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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード3「共に来い」
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「共に来い」part.14

 カムイの刃がスピリットの鎧に食い込む。

 中佐の鎧は兵士が使っていた盾より密度が高く、一息には切り裂けなかった。金属製の左腕はカミガカリ同様にカムイを行使できるのかもしれない。


「君達にも引けを取らないだろう? 私の力は!」

「私の、力だと?」


 誇るような中佐に対し、タケキは何度目かの怒りを覚えた。カムイを自分の力と認識するなど、それは根本的に間違っている。

 カムイという天然自然にあるものを、人が人の都合で操っているに過ぎない。それを自分の力などと言うのは傲慢に他ならない。ましてや、機械の力を借りて行使しそれを誇るなど、滑稽とも思える。


 だが、敵と問答をするつもりはない。刃が通らないのであれば、別の手段を講じるまでだ。


『リザ』

『わかった』


 呼び掛けだけで意図が伝わる。タケキとリザは言語を必要としないくらいに、互いの意思を理解できていた。


 力比べに酔っている中佐の注意を逸らさぬよう、右掌の刃は保持しておく。その間に左腕を軽く引き、円錐を思い浮かべる。あの日、まだ肉体を持って生きていたリザが使った円錐をだ。

 円錐は密度を上げつつ底面を長く伸ばし、先が鋭く尖った杭となった。タケキの腕ほどの太さと長さの杭だ。


『くらえー』


 リザの音にならない掛け声に合わせ、タケキは左腕を振り抜いた。カムイで加速し射出された不可視の杭は、中佐の腹部に衝突する。


「ぐぉっ!」


 杭は鎧を貫けなかったが、その衝撃までは抑えられなかった。呻き声を残し、中佐の体は後方に吹き飛んだ。

 銅色の円柱を掠め、周りの機械をなぎ倒していく。その巨体は、瓦礫となった設備に深く埋まった状態で静止した。


「何をした……?」


 辛うじて首を動かし、中佐がタケキを睨む。衝撃で意識が朦朧としている様子だ。しかし、それも一時的なものだ。すぐにでも起き上がってくるだろう。時間に猶予はなく、目的は中佐の相手ではない。


 目的が済んだ後のことは、あまり考えていなかった。リザの力が使えなくなるのであれば、車両を奪って逃走でもしようか。考えているといってもその程度のことだ。


 タケキは素早く円柱を切り裂くと、それに近づいた。脱出する前に見た時と同じで、透明の容器に満ちた液体に体を沈めている。死んではいない、ただし生きているともいえないその少女は、痛々しかった。


 彼女の体を維持していた設備は、先程の戦いで機能を停止している。それを修理する技術者もこの場にはいない。このまま時が経てば、意思のない肉体は朽ちていくだろう。


『でもそれは違うよな』

『うん、違うね』


 死は、正しく死であるべきだと思う。死を撒き散らしてきたからこそ、今はそう思う。

 カムイに関わらなければ、こんな事に巻き込まれずに済んでいたはずだ。最初から兵器として扱われた自分達とは違うはずだ。リザという少女は、幸せに生きて幸せに死ねたはずだ。


 だが、それはもう叶わない。

 ならば、せめて決定的な死を与えてやりたい。タケキはそう考えている。その想いはリザにも伝わっていた。


『次はちゃんと殺してね』

『ああ、今度は失敗しない』


 タケキは刃を形成した。あの時と同じように、手刀に刃を纏わせる。設備が止まった今、彼女を守る盾は存在しない。

 透明の容器を切り裂くと、その中から大量の液体が流れ出した。大量の管に繋がれた少女は、力なく横たわっている。


 タケキの脳裏にリザとの思い出がよぎる。雨の出会い、廃工場での再開、束の間の平穏、そして人殺し。

 短い間だったが、タケキにとってリザは特別な存在になっていた。家族であり、相棒だった。


 これまで殺してきた敵の中にも家族や大切な人がいたのかもしれない。それを無造作に奪ってきた。そんな自分が、目の前の少女を殺したくないと思っている。

 ここで確実に殺しておかねば、また利用されるかもしれない。それも理解している。

 覚悟を決めていたはずなのに、どうしても躊躇いが捨てきれない。


『タケキ、いいんだよ。あなた達と会えて幸せだった』


 耳元で優しく囁く。

 タケキは自分が涙を流していたことに気づいた。

 リザの言葉で、最後の躊躇いを抑え込んだ。


『じゃあな』

『うん、さよなら』


 タケキはその首に刃を当てる。

 その時、少女の目が開いた。

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