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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード1 「私を探して」
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「私を探して」part.3

 レイジを見送った後、タケキ達は普通の生活をしているように見せていた。

 街を歩き、買い物をし、帰って夕食を作る。それは端から見れば、深い仲の男女が睦まじく過ごしているようだった。

 特にホトミは終始上機嫌な笑顔を見せ「タケ君タケ君」と連呼していた。周りを疑わせないよう、敢えてはしゃいだ姿を演じる。

 あまりの自然さにつられて笑みを溢したタケキは、ホトミの気遣いに深く感謝する。


「ごちそうさま」


 空が茜色に染まる頃、ホトミの得意料理である鶏肉と野菜の煮込みを平らげ、一息つく。

 あまりにも美味いので真似をして作ってみたこともあったが、タケキにはどうしても味を再現することはできなかった。理由を聞いてみたら「下ごしらえと愛情よ」とのことだ。

 不味いことで評判の行軍用保存食もホトミの手にかかればそれなりに食べられる味になったことを思い出す。


「お粗末様。片付けるね」

「一緒にやるよ」


 夜の帳が下りたら、仕事の時間だ。二人は手早く動きやすい服装に着替える。あくまでも普段着の範囲での動きやすさだ。


「じゃあ、下に集合な。玄関の鍵と荷物よろしく」


 そう言って、タケキは部屋を後にした。


「うん、任せてー」


 タケキを背中で見送りつつ、ホトミは荷物の確認作業を始める。地図、着替え、飲料、携帯医療道具、短刀、火薬式の拳銃。

 そして、カムイが入った金属製の筒四本。それらを整理して背嚢に詰める。


 ホトミにとって仕事はあくまでも手段だった。レイジが仕事の話を持ってくるまでは、全てを過去のものとして生きていこうとさえ思っていた。

 彼の傍らにいられればそれでよかった。敗戦の屈辱も、痛む傷痕も、慣れない日常も、大事なそれに比べれは些細なことだ。

 ただ、肝心の彼はそうではないようだった。だから手伝おうと思った。彼が動き出せるように。彼の力になるように。


「よしっ」


 ずっしりとした背嚢を背負い、ホトミはタケキの部屋を後にした。合鍵でしっかりと施錠して。


 タケキは地下にある車庫に向かっていた。タケキが住まうのは旧王国軍の退役者に充てられた集合住宅だ。

 名目は戦後の社会保障のひとつではあるのだが、実態は反乱抑制のための監視部屋である。名目を維持するために職業や移動、婚姻等の自由は認められており退役軍人達は一般人と変わらない生活を送ることができていた。

 制限があるとすれば、多人数での集会は届け出が必要ということくらいだ。


「よっ」


 大型の二輪車に跨がりガソリン式のエンジンに点火する。元々はカムイ動力で動いていたタケキ愛用の車両だ。

 本来ならば破棄するものだが、動力源を載せ替えることで悲しい別れを免れたという経緯だ。小刻みな振動は不愉快だが我慢我慢。


 十年前、モウヤ共和国とクレイ王国は『クレイ王家の政権剥奪、クレイ王国軍の解体、カムイ使用の原則禁止』の三点を柱とした終戦協定を結んだ。

 それはクレイ王国がクレイ王国である意味を失うことと同義であった。それであっても国民の死に耐えきれなかったクレイ・ハクジ王は周囲の反対を押しきり、大号令という形で強引に泥沼の戦争を終結させた。

 その結果タケキやホトミは軍を退役することとなり、この集合住宅に住まうこととなった。


 二輪車を低速で移動させ坂道を登り外に出る。背嚢を背負ったホトミが待っていた。


「お待たせ」

「ううん、今来たところだよ」


 ホトミは軽く手を振りタケキを出迎えた。


「じゃ、行こうか」


 タケキは戦後に着用が義務化されたヘルメットをホトミに渡し、自身も顔全体を覆うそれを着用した。


「うん、運転よろしくね」

「あいよ、しっかり掴まってろよ」


 ホトミがタケキの後ろに跨がり、腰に手を回した。二人を乗せた二輪車はゆっくり加速して夜に消えた。

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