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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード5「この掌の刃は」
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「この掌の刃は」part.1

 自我までも飲み込まれそうな、カムイの奔流がタケキを包む。その荒れ狂う力に抗うように、右掌を強く握った。


「俺の……」


 瞳を閉じ、小さく口の中で呟く。カムイに囚われはしない、支配もされない。そこにあるのは、自分の意思だけだ。

 そして、タケキは目を開き叫んだ。


「この掌の刃は……!」


 ――遡ること5時間ほど


 ナムイ市を出発してそろそろ丸二日。

 王都に近づくにつれて、徐々に道路沿いに建物が増えてきている。

 ただ、どれもが無人で、まるで廃墟が続いているようだった。戦後の人口管理をするため、強制的に都市部へ人を集めた結果だ。

 おかげで農村部からも人がいなくなり、一時期は食糧難にもなった。現在は一部の農地が解放されており、暫定政府からの指示を受けた者が農業に従事している。


「まだ着かないんだねー」


 タケキの左肩近くに浮く小さなリザが、道路の先を見る。


「もうちょっとですよ」


 サイドカーに座ったリョウビが、地図を見ながらそれに答えた。


「退屈だねー」

「もう少しの我慢ですよ」


 移動中のリョウビの言動から、タケキ達は彼女を信用できると判断した。会話に不都合が生じるため、リザの存在も明かした。ただし、完全な信頼まではしていない。

 あくまでも、利害の一致という前提は揺るがさない。


 道中、リョウビはタケキ達に持っている情報の全てを提供すると言った。その証拠に、過去から今までの経緯を伝えると。

 今から十七年程前、リョウビは子供の頃父母に連れられモウヤに渡ったと語った。タケキ達がカミガカリになるべく訓練していた頃だ。

 リョウビの父親は、自身の義父であるイカワ博士の後を継ぎ、クレイでカムイの研究をしていた。カミガカリの発案者でもあるらしい。

 戦争末期、クレイは戦争に負けると判断した両親は、イカワ博士が残したカムイ研究の資料を土産に亡命したそうだ。

 リョウビにはわずかながら、カムイを行使できる天性の才能があった。まだ幼かった彼女は亡命の事実を知らず、父の研究を無邪気に手伝ったという。


 そこでの研究は、人工的にカムイを使う者を作り出すというものだった。つまりは、カミガカリと同じだ。リョウビがそれを知った時には、既にリザを使った実験が進んでいた。

 実験体の中でもリザは特別だった。その力は、クレイの王になる存在と同種のものだった。

 嬉々としてリザを弄りまわす父に、リョウビは嫌悪感を覚えたそうだ。レイジ達に協力したのも、それが根幹にあると。


 リザの姿を見せた時、リョウビは涙を流した。そして、深く深く謝罪した。救える機会は何度もあったのに、結局はその体を機械の部品にしてしまったと。

 リザはそれを「仕方ないよ」と笑って許した。その後、二人には奇妙な友情のようなものが生まれたようだった。


「サガミさん、そろそろ」


 リザと談笑していたリョウビの口調が変わる。王都にそびえる高層建築がうっすら見えてきた。

 どれもが戦後に建築された真新しいものだ。古めかしい王都の建築物を埋め尽くしているように感じる。


 タケキは外套を深く被り、警戒を強める。それと同時に、妙な違和感を覚えた。あまりにも交通がないのだ。少ないというわけではなく、ないのだ。

 レイジ達の反乱により混乱しているとはいえ、軍や政府の車両すら見ない。交通量の少ない道を選んだとはいえ、これは異常だ。発見された際の対処法も検討していたが、結論として無駄になった。

 順調すぎる行程には必ず裏がある。タケキはいっそう慎重に、周囲に気を配った。


「タケ君」


 ホトミが背中から語りかける。腰に回された手に力が入るのがわかった。


「これが王都か」


 情報として得てはいたものの、目の当たりにして改めて異常さが理解できる。

 王都は、空気が歪んで見える程のカムイに包まれていた。タケキの知っている王都とは別の場所にすら思える。

 タケキ達を乗せた二輪車は、攻撃されることも、咎められることすらなく王都に接近していった。

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