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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード2 「私だって」
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「私だって」part.8

 リザがタケキの肩に手を添える。タケキは目を閉じその濃密なカムイに意識を浸透させる。細く長くカムイを散らし、それが捉えたものを意識に取り込む。

 閉じたタケキの目に、街の景色が映った。正しく表現するならば、タケキの意識がカムイを通して周囲を認識した、というところか。


「どう?」


 ソファーの左端に座ったホトミが問いかける。

 二日目は当初の予定通り、リザの力を借りた探知の範囲や精度を確認することにしていた。現在は距離の限界を確認中だ。


「うーん、ちょっと待ってな。もう少しいけるかも」


 王都の端、終戦に際し取り壊された城壁が見えてきた。タケキの住まいから徒歩で二時間程度の距離だ。更に先へ意識を向けるが、それ以上は広がらなかった。


「西側の壁までは見えたよ。そこが限界だな」

「そっかー、そこそこいけるね」


 ホトミは手帳に結果を書き込んでいく。今後の動き方を考えるにあたって、重要になる情報だ。


「タケ君としての負担はどう?」

「全部を見るわけじゃないから、さっきよりは楽かな」


 距離の前に範囲の確認も行ったが、その際はタケキの負担が大きかった。一度に入って来る情報が多すぎたからだ。廃工場の時と違ったのは、人の数。王都に住む人々それぞれの動きや思考を同時に感じるため、タケキの思考が追い付かなかった。ただし、こちらは使い方の工夫で解決できる問題だと想定している。

 初めに広い範囲と距離で大まかに探知し、その後必要な場所や対象を絞り詳細を調べる。使いこなすには時間が必要だろうが、理屈としては成り立っている。

 練習も兼ねて周囲を探知してみたが、タケキ達への監視は見つけられなかった。律儀なのか、反抗を予測していないのか、約束を守る中佐に不気味なものを感じた。

 検証は思いの外時間がかかり、柔らかな日差しは上りきりつつあった。


「じゃぁ、簡単にお昼作ってくるね」

「いつも助かるよ」


 気を利かせたホトミが桜色を巻き付け、台所に向かった。昼は何が食べられるだろうか。


「じゃぁ、練習だな」

『うん』


 残された二人は探知の練習を続け、当初の想定通りの運用はできる程度まで上達した。

 食事の準備や片付けの際、リザが木製や樹脂製の食器を運んだ。その張り切りぶりに、タケキも気分が高まってしまった。


「物が持てるなら、声も出せないかな。はい、リザちゃん」

『はーい、ホトミ姉さん』


 洗い終わった木皿をリザに渡しながらホトミが言った。リザは皿を受け取り布巾で拭う。ただそれだけの行為なのだが、見ていて微笑ましい。見た目は似ていないが姉妹のようだ。


「声か、空気を振動させるような干渉ができれば、いけるかもな」

「そうそう、筆談でもかなり助かるんだけど、欲が出ちゃうね」


 ホトミは見えないリザの方を向く。文字でのやり取りができることによって、リザがそこにいると確信できたのだろう。喜ばしいことだと思う。


「いけるかな、片付け終わったらやってみようか」


 カミガカリの中には振動を特性とする者もいたが、タケキの特性ではない。また、物を動かすという行使よりも複雑にカムイを制御する必要がある。それでも、声でのやり取りが可能になるのは魅力的だ。


「タケ君、終わったよ」


 振動でのカムイの行使を思い出している間にも片付けは進む。慣れてきたのかあまり意識を集中させずとも、リザは物を掴めるようになっていた。掌だけという事にも意味があるのだろう。


「声を出すというよりは、空気の振動だからな」

『うん、あー、あー』

「それ、音じゃないから俺にしか聞こえない」


 三人並んでソファーに座り、音を出す検証を始める。やはり、空気を振動させて音を出すという感覚は難しいようだ。それはリザだけでなくタケキも同じだ。

 結局、この日は音を出すことは叶わなかった。

 リザの存在をホトミがはっきりと理解できたのは大きな収穫だ。

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