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オルスティアの空〜無能力だとしても最強の斬撃で敵機撃墜〜【バンダナコミック応募用】

作者: 若羽

本作品は、現在連載中の【オルスティアの空〜無能力だとしても最強の斬撃で敵機撃墜〜】を、バンダナコミック縦スクロール漫画原作大賞メカ・ロボット編 投稿用に10000文字以内でまとめた短編シナリオ版になります。

 浮遊大陸と浮遊島から形成される天空界オルスティア。そのとある空域にて、ソードと呼ばれる巨大人型兵器同士が激突の火花を散らしていた。


 そして、強襲部隊側が駆るカットラスという名のソードに向けて閃光が(はし)り、計三騎が胴を瞬断され、空中で爆散する。


 それは強襲部隊に突如立ち塞がった一騎のソードにより放たれた、斬撃による一閃だった。


「何だあの……白いソードは?」


 瞬時に三騎のカットラスを撃墜され、強襲部隊の騎士は驚愕する。そこに浮遊していた一騎のソード、とある騎士の専用騎であるそれの名は天叢雲あめのむらくもであった。


 そしてそれを駆るのは、右頬に黒い片翼のような痣を持つ黒髪金眼の少年。名をソラ=レイウィングといった。


「全騎、結界を張れ!」


 強襲部隊長の指示で、カットラス全騎がそれぞれ結界を張り、光の膜に包まれながら防御の態勢を取る。


 すると、天叢雲の左腰部に接続された雷電螺旋加速式投射砲(ヤサカニノマガタマ)と名付けられた聖霊騎装の砲身が展開され、砲弾が放たれた。


 土の聖霊の意思により硬化させた砲弾を雷の聖霊の意思により電磁加速させ、砲身内部の構造と特殊砲弾による超回転を加えさせた実体砲撃は、カットラスが展開する結界に直撃。


『なっ!』


 更に、実体攻撃を防ぐ筈の結界に直撃した砲弾は、弾かれる事なく超回転を(もっ)て、結界を削りながら穿通していくと、遂には結界を貫き、カットラスの腹部――動力へと到達し、爆散させた。


『がああああっ!』


 結界をも無効化させる強力な聖霊騎装を持つ天叢雲に、強襲部隊の騎士達は最大限の警戒を抱く。


『何なんだあのソードは!? しかもあの外套がいとう(※マントのこと)の色……ただの蒼衣そうい騎士じゃないか!』


 強襲部隊の騎士の一人は、天叢雲が形成する光の外套の色を見て驚愕混じりに言った。ソードに蒼い色の外套を形成させるのは、蒼衣騎士と呼ばれる何の能力も持たない最弱の騎士であるからだ。


 しかしその最弱である筈の騎士に圧倒されている矛盾という名の現実がそこには在った。


「狼狽えるな、あのソードの属性は光、カットラスの属性は雲。属性の利はこちらにある」


 そしてカットラス複数騎の両肩部が開放されーー思念操作の特性を持つ雲と、切断の特性を持つ風の聖霊の意思を組み合わせた聖霊騎装、思念操作式飛翔刃(レイヴン)が射出され、羽根の形状をした刃数十基が天叢雲の周囲を飛び交う。


 直後、ソラは天叢雲が持つ刀の形状をした聖霊騎装、羽刀型刃力剣スサノオかすみに構えさせた。


 身を翻し、飛び交う刃をかわしながら放つ無数の剣閃が思念操作式飛翔刃(レイヴン)を斬り裂き、遂には全ての思念操作式飛翔刃(レイヴン)を払ってみせた。


「ば、馬鹿な!」


 数騎から一斉に放った思念操作式飛翔刃(レイヴン)が全て落とされ、驚愕する強襲部隊長。


 次の瞬間、天叢雲が推進を最大にし、瞬時に距離を詰めてくる。


「うわああああっ!」


 強襲部隊長は恐怖混じりでカットラスに刃力剣クスィフ・ブレイドを抜かせると、向かってくる天叢雲へと斬りかかる。


 しかし、その斬撃が振り切られる前に、天叢雲は擦れ違いざまにカットラスの頸部と腹部の二つを断っていた。


「な、何なんだ……お前は……一体?」


 そして動力を破壊された強襲部隊長のカットラスが空中で爆散した。



 そんな強襲部隊長の残した最期の言葉にソラは心外だとばかりに反応する。


『何って……どう見てもただの蒼衣騎士だろ俺は』





 〜二年半前〜



「ソラ、十五の誕生日おめでとう」


 エリギウス帝国が所持する騎士要請所の食堂で、ソラの十五歳の誕生日に祝いの言葉を投げかけたのは、背が低く気の弱そうな青髪の騎士候補生の少年、ソラと同じ騎士要請所に所属するアイデクセだった。


「あ……ああ、ありがとな」


 素直な感情でソラを祝すアイデクセに対し、ソラは若干引きつった笑顔で礼を返す。


「あ、そうかごめんソラ……僕無神経だったね」


 それを見て、はっとしたように謝罪するアイデクセ。


「い、いいよアイデ、気にすんなって」


 この十五の誕生日はソラにとっては、とある理由で喜ばしい日では無かったのだ。するとそんなやり取りを見ていた同じく騎士候補生である金色の髪と褐色の肌をした目つきの悪い少年が、ニヤニヤと悪意の籠った笑顔で言う。


「よおソラ、十五の誕生日だってなあ、おめでとさん」


 その少年の名はナハラ。ソラはナハラに対して明らかに嫌悪を抱いた表情を向けたがナハラは構わず続けた。


「これで永久に蒼衣そうい騎士確定、騎士養成所も追放決定だな」


「いちいち言われなくてもわかってるよ、本当嫌な奴だなお前」


 騎士には隊や団としての階級とは別に、能力としての階級が存在する。通常の騎士から覚醒し、常人を凌ぐ身体能力や第六感を得られた騎士を銀衣騎士と呼び、このエリギウス帝国において騎士団を構成するほぼ全ての者がこの銀衣騎士となっている。


 そして銀衣騎士から更に覚醒し、特殊な術を扱えるようになった騎士を聖衣騎士と呼び、騎士の師団長級はこの聖衣騎士であり、エリギウス帝国の騎士の中でも数える程しか存在しない。


 また、銀衣騎士に覚醒していない、通常の人間と能力的には何ら変わらない騎士を蒼衣騎士と呼び、蒼衣騎士のまま十五の誕生日を迎えてしまった者は、エリギウス帝国直属の正規の騎士として配属されることは不可能となってしまう。


 つまり蒼衣騎士から銀衣騎士へと覚醒出来る可能性があるのは、十五の齢になるまでなのである。


「はっ、何にせよ落ちこぼれがいなくなってせいせいするな」


 ソラは、そのようなナハラの攻撃を意に介さず飄々とした口調で返した。


「……ナハラ、もしかしてお前さ」


「あん?」


「まだ根に持ってたりする? お互い蒼衣騎士だった時俺に負けた事」


 ソラは特に悪意があった訳ではなく、単純に脳裏に浮上した疑問をぼそっと呟いた。するとナハラの額に青筋が立つ。


「殺すぞてめえ、俺が銀衣騎士に覚醒してからは、てめえは一度たりとも俺に勝てなかったの忘れたのか? あ?」


 直後、ナハラは腰の鞘から剣を抜いて詰め寄ると、切っ先をソラへと向けた。


「あー勿論覚えてるって、マジで怖いからナハラ君、顔近いし……謝るから、だからお願いだからその物騒なやつしまってって」


 ソラの謝罪を聞き、舌打ちをしながら剣を鞘へ納めるナハラ。


「さっさと養成所から消えな、二度と俺の前にその面見せんなよ」


 そしてそう言い捨て、ナハラはその場を立ち去った。


「ったくなんなんだよあいつ。情緒不安定すぎんだろ」


 そんなナハラに対して口を尖らせて愚痴をこぼすと、ソラもまた食堂から立ち去った。





 騎士養成所内にある所長室、ソラはノックをして扉の前に立つ。


「入りなさい」


 入室を許可する声にソラは扉を開けると、絢爛な机に備わったこれまた絢爛な椅子にふんぞり返る、銀色の髪をオールバックにした老齢の男性がそこに座っていた。

 

 この騎士養成所の所長を務める、ディラン=ラトクリフである。


「第45期ソラ=レイウィングは――」 


「ああ、もういいからそういうのは」

 

 ソラの申告に割って入るディランは、一見穏やかでにこにことした様子であるが、その目の奥からは明らかにソラに対する侮蔑の念が漏れ出しているかのようであった。


「ソラ君聞いているよ。君は今日で15の歳。そして銀衣騎士への覚醒は果たせなかった。つまり騎士候補生としてここに居られるのも今日までだ」


「はあ、そうみたいですね」


 飄々とした様子でソラがそう返すと、苛立ちを表しながら言い捨てるディラン。


「とにかく、お前は銀衣騎士となり帝国に忠誠を尽くして貢献するという条件で、仕方なく入所させてやったんだ。これでようやくお前を騎士養成所から追い出す事が出来る」


「別にそこまで嫌わなくたっていいでしょ、まあでも約束は約束ですからね、ちゃんとここは出て行きますよ」


「ふん、薄汚い”混血種”が。二度とその面を見せるんじゃないぞ」


 元々エリギウスの民では無かったソラがとある人物の推薦でこの騎士養成所に入れたのは、銀衣騎士に覚醒し、帝国の戦力の一端を担う事が前提条件であったのだ。そしてディランの言う通り、銀衣騎士に覚醒出来なかったという事は、この養成所を去らなければならない事を意味していた。


 こうしてソラは、この帝立騎士養成所を去る事になり、一旦荷物をまとめる為に寮へと戻るのだった。





 騎士養成所に隣接された騎士候補生用の寮。四人一組のその一室にはソラとアイデクセ、そして他の若い二人の騎士候補生がいた。


 この養成所での、同期からのソラの扱いは決して良いものでは無かった。エリギウスの民とナハジの民の混血種であるソラを毛嫌いするディランや、ソラを目の仇にするナハラからの根回しがあったからだ。


 荷物をまとめ終え、部屋を後にしようとするも、自分を気に掛ける様子もなく騎士候補生の二人は構わず雑談を続ける。その様子に、ソラはベッドに座る二人の間に割って入った。


「おい! 同じ釜の飯を食った仲間とのお別れを惜しむこともせず何だべってんだ、お前らは鬼か」


 すると、二人の騎士候補生は仕方なさげにソラへと返す。


「あ、いや、その……」


「は?」


「ど、どうやら昨日、レファノス王国・メルグレイン王国連合騎士団〈因果の鮮血〉の連中が、イェスディラン群島の浮遊島の一つに攻め込んできたらしいんだよ」


「へえ、そりゃ大事だな」


「ああ、でもあのエリィ=フレイヴァルツ率いる第二騎士師団〈凍餓とうがの角〉の騎士達が見事撃退したんだってさ、しかも〈凍餓とうがの角〉はたった数騎だったって話だ」


 それを聞き、ソラの表情が僅かに強張った。しかしその話に特に食い付く様子も無く、気の抜けたような調子で返す。


「まあそりゃ確かに凄い話だけども……それにしてもお前ら、さすがに俺に対して冷たすぎじゃないの?」


「あ、いや、ほら、どうせお前騎士諦めても伝令士か鍛冶かぬちにでもなるんだろ? その内どっかで会えるって」


 伝令士とは前線で戦う騎士達に指令や敵の情報等を送る役割を担う非戦闘員の事であり、鍛冶かぬちはソードの修理や整備、時には開発等を行う技術者の事である。


「まあ確かにな。じゃあそういうことで……元気でな」


「おー元気でな」


 あまりにもあっさりとした同部屋の騎士候補生達の態度に、若干の寂しさを覚えつつも、確かに言う通りだと納得し、ソラは五年間世話になった部屋を後にした。


 ――鍛冶かぬちか伝令士……ね、これからどうしたもんかな。


 すると、この先を一人憂いるソラの後をアイデクセは追いかけて来る。何かを言いたげに、口ごもりながらも伝える。


「……ソラ、僕はちゃんと寂しいよ」

 

 それを聞いたソラは、俯いたまま呟くアイデクセの頭をわしゃわしゃと掻きむしって言った。


「分かってるよ、落ちこぼれ仲間だったからなあ俺とアイデは」


「うん」


「でも諦めんなよ、アイデは十五の誕生日まで数か月あるんだからさ」


「……でも僕なんかじゃ」

 

 アイデクセが何かを言い淀むと、それを遮るようにソラはアイデクセの頭を再びかきむしった。


「大丈夫だよ、アイデならきっと」


「ソラ……ありがとう。もし僕が正規の騎士になってエリギウスの騎士団に入団出来たら、ソラの伝令で、それかソラが整備したソードで精一杯戦うから」


「ああ、絶対どっかの騎士団で一緒に戦おうな」


 ソラは笑顔で応えると、拳を突き出した。アイデクセはそれを見て微笑み、その拳に自分の拳を合わせた。



 数分後。


「あ、そうだ」


 ソラは思い出したように懐に手を入れる。そこから取り出したのは、拳大程の、紫色に発光する石だった。それはソードの核となる雷属性の聖霊石である。


 この騎士養成所では現役を退いた使い古しのソードが演習用に五騎配置されており、騎士候補生達により共用で管理、整備されていた。


 そして今日はソラがその内の一騎であるグラディウスの管理、整備担当であったため、朝にその核である聖霊石の申し送りを受けていたのだ。


「危なかったな、聖霊石持ってるの忘れて養成所出ていくとこだった」


 ソラは面倒なことにならなくてよかったと胸を撫で下ろすも、この聖霊石をどうするかでしばし悩んだ。なぜなら、翌日のグラディウスの管理、整備担当はナハラであるからだ。


 ――あいつには会いたくないな、二度と面見せんなって言われてるし……アイデクセに頼んでもいいんだけど、あんな爽やかな別れをして今さら戻るのもなあ。


 ソラは考えた末、聖霊石をグラディウスの操刃室内の台座に装着してから養成所を出ることに決めたのだった。そうしてソラは寮から養成所を挟んで反対側に位置するソードの格納庫に向かい足を運ぶ。



 格納庫には五騎のソード、エリギウス帝国で使用される主力量産剣グラディウスが二騎と、同じく主力量産剣であるカットラスが三騎並んでいた。


 五騎のソードはそれぞれ片膝を付き、鎧胸部(がいきょうぶ)を開放させて操刃室を露出させている。

 

 ソラは五騎のソードの内、自身が本日整備担当であったグラディウスの前に立つと、操刃室を見上げた。片膝を付いているとはいえ操刃室までは建物の二階部分に相当する高さはあるが、ソラはグラディウスの立てている膝に飛び乗ると、そこを踏み台にして更に飛び、そのまま操刃室へと入る。

 

 そしてソラは、己が所持している聖霊石を、眼前の晶板手前に設置された台座に置こうとした所で気付く。


「何だこれ?」


 台座には既に灰色の聖霊石が置かれていたのだ。しかもその聖霊石はソラが知っている聖霊石よりも輝きが強く、石の内部には雲の形を抽象的に描いたような紋章が刻まれていた。


 ――これ……この聖霊石って確か。

 

 その正体を記憶の奥底から探り当てようとするソラ。するとそれを養成所の授業で習ったことがあったのを思い出す。現在ソードの核として使用されている聖霊石は、各国家の大地から掘り起こされる天然の鉱石。


 その種類は空系統の光、雷、風、雲。地系統の闇、水、炎、土。色はそれぞれ白、紫、緑、灰。そして黒、青、赤、黄。聖霊石の純度によって輝きの強さは違えど石の大きさは一定である。

 

 しかし、大聖霊の意思が込められ、神剣と呼ばれる特別なソードの核となる大聖霊石は、通常の聖霊石よりも遥かに強い輝き、そして内部に各属性を抽象的に描いたような紋章が刻まれているという。


 ――もしかして……これは大聖霊石? 確か養成所の地下で雲の大聖霊石が保管されてるって聞いたような……いやでもまさか、こんな所にある訳ないし、ああそうか誰か俺を驚かそうと大聖霊石の偽物でも作って――


 そう心の中で呟き、自分に言い聞かせながら台座に置かれたそれをまじまじと見つめるソラ。


「何か神々(こうごう)しい!」


 その時だった。格納庫に何やら慌ただしい様子で数人の教官や守衛騎士達が入ってきた。


「まさか雲の大聖霊石が盗み出されるとは、あれだけ厳重な警備の中いったいどうやって!」


「何らかの“竜殲術(りゅうせんじゅつ)”を使ったに違いない」


「犯人はまだ近くにいる筈だ、必ず探し出せ!」


 ――なっ、これじゃあまるで……


 教官や守衛騎士達の会話を聞き、杞憂が確信へと変わる、そしてこの状況で見つかればどのような誤解を招くかは想像に難くない。生唾を飲み込み、冷たい汗を滲ませ、固まるソラ。


「おい、そこにいるのは誰だ?」


 次の瞬間、ソラはすぐさま守衛騎士に見つかる。


「いやあ、その……」

 

 しどろもどろになりながら、どうにか弁明しようと画策するソラであったが、守衛騎士の視界には既に台座と、台座に置かれているものが映り込んでいたのだった。


「おい、お前その台座に置かれてるのは……雲の大聖霊石!」


「いや、違っ――俺はただ今日で養成所を去るんでグラディウスの聖霊石を返しに!」

 

 ソラは懐からグラディウスの聖霊石を取り出し、苦し紛れに守衛騎士に見せた。


「貴様、そのグラディウスで逃げるつもりか? そうはさせん!」


「いや、何でそういう解釈になっちゃうんです?」


 その行動は逆効果だったようで、守衛騎士は犯人を逃がすまいと突如、腰の鞘から剣を抜き、一足飛びでソラの座る操刃室へと飛び掛かって来た。


「おわっ!」


 驚いたソラは咄嗟にグラディウスの鎧胸部を閉じる。


「うぐっ」


「……あ」


 すると、鎧胸部に弾かれ、守衛騎士は地へと叩き付けられた。


「いや、今のは違うんです、今のは本当にそういうつもりじゃなくてですね」


 ソラは必死に弁明するも、一部始終を見た教官達や守衛騎士達がグラディウスの足元へと続々と集まってくる。


「反撃してきたぞ」「おい貴様、降りてこい」


「生きて逃げ切れると思っているのか?」「すぐにソードの準備を、絶対に逃がすな」

 

 守衛騎士と教官の内の数名は剣を抜いて威嚇、他数名は守衛用のソードが格納された格納庫へと向かった。


 ――あ、駄目だこれ、絶対許してもらえないやつだな。


 ソラは今置かれている絶体絶命の状況の中で、脳をフル活用し、自分がすべき行動をいくつも想定した。弁明、謝罪、逆切れ、そして出された結論。


「……逃げるしかないか」


 台座に置かれた雲の大聖霊石を懐にしまい、代わりに台座にグラディウスの核となる聖霊石を置く。


 するとソラの刃力が聖霊石を通して流れ、動力が稼働。聖霊石の置かれた台座は動力炉へと格納され、晶板(しょうばん)に明かりが灯り、操刃室の壁面がまるで透明にでもなったかのように全て外部の情景が映し出される。更にグラディウスの双眸(そうぼう)が輝いた。

 

 直後、グラディウスの背部に備わった、刀身の形状をした四本の推進翼から蒼色の粒子が放出され、同色の光の外套が形成された直後、グラディウスは高速で浮上、格納室の天井に激突。


「ぐおっ」


「うわあっ」


 破壊され、崩壊した天井の破片が次々と落下し、緊急的にその場から避難する教官達と守衛騎士達。

 

 そしてソラの行く手には阻むものは何も無く、蒼く広く自由な虚空だけがただただ広がる。


「誤解だって言ってるだろ!」

 

 ソラのそんな悲痛な叫びは、眼前にどこまでも広がる蒼天に、溶けて消えた。



※     



 蒼穹はどこまでも続いていた。


 そして見渡す限りの青と、その背景を彩る僅かばかりの緑と白が世界を造っている。そんな天空界オルスティアで、虚空に浮かぶ島々を越え、雲を突き抜け、一つと、それを追う四つの高速飛行物体があった。


 この世界がかつて地上界ラドウィードに在り、竜と呼ばれる存在が世界に君臨していた時代、その竜に対抗する為に開発され、騎士達の新たな剣となったそれらは、現代においても(なお)武力の主とされる駆動竜殲騎(くどうりゅうせんき)と呼ばれる兵器。古代エリギウス語でSteer Worknight’s Of Ruin Dragonの頭文字を取りSWORDソードと名付けられている。


 この空を飛翔する計五騎のソードの騎体名はグラディウス。エリギウス帝国が保有している主力量産剣である。


 また、追われている一騎のグラディウスが放出する粒子が形成する外套の色は蒼、そしてそのグラディウスを追う四騎のグラディウスが放出する粒子が形成する外套の色は銀色である。



「あーもう、しつこいなあ!」


 追われる一騎のグラディウスの中で、ソラの悲痛な叫び声がこだました。


「いい加減諦めてくれよな、もしかして暇なのか?」


 追跡が開始されてから数十分が経過し、ソラはたまらず叫ぶ。そんなぼやきを伝声器越しに聞いていた、グラディウスを操刃する同じくエリギウス帝国の騎士であろう追手の内の一人が応える。


『暇な訳あるか! てめえが逃げなきゃこっちだって追わねえんだよ』


「そっちが追わなきゃこっちだって逃げないっての!」


『あのなあ、てめえが持ち出したのは“大聖霊石”なんだぞ、解ってるのか?』

 

 少年は懐に忍ばせた拳大の、灰色に輝く石……雲の大聖霊石をちらりと一瞥(いちべつ)しながら、今自分の置かれている状況を振り返った。


 一騎ですら国家の最大戦力になりえる神剣の核、それを今自分が所持しているという現実に改めて背筋が凍り付く。


 四騎のグラディウスは刃力弓クスィフ・ドライヴアローの銃口をソラのグラディウスに向け続けるも、威嚇射撃以外でソラは一度たりとも撃たれることは無かった。大聖霊石を持っている以上、自分が撃墜されることは無い、ソラもそれを分かっていた。


 しかしこのまま飛翔し続けていても追手を振り切ることは出来ない、いずれソードの動力となる刃力(じんりょく)、つまり人が体内に持つ聖霊の意思も尽きるだろう。

 

 詰みの見えているジリ貧状態の中でソラはぼやく。


「くそっ、何でこんな事になったんだっけ?」

 

 ソラが無意識に、今のこの状況に陥った原因を振り返ったその時だった。青に覆われ続けていた世界の眼前に、黒い暗幕が広がっていることにソラは気付く。


「あれは!」


 浮遊島一つを優に飲み込むだろう巨大な楕円形をした“それ”に対して、ソラは速度を緩めることなく、真っ直ぐに突っ込もうとした。対照的に騎体を減速させ、やがて空中で停止する追手の騎士達。


『やめろ! 止まれ!』


 追手の騎士の静止に耳を傾けることなく、ソラは“それ”へと突き進む。“それ”の正体の名は“竜卵(りゅうらん)”、時に島や大陸そのものに甚大な被害をもたらす、雷と気流を孕んだ雲の塊である。


 竜卵へ突入したところで、それは単なる自殺行為、どうにもならないことは分かっていた、しかしそれでも戻れば確実に捕獲される未来しかない。進むことも戻ることも出来ない、前門の虎と後門の狼……そしてソラは虎を選ぶのだった。


「あんた達のせいで、分の悪い賭けをしなくちゃならなくなった」


『元はと言えば貴様が――ってそんな事よりよせ、大聖霊石が!』


 追手の騎士の最後の忠告も無視し、ソラは竜卵の中へと飛び込んだ。

 

 瞬間、凄まじい雷と磁場の嵐に飲み込まれ、騎体はコントロールを失い、眼前の透明の板へと映し出されていた探知器の表示も消え去る。更に気流の渦は上下左右の方向感覚すらも失わせ、轟く雷鳴は聴覚すらも機能させない程であった。


 ――甘かった。

 

 ソラはすぐさま後悔した。無茶ではあるが、この雷雲の塊さえ強引に抜けてしまいさえすれば何とか逃げ切れる。そんな淡い期待は一瞬で消え失せた。そして“死”その一文字だけが脳裏を過る。


「くそっ、まだ死ぬわけにはいかない……俺にはやらなくちゃならない事があるんだけどな」


 直後、ソラは操刃するグラディウスの目の前に、グラディウスと同じ程度の直径の、円形をした空間の歪みのようなものが出現したのを確認した。


「はあ、これがあの世への入り口ってやつなのか?」


 それを最後に、ソラの意識は途絶えた。




※      ※      ※     

     


 群島国家レファノスのとある島、澄み切った青空の下、幼い頃のソラと、黒紫(こくし)髪に紅い瞳を持つエルという名の幼い少女が隣り合って座っていた。


「なあ、あの話……もう一度聞かせてくれよ」


 ソラがそう言うと、エルは表情を綻ばせて返す。


「ははは、君は本当にこの昔話が好きなんだな」


 そんな笑顔がソラの顔を真っ赤にさせたが、エルはそれを見て柔らかな微笑みを浮かべた後で続ける。


 竜祖セリヲンアポカリュプシス、それは全ての竜の母にして竜の皇。


 遥か古、この世界は八つの元素から始まった。


 光、雷、雲、風、闇、水、炎、土。この八大元素からやがて構築された世界の中で元素はそれぞれが意思を持つようになり、聖霊と呼ばれる超常たる存在へと昇華した。


 更に光、雷、雲、風の聖霊が集合し空の聖霊神カムルへと成り、闇、水、炎、土の聖霊が集合し、地の聖霊神ラテラへと成った。


 八大元素で構築された世界を、実体無き八大聖霊と、空の聖霊神カムル、地の聖霊神ラテラ達の強い意思だけが司っていた。それから永い時が流れ、聖霊達の意思は具現化を果たし、遂には生命体を生み出すことに成功する。


 後にラドウィードと呼ばれるその世界に生み落とされた最初の生命体、それが竜と呼ばれる古代生物だった。


 その始まりの竜は八つの元素、すなわち八つの属性を持ち、七つの首を持つ黒き竜。それが全ての竜の母にして竜の皇、竜祖セリヲンアポカリュプシスであった。



※      ※      ※     




 「エル、俺は必ずお前を……」


 そう呟きながらソラがベッドの上で目を覚ます。そこはツァリス島と呼ばれる島、独立傭兵騎士団〈寄集よせあつめ隻翼せきよく〉の本拠地である。


 ーーなんだか懐かしい夢を見てたな……騎士養成所の頃の夢と、小さなガキの頃の夢……


 ソラはベッドの上で大きく背伸びをしながら先程まで見ていた夢の内容に想いを馳せる。


 その直後、ソラの部屋の扉を勢いよく叩く声と共に、女性の叫びがこだました。


「いつまで寝てるのよ団長! メルグレイン王国にエリギウス帝国騎士師団からの進軍を確認、救援要請が来てるわ!」


 それを聞き、ソラはおもむろに体を起こすと大きく溜め息を吐いてぼやいた。


「はあ、やっぱり慣れないんだよなあ……その団長っていうの」


「言ってる場合!?」



 その後ソラは、格納庫へと足を急がせ、一騎の白いソードに搭乗した。ソラが握る操刃柄レバーを通して騎体の核となる聖霊石に刃力が注入され、動力が起動する。


 そして格納庫の天井が開かれると、そこにはどこまでも自由な空が広がっていた。


 「天叢雲あめのむらくも、ソラ=レイウィング、出陣する!」


 天叢雲あめのむらくもと名付けられた一騎のソードは、蒼い光の外套がいとうをたなびかせ、オルスティアの空へと飛び立った。

【↓連載版オルスティアの空】

https://ncode.syosetu.com/n5514in/


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m(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 連載版のお話の冒頭、“蒼い空の中を駆ける蒼い衣の少年騎士をのせた騎士型ロボ”…という、私の心をぶち抜いたとんでも素晴らしいビジュアル構成が、こちらでもがっちり強調されていて嬉しかったです~…
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