第4話 暗雲立ち込める
指先を光らせる。
魔力を止めれば消える。
全身から光を放ってみる。
背中とかは見えないが、多分全身何処からでも光は出る。
指先から光を放ち、空中にとどめてみる。
成功。魔力を注げばしばらく光り続けるようだ。
その光の塊を壁に向かって投げてみる。
光は壁にぶつかると音もなく消えた。
ナイフで手の甲に切傷を作り、光を当ててみる。
何も起きない。
ただ無駄な傷ができただけだった。
ナイフに魔力を流し込んでみる。
刃が輝いた。
薪に刃を立ててみるが、当然ながらナイフで薪は切れない。
昨日掃除に使ったボロ布に魔力を流してみる。
布は輝いた。
光の収まったナイフを刺してみると、見た目に違わぬ脆さでスッと刃が通った。
‐‐‐
しばらく検証してみて、わかったことがいくつかある。
1.俺自身が保有する魔力の総量が増えている
2.俺の魔法は、光を生み出している。
3.俺の目が進化している。
4.光そのものに特別な効果は見受けられない。
まず1つ目は、感覚的な話だが、俺の魔力が増えている。気がする、程度のものではない。魔術と魔法の魔力消費の差はよくわからないが、以前の俺は桶一杯分程度の水を出す『水球』を5回も使えば空になる程度の魔力しかなかったはず。それが、小屋全体を照らせる光を何十回と出しても、微塵も魔力を消費した実感がわかない。おそらくだが、魔法使いになったことで、魔力量も副次的に増えたのだろうと考えられる。
2つ目。これはすぐにわかったことだが、俺の魔法はどうやら『光』を出す魔法らしい。炎を生み出し、それによって照らされる、とかではなく、放った魔力が光る。いや、魔力が光ってんのか魔力が『光』に変わっているのかとかは全くわからないが、俺の魔法は光を出すこと、それ以上でも以下でもないようだ。
3つ目。これは検証中に気づいたのだが、俺の目が強い光に対する耐性ができているようだ。最初はとっさに顔を覆ってしまったが、実験中に最大限魔力を込めた光の塊を直視しても何の問題もなかった。眩しいのはわかるが、それが苦痛だったり、視界が悪くなったりはしない。また、戸を閉め切って外からの光もあまり入っていないはずのこの小屋で、隅から隅まではっきり見えていることから、光への耐性に加えて暗視もできるようになっているようだ。
4つ目。ナイフやら布やらに魔力を通してみたが、特別な効果は何ら見られなかった。ナイフの切れ味はあまり上がった実感はなく、布に通してみても丈夫になったりはしない。傷をいやす効果はなく、体を光らせてみると気持ち体が軽くなったような気がするが、劇的な変化はなかった。
結論。俺の魔法は光魔法…いや、『光輝魔法』と名付けよう。その方がまだ格好いいから。
効果は光る。以上!
……苦労して習得し、ようやく普段使いできるようになった魔術が使えなくなって、代わりに使えるようになったのがこのピカピカ光るだけの力、かぁ。
思わずため息をつきたくもなるが、失ってしまったのは仕方ない。
光で魔物の気を引いたり、目くらましに使ったりと、全く使えないわけではないだろう。
前向きにとらえていくしかないか。
と、そんなことを考えてみると、ふと違和感に気づく。
長いこと検証していたのにも関わらず、朝が来る気配がない。
薄暗いわりに視界が良好と、なかなか便利な目になったのはいいが、それゆえに時間の流れに鈍感になってしまったのだろうか。
しかし、体は健康だし、睡眠不足を感じるほど疲れた感じでもない。
ということは、変な夢で飛び起きた割には睡眠時間は十分とれていたはずなのに、これだけ時間が経ってまだ朝が来ないってのは少々妙だな。
試しに小屋の戸を開けてみると、外の様子がおかしいことに気が付いた。
世界が、闇に覆われていた。
具体的に言えば、空が暗雲に覆われ、太陽の光が遮断されている。
おそらく完全に光が遮断されている、というわけではないだろうけど、少なくとも日中とは思えないほど暗い。
いったいなぜこんなことに…?
ひとまず小屋の中に戻った俺は、状況を軽く整理する。
昨晩急に体に異変が起こった。
起きたら魔法使いになっていた。
あと目が暗視やら光に対する耐性やらができていた。
検証を重ね、暫定的に光を出すだけの魔法と分かり、『光輝魔法』とした。
外に出たら空が闇に覆われていた。
…分からん。
昨晩体に起こった変化というか、夢?は、おそらく魔法使いになったことに関係するのだろう。
で、暗い中でも明るい中でもよく見えるってのも魔法使いになったことの副次的なものだろう。
ただ、そのが急に闇に覆われてるのは本当によくわからない。
あてにならないかもしれないが、俺の体感ではもう完全に日は登っているはずだ。
村に戻れば時計があったはずだが。
…そうだ。いったん村に帰ろう。
何が起こってるのかわからないが、俺の身に起こった変化とかも含めて、いったん誰かに相談したいからな。
夜道と変わらない暗さの中で村に帰るのは苦労しそうだが、光輝魔法を駆使すればこの辺で出る魔物とかは何とか…なる、はずだ。
今までだって魔術はあくまで補助で使ってきたものだし、無くても何とかなるだろう。
俺は持ってきた荷物を纏めると、村へと急ぐのだった。
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