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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード1 「私を探して」
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「私を探して」part.7

 クレイ王国はカムイと共にあったと言っても過言ではない。世界中のあらゆる場所に存在する不可視のモノ。

 人の精神に反応し様々な現象を起こすそれを人々は『カムイ』と呼んだ。カムイを自在に操ることができる者はほんの一握りの存在だった。

 その中でも特筆すべき力を持っていた男がカムイを統べる王を名乗り、五百年余り続くクレイ王国の礎となった。

 ただし、カムイを操る力は血筋で受け継がれるものではなかった。初代王の亡き後、王座をめぐって大きな内乱が起こることとなった。

 その結果として世襲制ではなく、力の最も強い者が王となり国を治めるという仕組みが形作られた。


 そして現在より約八十年前、カムイにまつわる技術革新が起こる。物理的な力を持つ直前の状態でカムイを保存する技術カミイケの誕生だ。

 カミイケが組み込まれた機械を使えば、力の弱い国民でも決まった作用であればカムイを行使できる。たとえ中のカムイがなくなってしまっても、新しいものと交換すれば再度使用が可能だ。

 例えば湯沸かし、例えば荷車の駆動、例えば銃弾の発射。これによりクレイ王国は一気に発展し、繁栄を築くことになる。

 タケキは歴史の授業でそう教えられていた。戦後は共和国の指導によりカムイに関わる部分が大幅に変更されたのは言うまでもない。


 タケキ達の目前にはクレイ王国軍需の総本山であった工場地帯の、正に中心部とも言える中央棟がそびえ立っていた。

 今はもう見る影もないがカムイを用いた様々な兵器や軍事技術が開発された場所だ。超高濃度に圧縮したカムイを金属の筒に保存する技術もそのひとつである。


「おかしい」

「うん、おかしい」


 タケキとホトミの感覚は同じだった。敷地に侵入してからここにたどり着くまで、順調に事が運びすぎている。

 過去の『仕事』では規模の大小はあれども、どんな施設でも必ず警備体制が敷かれていた。タケキ達は時には慎重に、時には強引に潜り抜けてきた。

 だが、ここにはそれがない。レイジの情報が間違っていたのか、テロリストを捕らえるための罠か。それとも他に理由があるのか。


「退こう」


 一瞬の逡巡の後、タケキは撤収の意思をホトミに告げた。レイジには申し訳ないが、ここは安全を取るべきだと全身の直感が告げていた。ホトミもそれに同意して頷いた。


『……けて』


 身を翻した時、タケキの耳に微かな声が入ってきた。ホトミの声ではない。違う、声ですらない。タケキは体を強ばらせ身動きを止める。

 時が経ち、凄惨な記憶や穏やかな記憶が重なっても鮮明に覚えている出来事。そのきっかけとなった声でない声と同じだった。


「タケ君?」


 タケキの様子がおかしい事に気づいたホトミが問いかける。どうやらホトミにそれは届いていないようだ。


「ホトミ、すまない。お前だけでも帰ってくれ」

「え?どういうこと?」


 唐突な言葉に動揺するホトミ。単独行動の提案は仕事をする中で初めての事だった。驚きはしたが、覆面から覗くタケキの目を見れば何かの苦悩があるのはすぐにわかった。それを隠そうとしているのも、ホトミには手に取るようにわかる。

 一体どれだけ君のことを見てきたと思っているのさ鈍感男め。


「私も一緒に行く」


 その申し出にタケキは嬉しいような悲しいような気分になる。危険と悲劇があるのがわかっているからだ。できればホトミを巻き込みたくない。特に命のやり取りはさせたくなかった。


「たぶん、また殺すことになる」

「一人で抱えなくていいよ。私が付き合ってあげる」


 ホトミはタケキの掌を握り、そう答えた。タケキは温かなそれを振りほどくことはできず、頷くのみだった。仕事が理想的な形で終わり、本当に平穏を受け入れられるようになったらこの想いを告げたいと思った。


 二人は鍵のかかっていない鉄製の扉を開け、中央棟へ入っていった。覚悟さえ決めてしまえば、隠れる必要などない。堂々と入って 目的を果たせばいい。武装した兵士が何人、何十人いようとも、彼らを止められないのだから。

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