「女装は男にしかできない最も男らしい行為である!」「…うん、まあ、似合ってるからおっけー!」
「女装は男にしかできない最も男らしい行為である!」
そう言って現れたのは、可愛らしいドレスを身に纏った初対面の私の婚約者。
彼の両親は頭を抱え芸術的な海老反りを決める。
私の両親はきょとんとして動かない。
そして肝心の、彼の婚約者となる私は…。
「…うん、まあ、似合ってるからおっけー!」
実際似合ってるし可愛い彼に心底惚れ込んだ。
私はエデ。
エディット・レアンドル。
伯爵家の娘。
私は伯爵家を継ぐことを約束されている。
婚約者はモーちゃん。
モルガン・マクサンス。
裕福な伯爵家の生まれで、女伯爵になる私のお婿さんになる。
彼との出会いは中々に衝撃的だったけど、色々ぶっ飛んだ彼を早々に受け入れた私は彼から好かれている。
なので関係は良好。
「ねえねえ、エデ!今度このブランドの化粧品が新発売だって!」
「え、買おう買おう!」
「いいねいいね、発売日には二人で早く行こう!」
「うん!」
モーちゃんは女の子みたいな見た目だけど、中身はちゃんと男の子。
でも、化粧品のお話とかドレスのお話で一緒に盛り上がれるモーちゃんは私にとって理想の婚約者だ。
ただ、私には一つ心配ごとがある。
明日から私とモーちゃんは、貴族の子女の通う貴族学校に入学するのだ。
そこでモーちゃんが受け入れられるのか、心配だ。
「ごきげんよう、エデ」
「ご、ごきげんよう、モーちゃん」
貴族学校入学当日、モーちゃんは、なんと男装していた。
「え、も、モーちゃん、いいの?」
「うん、だって入学式の後そのまま入学祝いのダンスパーティーに移行するでしょ?流石に女装してたら、可愛い可愛いエデをカッコよくエスコートできないからね?」
「え、え」
「それだけエデが大事なんだよ、大事にさせてよ」
「モーちゃん!!!」
モーちゃんの気持ちが嬉しくて、思わず抱きつく。
そして貴族学校での入学式をバシッと決めたモーちゃんは、入学祝いのダンスパーティーでもきっちり男装を着こなして私をバシッとエスコートしてくれた。
ダンスはやや苦手な私が時々足を踏んでも、モーちゃんは笑って許してくれる。
それにモーちゃんは上手にリードしてくれるからなんとか踊れた。
「ふふ、楽しめた?」
「うん!モーちゃんは?」
「楽しかった!」
きゃっきゃと笑い合う私達は、嫉妬に濡れた視線に気づかなかった。
ある時から、私が男爵家のご令嬢をいじめていると言う噂が広まった。
それは真っ赤な嘘で、いつも一緒にいる友達やモーちゃんが否定して回ってくれているけど…噂は中々止まなかった。
終いには何故か公爵家のご令息や侯爵家のご令息、辺境伯家のご令息に注意を度々受ける始末。
いじめなんてしていないと言っても聞いてもらえない。
そんなある日のことだった。
いつも四六時中私のそばにいるモーちゃんが見当たらない。
探していると、今は使われていない旧校舎にまできてしまった。
そこで、モーちゃんを見つけた。
私が虐めた事になっている男爵家のご令嬢と一緒にいるモーちゃん。
「だから、本当にエディット様にいじめられているんです!助けてください、モルガン様!」
「嘘だよ。エデがそんなことするはずない」
「なんであんな悪役令嬢なんか信じるんですか!」
悪役令嬢?
私のこと?
なんのことかわからず頭を捻る。
「悪役令嬢?エデのこと?」
「そうです!私はヒロインで、モルガン様はヒーローで、エディットは悪役令嬢!!!モルガン様の趣味の女装を真っ向から否定するエディットから、私がモルガン様を救い出すんです!」
はてな。
どういうこっちゃ?
「は、ははは!君大丈夫?頭がおかしいの?」
「な、私は真剣に!」
「…エデは僕の女装趣味を否定したりしないよ。むしろ認めて一緒にお化粧し合ったりしてる」
「…え?まさか転生悪役令嬢!?」
転生悪役令嬢とはなんぞや?
「君さっきからおかしな単語ばっかり使うよねぇ…でもさぁ、良い加減目障りなんだよね」
「え…あの…モルガン様?」
「ん?」
「なんで…植木鉢を、持つんです?ま、まさかそれで私の頭を………」
「ううん、違うよ、君は傷つけない。傷つくのは…僕の方だ」
モーちゃんは土と植物が入っていないまま教室内に放置されていた植木鉢を空高く投げた。
そして植木鉢はそのまま落っこちてモーちゃんの頭に直撃。
モーちゃんは血を流す。
「………やっぱり、いてぇ」
「え、え、え、モルガン様っ」
「誰かー!レミリア男爵令嬢のご乱心だ、誰かー!」
叫ぶモーちゃん、立ち尽くすレミリア様、その場からそっと離れて助けを呼びに行く私。
私が救護室の先生を連れて旧校舎に戻ると、レミリア様が学校の護衛に拘束されて…モーちゃんは彼女を睨みつけていた。
そしてモーちゃんは、彼女にやられたのだと嘘を言う。
私は何も言わずに、モーちゃんのそばに寄って救護室の先生の応急措置を受ける彼に寄り添った。
レミリア様はその日以降、学校で見かけることもなくなった。
私は公爵家のご令息や侯爵家のご令息、辺境伯家のご令息に謝罪を受けた。
いじめの件は誤りだったと。
モーちゃんが言ったそうだ。
『レミリア嬢に言い寄られて、断ったら植木鉢で殴られた』
『彼女は男漁りが趣味らしく、今度は僕に目をつけたらしい』
『他にも色々な人に言い寄っているから調べて欲しい』
その話が、彼らにも回ったらしい。
そして、私の悪評は無くなった。
モーちゃんは幸い、後遺症などもなく元気にしている。
「モーちゃん、あのね」
「格好の悪い助け方でごめんね」
「え」
「でもさすがに、見過ごせなくて」
「…」
モーちゃんなりに、頑張ってくれたのはわかってる。
だから。
「モーちゃん、ありがとう」
精一杯の笑顔を返す。
モーちゃんも笑った。
「うん」
「でも、もう無茶はだめだよ」
「はーい」
「もう怪我しないでね」
「うん」
私の婚約者は、世界一男らしくて、世界一可愛くて、世界一卑怯で、世界一かっこいい人です。
今日もモーちゃんとの日々は、とても輝いています。
レミリア様は…うん、なんか、ごめんね。
ご愁傷様です。
以下蛇足
転生ヒロインは逆ハー狙いのヒドインでした。
そして対するは一つボタンの掛け違いが起きてラブラブになった攻略対象者とその婚約者のカップルでした。
悪役令嬢であるエデがなんでモーちゃんの女装趣味を受け入れたかといえば、エデの魂(前世の記憶はないけど)に刻まれた男の娘大好きオタク魂のおかげです。
少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
ここからは宣伝になりますが、
『悪役令嬢として捨てられる予定ですが、それまで人生楽しみます!』
というお話が電子書籍として発売されています。
よろしければご覧ください!