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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード1 「私を探して」
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「私を探して」part.6

「モウヤはカムイを軍で使うつもりだ」


 二年ほど前、突然タケキとホトミの元を訪ねてきたレイジはそう言った。それは、終わったはずの戦争が続いていたことと同義の言葉だった。

 現在モウヤ共和国軍が使っている機械、火薬、電気などを使った兵器にカムイを加えれば考えるまでもなく強大な戦力となる。そして、その用途も容易に想像できる。


 殺し合わない世界を受容できるようになってきたタケキにとって、それは許し難い事実だった。

 レイジによると、カムイを軍事利用するには長年軍事に使ってきたクレイ王国の設備で行う方が効率がいい。戦後一斉に王国の軍需工場が閉鎖されたのは、そこで研究を進めるためだそうだ。


「なぜ隠れてやる必要があるんだ? 戦勝国なら堂々とやればいいのに」

「あくまでも俺の予想なんだが、単なる軍事利用ではないのではと考えている。共和国内でも賛否が分かれるような何かがある気がする」


 あくまでも予想と言いながらも、レイジの目は真剣だった。それを察したホトミが問いかける。


「レイジ君、使った?」

「ああ、少しだけ」


 心配そうに顔を覗きこむホトミに、レイジはばつが悪そうな苦笑を見せる。


「お前がそこまでするってことは、そうなんだな」


 レイジはカムイを使って人の心を読むことに長けていた。思考を完全に把握できるわけではないのだが、大まかな方向性は認識できる。

 タケキ達はこの力のおかげで何度も命を拾った経験があり、その信頼は絶大なものがあった。ただし、それはカムイを無制限に近い状態で使えた戦時中の話だ。

 使用が原則禁止された戦後では、犯罪と扱われる。


 特に諜報員として共和国側の立場であるレイジだ。発覚すれば極刑に処されても不思議ではない。聡明なレイジが危険を冒す覚悟をしたということは、あまりにも急を要する事態なのだろう。

 それを緩いとはいえ監視対象であるタケキ達に話すということは、周りに頼れる存在がいないということだ。タケキはそう理解した。


「レイジ、手伝うよ」

「いいよ、私も」

「ありがとう。すまない」


 レイジは涙を流した。


 レイジの計画そのものは単純なものだった。共和国が研究に使っている施設へ潜入して破壊する。

 その際に本当の狙いに繋がる情報を捜索する。タケキ達には実行部隊を担い、レイジはそれに伴う情報集めやカムイの調達を行う。


「それ、お前のリスクが高すぎるだろ?死ぬ気か?」


 タケキの疑問は当然だ。この計画は事前準備が難しすぎる。不可能とも言えるくらいだ。共和国が秘密裏に行っている研究の場所などそう簡単に特定できるわけがない。

 更に、厳重に管理されているカムイを手に入れるなんて、タケキには手段が想像できなかった。


「そこは心配するな。お前らに命を懸けさせるんだ、それくらい任せてくれ」


 レイジは微笑んで言う。タケキ達は深く聞くことはしなかった。レイジの決意を尊重したかったからだ。


 二年の間に六度の『仕事』を実行した。レイジの情報に誤りはなく、王国が使っていたカムイを応用した兵器と共和国の火薬等を使った兵器の融合を研究しているようだった。

 ただ、それ以上のものは見つからなかった。


 三回目が終わった頃、秘密裏に行っていたこととはいえ、甚大な被害を受けた共和国は『廃工場を襲うテロ』として正式に捜査を始めた。

 当然カミガカリであったタケキ達も容疑をかけられるが、二度簡単な取り調べを受けただけで放免となった。

 本人から直接聞いたわけではないが、レイジが何かしらの手を回したことは明らかであった。ただし、監視が厳しくなる懸念も残るためレイジとの接触は減り、言葉を交わす量も少なくなっていった。

 それでも三人の意思は一つだった。


 そしてこの七回目の『仕事』だ。レイジから渡された地図は正確で、所々崩れていたりもするが、建物の配置は概ね相違ないようだ。

 塀に穴を開けたのが工場の南東、地図に印が打ってあるのが中央やや南寄りに建つ中央棟。それほど遠くはなく、警戒しながら移動しても十数分といったところだ。

 今度こそ何かを掴まねば。タケキとホトミは焦りを感じながら工場地帯の敷地内を進んでいた。

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