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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード3「共に来い」
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「共に来い」part.6

 液体に満たされた透明な箱に入っていたのは、まぎれもなくリザだった。

 瞳は綴じ、生きているのかどうかもわからない。髪は剃られ、額の左側にある傷跡が目立つ。頭や喉、身体にも複数の管が差さっていた。ただ、その顔つきと十二年前にタケキが切り裂いた右腹部の縫合跡が、リザ本人であることを物語っている。


『タケキ! 今すぐ殺して!!』


 リザの悲鳴に近い叫びがタケキに響く。


『待て、これはどういうことなんだ?』

『わかんないけど、でも早く!』


 タケキは戸惑うばかりだった。ホトミもリザの声が聞こえない今は、見守ることしかできないだろう。


「どうした? 早くやってくれ」


 中佐からの圧力も迫る。

 リザと中佐に挟まれ、逡巡するタケキに思いもよらないところから助け舟が入った。


「中佐、これを見たらさすがに困るでしょう。説明されては?」


 先程、操作盤を触っていた作業員だ。背格好から男と判断していたが、落ち着いた調子の甲高い女声だった。短髪だと思っていたが、改めて見ると明るい茶色の髪が後頭部で纏められていた。


「ふむ、確かにこの女神を見て驚かぬはずもないか。いいだろう、説明してやってくれ」


 中佐は作業員に向かって顎を傾けた。作業員はタケキの元に駆け寄りつつ「あなたもどうぞ」とホトミに手招きする。中佐はそれを黙認した。

 並んで立つと男と間違った理由がよくわかる。タケキより少し低い背丈をした女は、顔にかかった眼鏡を指で押さえる。丸いレンズは照明を反射し輝き、切れ長の目を隠した。


『そんなのいいから、早く!』

『人質の事もある。頼む、待ってくれ』

『ううー』


 リザの叫びは大きくなる。ここで女神と呼ばれたリザの体を切り裂いてしまえば、王都の住民の命が危うくなる。それとは別に、こんな風に彼女を焦らせるものの正体を知っておきたい、とも思ってしまっていた。


「じゃぁ説明しますよー。よく聞いてくださいねー」


 中佐に語り掛けた口調から大きく変わり、長身を揺らしながら早口でまくし立てるように話し始めた。


「長くなるからかいつまんでいきますね。早くしないと中佐に怒られちゃいますから」


 ちらちらと横目で中佐を見ながら、あくまでも軽い口調を続ける。面長の顔に開いた大きな口が歪む。笑っているのだと気づいたのは暫く後だった。


「これはですね。カムイを集める素体なんです。あ、あなた達にわかりやすいようにカムイって言ってますよ。で、見ての通り意識はありません。いろいろあって体だけの状態になってしまって。だから仕方なく機械で操作してるんです」

「酷い……」


 ホトミが口に手を当てて言葉を漏らす。タケキも同意見だ。倫理というものを無視している。まるで、自分達のようだ。


「ただね、やっぱり精神っていうものがないからなのか、だんだん集める効率が落ちてきましてね。どうしたもんかなーって思っていたところに、サガミさんが現れたと。あなたが操るそのカムイで、この子にですね、こう、刺激を与えてもらいたいなと」


 嬉々とした説明に、吐き気がするようだった。それと同時に、リザの願いとはそういうことだったのかと納得できた。道具として意思もなく使われるのであれば、いっそ殺してほしい。そういうことだろう。


『リザ、これは本当か?』

『うん。だいたい』


 タケキは再度考える。これは阻止すべき類の計画であることは確実だ。ただ、多くの人命が危険に晒されている。リザの体もカムイで防御していることも想定できる。感情のまま動いては先刻の二の舞になりかねない。

 いくつかの選択肢が浮かぶが、どれも現実的とは思えなかった。


「迷いがありますね? では、お近づきの印にこれを」


 女はタケキに近づくと、その手に細長い金属製の筒を握らせた。銅色の筒は、指先で蓋が開けられるような構造になっている。廃工場に出発する前、レイジから渡されたものよりも一回り大きいが、同種のものだ。

 

「ちょっと、あなた……」


 女を静止しようとしたホトミも。それに気づいた様子で動きを止めた。

 そして、女はタケキにそっと耳打ちをした。


「あなたの傍にあるの、彼女でしょう?」


 女はタケキから離れると、大きく口を歪ませた。


「何をしている!?」


 不可解な動きを察知した中佐が三人に向かって声を荒げる。

 女は中佐を無視して白衣の懐から掌大の機械を取り出すと、それに向かい一言発した。


「ロウドさん、どうぞー」


 数秒後、轟音と振動が実験場を包んだ。

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