「共に来い」part.12
狙撃兵の排除は完了した。これでホトミとリョウビの安全は確保できたはずだ。あの場所からならば、自力で走れば王都の外へ出られるだろう。
タケキは顔にこびりついた血を袖でぬぐう。薄く延びるばかりで、拭き取れることはなかった。
『さて、もうひと仕事だ』
『こっちが本番なんだからねー』
タケキとしても、リザとしても、今やっておかねばならない事が残っている。二人の目的は共通だ。
オーヴァーの製造設備の破壊。敵にとっては非常に重要な設備だ。防衛を固められたら突破も難しくなる。王都を砲撃したレイジの思惑は不明だが、この機会を逃すべきではない。
そしてそれは、リザとの約束を果たすことにもなる。
『ホトミに嘘ついただろ』
『あ、ばれた?』
飛び立つ前、リザはタケキとホトミに嘘をついた。「体と精神は別だから、あっちを殺しても私はこのままだよ」と。
肉体を殺した後に意識がどうなるかはリザもわかっていない。リザ自身としては、消えてなくなるのだと漠然と想像している。
その感情は、カムイを行使する際にタケキに伝わっていた。
『そりゃ、声出せば感情も少しは繋がる』
『あー、そっかぁ』
ばつが悪そうに空を見上げ、リザは何かに気がついた。顔を赤くしてタケキに詰め寄る。
『じゃあ、じゃあ、他にもいろいろ?』
『感覚的にはそれなりに』
『うわー、恥ずかしい』
タケキの曖昧な返答に、リザは頭を抱えて周囲を飛び回った。
ひとしきり悶えた後、リザはタケキに問いかける。
『そのね、大丈夫? 私を殺せる?』
自分の感情が伝わったのを知ったからか、リザは恥ずかしそうに俯いている。
『約束は守るよ』
出合った時の約束は覚えている。人を殺すことには意味があるのかもしれないと気付かせてくれた。そのきっかけとなった約束だ。必ず守ると決めていた。
『ありがとう』
リザは一言呟き『まずい、ホトミ姉さんとライバルになってしまう』と付け足した。
『悪いが時間がない』
『あー、そだね』
混乱に乗じるのだから、そこには早さが必要になる。リザの淡い感情も捨ててはおけないが、タケキは事実としての優先順位をとった。
『着地は任せた』
『うん』
二人は屋上から飛び降りた。
落下速度はカムイの翼で抑える。タケキは空中で長く大きい刃を形成した。それを地面に斜め方向に突き立て、円を描く。廃工場の敷地へ侵入した時と同じ要領だ。
「よっ」
タケキが腕を引くと、地面から巨大な円柱が引き抜かれた。カムイで支えて形を維持しているが、土砂の塊だ。
それを大通りにゆっくりと横たえ、カムイを解放する。人がいないのは探知で確認済みだ。土砂は崩れ、小山が道路を封鎖した。
タケキはゆっくり着地すると、丸く開いた穴を走り出す。目的地は旧実験場だ。
走りながら探知をかける。治安維持局の地下を覆う、カムイを遮断する合金にも穴が開いている。
オーヴァーの銃を持った兵士が二十四人。突如開いた穴に戸惑っているようで、陣形が乱れている。この状況にしては異常な人数だ。それだけあの設備を重要視しているということか。
攻撃への対応で陣頭指揮を執っているのか、中佐の姿は感じられなかった。
中佐ご自慢の新兵器を与えられ、最重要設備を護衛しているような連中だ。選りすぐりの兵なら、壁に穴が開いた程度で混乱する時間は長くない。
『リザ』
『はーい』
合図と共にタケキは弾かれるように加速した。同時に掌の刃を圧縮する。
速さ勝負だ。敵が体勢を整える前に数を減らす。
実験場に飛び込んだタケキは、手近にいた三人を擦れ違い様に切り裂いた。速度を緩めず方向を変え、また三人。
ある者は縦半分になり、ある者は上半身と下半身が分離した。
瞬く間に六人を葬ったタケキは、動きを止めずに周囲を見渡す。カムイで探知はしているが、肉眼での確認も必要だ。
三人一組が残り六、設備を守るように配置されている。
「だと思った」
タケキは小さく声に出し、少しだけ唇を歪ませた。
『げ、本当だ』
設備の傍らには《モウヤ・クレイ共同安全保障治安維持局 局長》ジルド・ヤクバル中佐が、腕を組んでいた。




