表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード3「共に来い」
40/77

「共に来い」part.7

 大きな振動に天井が割れたのか、細かな破片が落ちてくる。

 その場のほぼ全員が身を竦ませる中、白衣の女だけは平然と直立していた。


「じゃ、今の内に行きましょう」


 まるで散歩にでも行くような口調を残して、白衣は出口に向かい翻った。


「おい、どういうことだ?」


 タケキの問いに、腰から首だけを回して女が振り向いた。あくまでも気軽を装い、早口で答える。


「後から全部説明します。今は脱出を。大丈夫、奴らはそれに何もできません。それに、自動的に盾が発生するようになっています」


 言葉が終わったとほぼ同時に、二回目の音と振動が響いた。前回よりも回数が多い。タケキは砲弾の着弾によるものであると確信した。それも、爆薬で破片を撒き散らす方式のものだ。街中でそれを使うなど正気の沙汰ではない。

 中佐を睨み付けるが、彼にとっても想定外の事態だったようだ。素体に蓋をしろと、叫ぶように指示を出している。


「ほら、早く」

「タケ君」

『タケキ、だめだよ。約束』


 女の言うように、脱出の機会は今しかないとはタケキも感じている。新鋭の兵器を預かるような精鋭だ。すぐに落ち着きを取り戻すだろう。

 更に、中佐を守ったものと同じような盾があるならば、カムイの刃では切り裂けない。

 タケキは決断した。


「行くぞ」

「うん」


 走り出しつつ、手に持ったカムイの筒をホトミに渡す。必ず盾が必要になるからだ。


『タケキのバカ! 嘘つき!』

『すまん、必ず戻るから』


 出口に向かって一直線に走る。白衣の女が遅れている。体を動かすのは不得意なようだ。タケキはその手を引いた。


「逃がすな!」


 中佐の怒号が響き、タケキ達に銃口が向けられる。それに合わせたようにホトミが円筒の蓋を開いた。


「殺すなよ。撃て!!」


 タケキと女、そしてホトミ自身を守るように不可視の盾が展開された。そこに目掛け、おびただしい数の銃弾が殺到する。

 中佐の命令は聞き入れられなかったようだ。


 タケキ達の経験上、ホトミの盾で難なく受け止められる程度の射撃だ。カムイさえ不足しなければ、実験場から脱出するのは容易いはずだ。

 出口まであと十数秒。


「タケくん、まずい」


 ホトミの悲鳴に近い声に、タケキは振り向き戦慄した。

 カムイで作り出したものは不可視ではあるが、能力のある者には存在を感じることができる。そして、タケキはホトミの盾が崩壊寸前なのを感じた。筒のカムイも尽きかけている。オーヴァーを使う銃は、タケキ達が予想する以上の性能だった。


『タケキ! 私で盾!!』


 ホトミの盾が消失する瞬間、リザが叫んだ。それに応えてタケキが盾を作り出す。数発の弾丸が隙間を抜け、後方にいたホトミの手足を擦過した。


 リザの力を使った盾でさえも、銃弾を受け少しずつ削られていく。扉まであと少し。

 タケキは痛みに呻くホトミを支えつつ刃を形成して、扉を切り裂いた。三人はそのまま出口に飛び込み、階段をかけ上がった。


 一階分程度上った後、タケキは刃を使い階段を切り裂いた。これで多少の時間稼ぎはできるだろう。


「いやぁ、走るのは疲れますね。それでですね、この建物の入り口に迎えが来るはずなんです」


 息を切らせた女は、ずれた眼鏡を指で押し上げた。タケキはそれを一瞥すると、ホトミの傷を確認する。


「歩けるか?」

「うん、大丈夫。工場の時と同じだね」


 止血するほどではないが、痛みは走るようだ。タケキはホトミに肩を貸し、再び階段を上り始めた。少し上る度に刃で切り裂きながら、地上を目指す。


『リザ、助かった』

『バカタケキ。ホトミ姉さんが死んじゃったらどうするんだよ。私との約束も無視するし。私は怒っています。次は許しませんからね』


 いつもの口調はタケキの心を少しだけ楽にした。


『ありがとう』

『バカタケキ』

 

 三度目の轟音が響く。砲撃は王都を無差別に攻撃しているのではなく、タケキ達のいる治安維持局を狙っているようだった。


「これはあんたの仕業か?」

「まぁ……そうでも……あるんですが……疲れた」


 女は息も絶え絶えに、握った機械に向かい「もういいですよー」と言う。それ以降、着弾の音はしなくなった。


「これは……」


 薄暗い階段を上りきったタケキを待っていたのは、忘れかけていた戦場の臭いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ