「共に来い」part.7
大きな振動に天井が割れたのか、細かな破片が落ちてくる。
その場のほぼ全員が身を竦ませる中、白衣の女だけは平然と直立していた。
「じゃ、今の内に行きましょう」
まるで散歩にでも行くような口調を残して、白衣は出口に向かい翻った。
「おい、どういうことだ?」
タケキの問いに、腰から首だけを回して女が振り向いた。あくまでも気軽を装い、早口で答える。
「後から全部説明します。今は脱出を。大丈夫、奴らはそれに何もできません。それに、自動的に盾が発生するようになっています」
言葉が終わったとほぼ同時に、二回目の音と振動が響いた。前回よりも回数が多い。タケキは砲弾の着弾によるものであると確信した。それも、爆薬で破片を撒き散らす方式のものだ。街中でそれを使うなど正気の沙汰ではない。
中佐を睨み付けるが、彼にとっても想定外の事態だったようだ。素体に蓋をしろと、叫ぶように指示を出している。
「ほら、早く」
「タケ君」
『タケキ、だめだよ。約束』
女の言うように、脱出の機会は今しかないとはタケキも感じている。新鋭の兵器を預かるような精鋭だ。すぐに落ち着きを取り戻すだろう。
更に、中佐を守ったものと同じような盾があるならば、カムイの刃では切り裂けない。
タケキは決断した。
「行くぞ」
「うん」
走り出しつつ、手に持ったカムイの筒をホトミに渡す。必ず盾が必要になるからだ。
『タケキのバカ! 嘘つき!』
『すまん、必ず戻るから』
出口に向かって一直線に走る。白衣の女が遅れている。体を動かすのは不得意なようだ。タケキはその手を引いた。
「逃がすな!」
中佐の怒号が響き、タケキ達に銃口が向けられる。それに合わせたようにホトミが円筒の蓋を開いた。
「殺すなよ。撃て!!」
タケキと女、そしてホトミ自身を守るように不可視の盾が展開された。そこに目掛け、おびただしい数の銃弾が殺到する。
中佐の命令は聞き入れられなかったようだ。
タケキ達の経験上、ホトミの盾で難なく受け止められる程度の射撃だ。カムイさえ不足しなければ、実験場から脱出するのは容易いはずだ。
出口まであと十数秒。
「タケくん、まずい」
ホトミの悲鳴に近い声に、タケキは振り向き戦慄した。
カムイで作り出したものは不可視ではあるが、能力のある者には存在を感じることができる。そして、タケキはホトミの盾が崩壊寸前なのを感じた。筒のカムイも尽きかけている。オーヴァーを使う銃は、タケキ達が予想する以上の性能だった。
『タケキ! 私で盾!!』
ホトミの盾が消失する瞬間、リザが叫んだ。それに応えてタケキが盾を作り出す。数発の弾丸が隙間を抜け、後方にいたホトミの手足を擦過した。
リザの力を使った盾でさえも、銃弾を受け少しずつ削られていく。扉まであと少し。
タケキは痛みに呻くホトミを支えつつ刃を形成して、扉を切り裂いた。三人はそのまま出口に飛び込み、階段をかけ上がった。
一階分程度上った後、タケキは刃を使い階段を切り裂いた。これで多少の時間稼ぎはできるだろう。
「いやぁ、走るのは疲れますね。それでですね、この建物の入り口に迎えが来るはずなんです」
息を切らせた女は、ずれた眼鏡を指で押し上げた。タケキはそれを一瞥すると、ホトミの傷を確認する。
「歩けるか?」
「うん、大丈夫。工場の時と同じだね」
止血するほどではないが、痛みは走るようだ。タケキはホトミに肩を貸し、再び階段を上り始めた。少し上る度に刃で切り裂きながら、地上を目指す。
『リザ、助かった』
『バカタケキ。ホトミ姉さんが死んじゃったらどうするんだよ。私との約束も無視するし。私は怒っています。次は許しませんからね』
いつもの口調はタケキの心を少しだけ楽にした。
『ありがとう』
『バカタケキ』
三度目の轟音が響く。砲撃は王都を無差別に攻撃しているのではなく、タケキ達のいる治安維持局を狙っているようだった。
「これはあんたの仕業か?」
「まぁ……そうでも……あるんですが……疲れた」
女は息も絶え絶えに、握った機械に向かい「もういいですよー」と言う。それ以降、着弾の音はしなくなった。
「これは……」
薄暗い階段を上りきったタケキを待っていたのは、忘れかけていた戦場の臭いだった。




