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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード5「この掌の刃は」
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「この掌の刃は」part.4

 眼前に並ぶ人の壁は、先刻とは様子が違っていた。人数には大差ないのだが、その構成が異なっている。集団の三分の一程度だろうか、老人や女の姿が目立つ。

 戦いとは無縁である存在が、敵意を向けタケキ達を阻んでいた。


「タケ君」

「総動員みたいだな」


 手に持っている物も、武器と判断できそうなものが減っている。石だったり、木の棒だったり、素手の者すらいた。

 先程と同様にここへ突入するかと考え、タケキの額に汗が滲んだ。


「行くしかないよね。盾は任せて」


 ホトミがカムイを行使し、弾力のある盾を形成する。


「大丈夫か?」


 カムイは行使する者の意思で操る。複雑な操作であればある程、精神的な負担は大きい。

 本来は堅固なものである盾に柔軟性を持たせるのは、かなりの集中力を必要とするはずだ。

 単に突っ切るだけでは、いつかホトミに限界が来る。このままの方法では、数にすり潰されるのは時間の問題だ。


 それに、戦闘に無関係である人々を傷付けるのは避けたい。

 盾に激突することでの怪我はホトミの工夫で防げるが、弾き飛ばされた人による二次被害までは対処できない。

 ただ、特に対策のない現状ではそうせざるを得ない。タケキは自身の意思と相反する行動に、強く歯噛みをした。


 状況はタケキ達を待ってはくれない。敵意と殺意の壁は、すぐ近くまで迫っている。

 先頭近くにいる若い女が、手に持った石を投げた。それに触発されるように、人の壁は前進を始めた。


「速度は緩めないでね」


 釘を刺しつつ、ホトミは盾を展開する。こういう時の彼女は、腹の括れないタケキよりも強い。

 二度目の包囲を突破するため、サイドカー付きの二輪車は人の壁に突っ込んだ。

 盾に当たった老人が悲鳴をあげて吹き飛ぶ。弾かれた女の持った石が、隣りにいた男の頭を割る。

 カムイを経由して彼らの怒りと憎しみ、殺意と正義感と恐怖、そして痛みが伝わってくる。複数の感情が同時に流れ込み、タケキは頭がおかしくなりそうだった。


 ふと脳裏にレイジの言葉が浮かぶ。

 奴もこれと同じものを感じていたのだろうか。こんなものではない程に凄惨な、あの戦場で。

 違う。死があるのが当たり前な戦場と、死とは縁遠いこの街中では意味が違うはずだ。

 タケキは半ば意地になり、感情の渦に耐えた。


「みんな、大丈夫か?」


 通信機に向かって声をかけた。

 タケキ以外の三人も、同じ状況に置かれている。自分だけの意地で耐えればいいというものではない。


「私は大丈夫だよー」

「なんとか、なってます」

「そろそろ、きついかも……」


 それぞれが苦しげな声で答える。特にホトミは、限界が近そうだ。

 盾を維持できている内に、この包囲を抜け出さなければならない。


「タケ君、ごめん……」


 立ち塞がる最後の老婆を弾いた直後、腰に回されたホトミの手から力が抜ける。

 タケキは咄嗟に、二輪車の速度を緩めた。


「死ね、カミガカリ!」


 その隙をつき、金槌を持った女が飛びかかってくる。真っ直ぐな敵意に対し、タケキは反射的に不可視の刃を振るった。


「タケキだめ!」


 リザの叫びで咄嗟に刃を止める。だが間に合わなかった。

 金槌を握ったまま、女の右腕が宙に飛んだ。


「あっ……」

「タケ君、止まらない!」


 一瞬呆然としてしまったタケキは、ホトミの声で我に返る。


「くっ……」


 歯を食いしばり、再び二輪車を加速させた。女の悲鳴と大量の怨嗟を背に、王都中心部へと向かう。


「タケ君……」

「すまない、迷惑をかけた」


 目的地まで、まだ距離がある。

 一般人を使った妨害に、タケキ達は疲弊しきっていた。同じような人の壁が続くのであれば、同じ手段での突破は難しいだろう。

 単純に突破するだけであれば問題ない。道を阻む者は全て切り裂いて、押し潰してしまえばいいからだ。

 そんな許されざる行為を検討しなければならない程、タケキ達は追い詰められていた。


 そして、間もなく迫った三度目の壁はタケキを絶望させた。

 少数の中年女と老婆、その後ろには大勢の子供の姿があった。

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