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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード4「全てのカムイを」
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「全てのカムイを」part.9(エピソード4 了)

 王との謁見から数時間。

 出発の準備は、可能な範囲ではあるが整った。

 必要と想定される装備は食料や燃料と共に、譲り受けた大型二輪車に括り付けてある。カムイではなく、ガソリンエンジンで駆動する二輪車だ。車体の横には人が座る荷台が取り付いている。サイドカーと呼ぶらしい。

 王都の状況はカムイに満ちていること以外は不明だ。対策できることは限られている。


「あとは、あの人だね」

「遅いな」


 ホトミが兵舎の出入り口に目をやる。

 リョウビがタケキ達に同行すると言い出したのは、レイジと話した直後だった。

 一度は足手まといと反対したのだが「カムイに詳しい私は役に立ちますよ」と、頑として譲らなかった。

 邪魔になったら捨て置くという条件で、タケキは渋々承諾した。


「遅くなりましたー」


 暫く待つと、眼鏡を光らせたリョウビが兵舎から現れた。普段の白衣ではなく、全身を覆うような外套を身に纏っている。それは、午後の日差しを鈍い銅色に反射していた。その下は、タケキ達と同じく、灰色の野戦服だ。背中には何やら大荷物を背負っている。


「お二人にもこれを」


 リョウビは自身が着ているものと同じ外套を、タケキとホトミに手渡す。


「これは?」

「合金を繊維にして織り込んだ布で作られています。これで探知には引っ掛かりません」

「でも、顔とかはどうするんですか?」


 ホトミの問いは予想していたようだ。リョウビは自慢気に説明を続ける。


「オーヴァーでの探知は精度が低いので、顔や手足が出ている程度では引っ掛かりません。カムイを使える方の探知とは格が違います。開発者の私が言うのだから間違いありません」


 敢えてカミガカリという言葉を避けた言い回しを、タケキは好ましく思った。


 羽織った外套は、タケキに合う程度の大きさだった。タケキに並ぶ程度に長身なリョウビにも丁度いい。


「ぶかぶかだよ、これ」


 対して、小柄なホトミは外套の裾を地面に引きずっていた。「もー」と言いながら捲り上げ、部分的に縛り長さを調節する。


「すみません。大きさがこれしかなくて」


 リョウビは肩を震わせ、形だけの謝罪をした。


『ホトミ姉さん可愛い』


 リザがタケキにだけ感じる声で囁いた。


「そろそろ出よう」


 タケキが二輪車に跨がる。外套を頭まで被り、防塵用の眼鏡を装着した。

 モウヤ式のヘルメットは煩わしいので、被るのをやめた。


「後ろいくね」


 ホトミが二輪車の後部に座り、腰に手を回す。この瞬間、妙に緊張するのは変わらない。タケキはまだ人として正常な感覚があることに安心した。


「私はこっちですね。うわ、狭いな」


 細長い身体を折り曲げ、リョウビはサイドカーに収まる。荷物を背負ったままなので、窮屈そうだ。


「何が入っているんだ?」

「道なりに話しますよ。先は長いですし」


 目的地の王都まで、最短距離で半日ほど。ただし、今回は迂回する道を選んだ。王都に駐留しているモウヤ軍が、ナムイ市まで逃げ込んだ反乱軍を追ってくる可能性も考慮した結果だ。混乱の最中にあるとはいえ、万が一ということがあるかもしれない。

 想定では、丸二日程度の道のりだ。その間にここが攻め落とされているかもしれないが、それは知ったことではない。


「彼女も紹介してくださいね」


 リョウビがタケキの方を見上げる。その視線の先には小さくなったリザがいた。


「何のことだ?」

『私のことかな?』


 とぼけてみせたが、リョウビはリザに感づいているようだ。最悪、口を封じる必要があるかもしれない。科学者としては信用できそうだが、仲間としては信頼できない存在だ。

腹の探り合いのような会話は、得意ではない。


「行くぞ」


 タケキの声を合図にサイドカー付きの二輪車は、舗装されていない道路を走り始めた。


 土煙に隠れるその姿を、レイジは兵舎の窓から見つめていた。


「死ぬなよ、タケキ、ホトミ」


 もう友と呼ぶことのできない友に向かい、一人呟いた。





エピソード4 「全てのカムイを」 了

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