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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード3「共に来い」
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「共に来い」part.11

 自身を強く弾き飛ばしたタケキは、直線に近い放物線を描き宙を舞った。空気の抵抗は流線形に展開した盾で受け流す。


『ねぇねぇ、私の使い方荒くない?』


 空中での姿勢を整えるために作り出した翼は、生前にカムイで飛行していた経験からリザが操作している。タケキが行使して物理的な作用を起こすようになったカムイは、リザも操れる。声や姿の実験からわかったことだ。


『頼りにしているよ、相棒』

『もう、ホトミ姉さん怒っちゃうよ』


 ホトミはタケキにとって、相棒というよりは仲間という方が適切に近い表現だ。家族と言ってもいいかもしれない。ひとりの女性として見る日が、いつか来ればいいと思う。


 飛翔を開始してから数十秒。肉眼でも狙撃手が確認できる距離だ。銃口はふたつともこちらを向いている。既に装填は終わっているようだ。ここまでは予想通り。

 タケキは盾を展開した。ホトミのような繊細な技術はなく、単純に分厚い盾だ。


「ぐっ……」


 二発の銃弾が盾に激突し、タケキは声を漏らした。射撃を防いだ盾は崩壊し、衝撃が伝わってくる。発砲音が後から響いた。

 ここまでも予想通り。間もなく目的地に到着する。

 あとは、覚悟ができているかだ。


『いいの?』


 リザが心配そうな声を出す。


『ああ、正しいとは思えないけど、俺だけ逃げるのは違うと思う』

『そっか、私はいいよ』


 もう届く距離だ。タケキは刃を伸ばし、大型の狙撃銃を切り裂いた。四人の狙撃兵は素早く後方に下がり、入れ替わる様に別の兵士が隊列を組む。この護衛が存在することも予想の範囲内だ。全員が地下で見たオーヴァーを使った小銃を装備している。


『六人と、奥に三人いるよ』

『了解、弾道の予測頼む』


 こちらに向けられた六丁の銃から弾丸が放たれた。

 タケキは盾を展開する。先程のように分厚くはなく、小型の盾だ。それを複数、探知の応用で予測した弾道に対し、角度を付けて配置する。

 オーヴァーの小銃は、従来の火薬式小銃よりも弾速があり貫通力に長けている。ただし、銃弾自体は従来の物と同質だ。ならば真正面から受けず、跳弾させてしまえばいい。結果はタケキの読み通りだった。一人六斉射、計三十六発の弾丸は全て軌道を逸らした。

 兵士たちがタケキの様子を見て自動連射に切り替える。だがもう遅い。銃弾の雨を斜めに弾きながらタケキは素早く接近する。その掌に不可視の刃を携えて。


 大事なのは覚悟だ。人を殺す覚悟。再び、あの血の道を進む覚悟。

 レイジからの仕事を引き受けた時は、そのつもりだった。しかし、決定的な場面では他の方法を探していた。平穏を知ってしまったから、殺したくないと思ってしまった。ホトミにはその覚悟ができていた。決断できなかったのは自分だけだ。

 そのせいで多くの人を傷つけてしまった。戦いに無関係の人をだ。取り返しのつかないことだ。いつか償う時が来るだろう。だから今は、これ以上罪のない人々を傷つけないため、人を殺そう。


 タケキは敵兵周辺のカムイを感知する。首、心臓、腋、大腿部、主な急所はカムイの盾で守られている。防御用のオーヴァーを持っているのだろう。中佐が防いだことから、タケキの斬撃は通用しないはずだ。盾の隙間に刃を突き立てることも考えたが、一人ひとりに時間をかけてはいられない。


『リザ、大丈夫だな』

『うん、信じて』


 刃に意識を向ける。リザがタケキの掌に触れた。普段の刃よりも薄く、鋭く。この刃で切り裂けないものはないと信じる。タケキとリザの意思でカムイの刃は圧縮され、陽炎の如く視認できるようになっていた。

 銃撃に効果がないことで、敵兵は若干の恐慌状態になっていた。平静を欠いた集団に肉薄するのは難しいことではない。

 タケキは刃を振るった。刃は複雑に伸び、カムイの盾ごと六人の首を切り落した。


 控えていた三人が飛び出し、タケキに向け銃を乱射する。全て跳弾させると、再び刃を振るう。後方に退避していた狙撃兵四人も同様に排除した。

 ほんの数秒で、タケキは十三人の命を奪った。鮮血がタケキを赤く染める。


 カミガカリのカミガカリたる所以は、その意思にある。

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