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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード3「共に来い」
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「共に来い」part.3

「レイジ……」


 ロウド・レイジはタケキやホトミと同じく、クレイ王国軍特殊戦闘部隊カミガカリの一員だった男だ。軟禁状態の彼を救うため、強行手段に訴える覚悟でタケキはここにやって来た。そのはずだった。

 救う対象が目の前に居るのであれば、このまま逃走してもいいのではないか。一瞬そう考えたが、タケキを見つめるレイジの目が今は動くなと語っていた。

 そんな葛藤を見透かしたように中佐が口を開く。


「約束を反故にするつもりはないという証明だよ。なんなら、カムイで通じてもらっても構わんよ」


 中佐は何も気にする様子なく下座に座り、その重量に椅子が軋んだ。まるで悲鳴をあげているようだった。


「束の間の日常は楽しんでもらえたかな。なにせ報告が全く入らなかったからね、わからんのだよ」


 レイジを自身の右隣に座らせ、中佐が意図的に監視を外していたことをほのめかす。調子のいい口振りだが、言葉ひとつひとつに重みを感じる。この立場にいるのは伊達ではないようだ。


「誰にも見られず楽しませてもらいましたよ」

「そうかそうか、気を回した甲斐があったよ」


 タケキの精一杯の返しに、巨大な顔面に不釣り合いなくらい小さな目を細めて笑った。


『タケキー、この片腕機械筋肉ハゲ気持ち悪いよー』

『ちょっと黙っててくれ』


 リザが隣で頭を掻きむしる仕草を見せる。タケキにもその気持ちは理解できた。気味が悪いのだ。機嫌がいいというよりは、浮かれているようにすら見える。


「約束の件の前に、少し話をしよう。サガミ君、カスガ君」

「お茶と茶菓子が欲しくなりますね中佐」

「手作りの焼き菓子を用意しましょうか中佐」


 中佐はタケキとホトミの返事に満足した様子で大きく頷いた。机に右肘を立て、軽く握った拳に顎を乗せるが、頬の弛みは変わらなかった。


「君達はイカワ博士を知っているかな?」

「知らないわけがないでしょう。ある意味俺たちの仇ですよ」


 イカワ・ヨシキ博士。

 約80年前、カムイを遮断する合金からカミイケとその活用方法を生み出した、偉人とも呼ばれる人物だ。クレイ王国の急速な発展は、彼によるといっても過言ではない。

 ただ、先の戦争が勃発した理由のひとつにカミイケの存在があることは明らかだ。カミイケによるカムイの軍事利用やカミガカリの組織も、間接的ではあれどイカワ博士が関与していることになる。


「では、彼に娘と孫がいたことは?」

「さぁ、有名人の私生活にはさほど興味がないもので」

『何が言いたいのよ、このおじさん』


 頭上で文句を言いながら暴れるリザを嗜める余裕はタケキにはなかった。中佐の真意が読めないのだ。一時も油断できない。


 その時、護衛のひとりが中佐に耳打ちをした。中佐は一瞬神妙な表情を見せるも、すぐにわざとらしい笑顔に整える。


「では雑談もこれまでにしようか。サガミ君のカムイを苛つかせてしまったようだ」

「すみませんね。根は正直なんですよ」


 護衛はカムイを検知できる装置を持っているようだ。タケキはリザを放っておいたことを後悔した。できれば、もう少し情報を引き出したかった。


「本題の前に、景品の紹介は終わろうか。成功報酬の約束だからね。先に無事を見せたのはこちらの誠意と受け取ってほしい」


 中佐が顎を動かすと、タケキから見て左側の護衛がレイジを促し退室していった。去り際にタケキを見たレイジの目は、まだだ、と伝えていた。

 レイジが応接室から離れたところを見計らい、中佐が席を立つ。座ったときと同じように、椅子が悲鳴をあげた。


「君達に見せたいものがある。着いてきたまえ」

「どちらへ?」

「見てのお楽しみだよ」


 中佐に先導されるまま、タケキ達は廊下を進み、階段を下った。感覚的には既に地下三階は過ぎている。

 中佐の話では王国軍司令部には、地下に実験場があったそうだ。以前タケキ達が侵入した工場郡で開発と試作をし、その最終評価をこの地下で行っていたらしい。タケキとリザの探知では見つけられなかった。恐らくその実験場は、例の合金で覆われているのだろう。


「ちょうど広くて頑丈な空間があったのでね、我々も使わせてもらっているのだよ」


 連れて行かれた先には、広大な空間が広がっていた。


「見てくれ」


 中佐が入ってきた扉から反対側の壁を指差す。そこには銅色に輝く大きな筒が、様々な機械装置に囲まれ鎮座していた。


「我が共和国の希望の星だ」


 中佐は自慢げに胸を張った。軍服の糸が千切れたような音がした。

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