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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード3「共に来い」
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「共に来い」part.1

 砲弾が空気を激しく揺らす。

 戦場と化した王都を背に、かつての戦友が手を伸ばす。血と塵埃にまみれ、赤黒く染まったタケキはその顔を見上げた。


「共に来い」


 その瞳は一点の曇りもなくタケキを見つめていた。


――遡ること六時間ほど。


 空が明るくなり始めた頃、タケキがゆっくりと目を開く。それに合わせるようにリザの手が肩から離れた。


「中が見えなかった。やっぱりカムイ絡みだ」


 リザと共に探知を終えたタケキが吐き捨てる。カムイの軍事利用は許しがたい。自分達のような存在は居るべきではないのだ。カミイケを応用した武器が広まるのも避けたい事態だ。


 事前の探知で《重要な物》が早朝に運び込まれる事はわかっていた。その内容を確認しようとしたが、探知では把握できなかった。その結果、カムイ絡みの物ということを確信した。


「どんなのだったの?」

「俺が入っても余裕のあるくらいの大きさの筒で、たくさんの装置に囲まれていた」


 クレイ王国の急激な発展は、カミイケによるものだ。カミイケの発明以前は、カムイの行使は王を筆頭に、一部の者だけの奇跡であった。限定的とはいえ、一般人でもそれが可能になった。それは革命と言っても過言ではない。

 その開発のきっかけとなったのが、とある合金の発明だ。銅を中心に複数の金属を添加し作られた合金は、カムイを遮断した。そして、遮断すれば閉じ込められるという発想から、カミイケが誕生することになる。


 カムイによる探知で中が見えないということは、そういうことだ。


「さすがに軍用の圧縮カムイじゃないよね」

「だとしたら、ここまで厳重じゃないもんな」


 それを乗せている軍用の輸送車両には十台以上の装甲車が護衛についている。通常の軍事物資の輸送では考えられない扱いだ。ましてや今は戦時中ではない。それは、まともではない。


「見えないなら、切り裂くしかないな」

「タケ君の想定通りになっちゃったね」

「やっちゃいましょー」


 カムイを遮断し閉じ込める合金は、強度の高いものではない。カムイを物理的に作用するように行使すれば、破壊は難しくないはずだ。

 破壊した後に何が出てくるか。それは実際に見なければわからない。今できることは、どんな物が出てきても取り乱さないように覚悟を決めることくらいだ。


「さっ、朝食にしましょ。軽めにね」


 もしかしたら、これが最後の食事になるかもしれない。タケキは、少し酸味がある具沢山のスープをゆっくりと味わった。


 しばらくして、中佐の指定した時間丁度に呼び鈴が単純な電子音を奏でた。軍人はどうしても時間に正確になってしまう。タケキは苦笑した。


 ドアを開けると、軍帽を目深に被った若い兵士が立っていた。隙間から綺麗な金髪が覗いていた。「こちらへ」とだけ呟き、以後は無言でタケキ達を護送車へ案内する。どうやら出迎えは彼一人のようだ。

 護送用の四輪車はゆっくりとした速度で王都を進んでいった。治安維持局に向かうにしては遠回りが過ぎる。


「サガミさん」


 訝しんでいたことに気づいたかの様に、案内人がタケキの名を呼んだ。玄関先ではわからなかったが、随分若い声だ。


「ロウドさんからの伝言です。合図するまでは従え。とのことです」


 その後はまた押し黙り、真っ直ぐに目的地へと向かった。


『ねぇねぇ、あの人レイジさんって人の仲間なのかな?』

『たぶんな』


 どういう意図なのかは不明だが、レイジならば信頼できると判断している。左隣の席に座るホトミもタケキを見て頷いた。


 数分後、治安維持局の建物が見えてくる。前身であった王国軍司令部も含め、威圧的な建物だ。人を従えようという意思に満ちているように感じられる。


 タケキ達を乗せた四輪車は、正門の正面に停車した。若い兵士は「どうぞ」と呟き、降車を促す。


「さぁ、行きますか」

「うん」

『はーい』


 タケキは軽く伸びをして、魔境ともいえる建物に足を向けた。ホトミとリザもそれに続く。

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