。
妖怪は集まっても怖がる人間はなし。
「はいはい。これでおしまい」
真っ暗闇の中、物の怪たちの声が虚しく響いた。