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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード4「全てのカムイを」
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「全てのカムイを」part.7

 ハクジは、タケキとホトミを真っ直ぐに見据えた。


「私がここに来た理由は、旧来のカミイケ製造設備を利用するためなんだ」

「どうしてもカムイなんだな。無関係の人が死んでも」

「それは違う。手段は全て俺が考え――」


 反論しようとするレイジを制し、ハクジは続けた。


「手段も目的も関係ないよレイジ。全ては私の責任のもと、皆が行ってくれたことだ。責めを負うのは私だけだよ。そうだろう? サガミ君」


 タケキは首を縦にも横にも振れずにいた。

 それを決める資格など、持っているとは思えなかった。持っているのは、今王都にいる人々だ。既にこの世にいない人も大勢いる。


「カムイで何をする気だ?」


 その言葉を待っていたかのように、ハクジは目を細める。表情ひとつで、場の空気感が一変する。 

 タケキは強烈な違和感を覚えた。この男は何かが違う。穏やかな表層に隠れた狂気が垣間見えた気がした。


「カムイは、意思のない力なんだ。それではどんな使い方もできてしまう。人を豊かにすることもできれば、人を殺すこともできる」


 ハクジは、まるで演説をするように高らかに語る。眼前のタケキやホトミにだけではなく、世界中に宣言するほどの熱と圧を感じた。自分の考えが正しいという確信を持った人間だけが放てる圧だ。

 それは、王都の地下で語ったヤクバル中佐と同種にも感じられた。


「私は、全てのカムイを掌握する。全てのカムイに私の意思を介在させ、平和利用以外は認めない。それが目的だよ」


 決意と執念の混ざったその声に、タケキは身震いした。


「そんな手段があるのか?」

「あるよ。世界中のカムイをここに集め、私が一括管理をするんだ。全てに私の意思を反映させ、皆には使ってもらう。そうすれば、人を傷つけるような使い方はできなくなる」


 タケキには途方もない考えに聞こえた。ただ、王の権能を持つ者ならば可能だと言う。


「ただね、それに障害ができてしまったんだ。手伝ってもらいたい」


 障害とは、リザの体が巻き起こしたカムイの嵐だった。

 リョウビの説明によると、現在の王都はカミガカリの戦闘濃度以上のカムイが充満しているそうだ。しかも、まだその範囲と濃度を上げ続けている。

 ハクジがカムイを集めようとした際、その殆どが王都に向かい流れていったらしい。


 あれだけの反乱を起こしておいて、ここナムイ市までモウヤ軍が迫ってこないのは、その混乱によるところが大きい。当初はもっと電撃的な行動でカムイを手中に収める予定だったと、レイジは語る。当然、その後の事も考えてあるのだろう。


「俺達にそれをどうにかしろと?」

「そうだタケキ。お前はあれの中身を見ただろ?」

「見たが、あれは俺ではどうにもならない」


 リザの体がカムイを集めたところは、しっかりと覚えている。ただ、今のタケキにはあれを止める術は思いつけなかった。


「お前の傍には《彼女》がいるのだろう?」

「お見通しか」

「そうだろ。お前が切り裂く以外のことができるとは思えなかったし、あの膨大なカムイは異常だ」

『あちゃー、眼鏡君は鋭いね』


 リザの存在まで発覚していたとなると、言い逃れはできない。

 それに、未だリザの体が王都にあるのであれば、止めるべきだと思う。守れなかった約束を再び為すためにも、カムイの軍事利用を防ぐためにも、あれは止めなければならない。


「わかった。すぐにでも王都に向かう。ただしこれだけは言っておく。ハクジさん、レイジ、リョウビさん。あんたらの計画に乗っかりはしない。どんな理由であれ、あの方法は間違っていると思う。俺は俺がやるべきだと判断したことをやる」


 タケキは席を立つ。これ以上の問答は不要だと思っていた。


「ホトミはどうする?」

「付き合うよ」

『私もー』

「わかった」


 ホトミもそれに合わせ、席を立った。


「また話をさせてほしい」


 背中から聞こえるレイジの声に、タケキは振り向く気にならなかった。

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