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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード2 「私だって」
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「私だって」part.13

 リザの輪郭を見た後、ホトミの動きは早かった。自室へ飛び込んで持ってきた、白い布をリザに手渡す。ホトミが泊まり込み用に持ってきた服だろう。


「リザちゃん、とりあえずはこれ持って隠して」

「あ、うん」


 リザはホトミの剣幕に大人しく従い、服の両肩部分を摘まんで自身を隠す。少しだけ青みがかった白いワンピースは、リザに良く似合っているように見えた。


「よし、とりあえずはこれで。これあげるから、ちゃんと隠してね。男の人の前で裸はだめです。ね? タケ君」

「そうだな、だめだな」

「こんなに可愛い服もらっていいの? ありがとうホトミ姉さん」


 満足げにホトミは空中に浮く服を指差し、タケキに同意を求める。笑っていない目に対しては素直に頷くことしかできなかった。同時に、リザのような浮かれた嬉しさも込み上げてくる。そんなタケキにとっては初めてに近い感情だった。


「サイズは、とりあえず着れないからいいよね?」

「うんうん、気にしないよー」


 自分の腰や胸に手を当てつつ心配するホトミと、踊るように左右に揺れるリザ。この対比がタケキには好ましかった。


「今は輪郭だけだからこれでいいけど、ちゃんと服を着た状態でリザちゃんを見たいな」

「んー、頑張ってみるよ」


 リザは自分の姿が見えない。よって、リザの姿を想起するのは必然的にタケキの役割となる。タケキの印象とリザの自覚を合わせてカムイで投影することになる。タケキが感覚的に見ているのは服を着ていないリザだ。そこに服を表現するのはとても難しいのではないかと思う。ならば、リザそのものの外見はタケキ、服についてはもらったものが気に入っている様子のリザ、という意識の役割分担ができるのではないだろうか。

 とはいえ、こればかりに集中してはいられない。

 

 リザの服騒ぎの後は、計画を詰める時間だ。体を隠したまま退屈そうなリザを他所に、タケキとホトミは着々と当日の行動を検討していく。

 レイジへの連絡は早めに行った方がいいと判断し、すぐにでも行うことなった。


「リザ、いいか?」

「うん」


 リザがタケキの後ろから肩に手を乗せた。見ないという条件で、ホトミはリザから服を預かっている。

 方法は探知と大きくは変わらない。伝えたい情報をカムイに乗せて、レイジの居場所に向けて発信するだけだ。時間も同じく二秒以内。レイジのカムイへの特性から、受け取ってもらえるだろうとは思う。ただ、賭けになることも否定できない。


 タケキは頭に言葉を浮かべた。

 廃工場での出来事、リザの事、中佐との約束の事、出頭日の計画の事。これらをまとめてカムイに乗せる。リザを構成するカムイを使うため、二人の意識を合わせなければならない。双方の感覚に誤解やずれがないよう、気持ちを一つに。


「いくぞ」


 目標は治安維持局の地下二階にある一室、戦友の元へ。

 一秒。情報を流した感覚がある。

 二秒。レイジの意識がわずかに逆流してきた。


『わかった。脱出については準備がある。信じろ』


「ふーっ」


 タケキが大きく息を吐く。これだけ集中すると僅かな時間でも心労は大きい。だが、大きな成果があった。


「タケ君、どうだった?」

「こっちの意図は伝わったみたいだよ。しかも、脱出の準備があるらしい。信じてくれって」


 タケキの言葉に、ホトミは安心した笑みを浮かべた。この件については張り詰め続けていた。リザとの関係性で息抜きができていたとはいえ、ここでようやく一安心といったところだ。


「よかったぁ、レイジ君もやるね」

「思考を操るのは、あいつが一番だったもんな」


 レイジの特性はカムイで思考を操ることだった。敵兵の思考を読みその裏をかくような作戦や、偽の情報を一部の敵兵に送り思い込ませ混乱させるような作戦は、幾度となく行った記憶がある。物理的な探知を行う者と共同で、カミガカリ達の目となり耳となり、口にもなった。直接の戦闘ではタケキ等の特性には及ばないが、カミガカリの異常な戦果はレイジのような存在が大きかったのだと感じている。

 そんなレイジが信じろと言うのであれば、信じるに値することだ。脱出や逃走に関しては、レイジの準備に任せようという結論に達するのも自然な事だった。


「じゃぁ、お昼にしようか」

「お、もうそんな時間か」


 七日日の昼食は、魚の甘辛い煮物と汁に入った小麦粉の麺だった。


 午後からはリザ可視化を進めつつ、治安維持局の見取り図を暗記することに費やした。

 そして八日目の昼下がり、事件が起こる。

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