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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード2 「私だって」
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「私だって」part.3

 タケキが事務所と呼ぶ部屋の食卓に、二人分の食事が並ぶ。チーズの焼けた香りが鼻をくすぐる。タケキは空腹だったことを思い出した。


「いただきます」

「はい、どうぞ」


 よく煮込まれた鶏肉はフォークでほろほろと崩れる。煮込み料理は二日目が本番だと思う。ホトミは連続で同じものは出さず、必ず手を加えた料理を出してくれる。タケキは溶けたチーズと鶏肉を絡めて口に運んだ。相変わらずホトミの料理はうまい。何度も食べているものだが、飽きることはなかった。


「おいしい?」

「うん、うまい」

『いーなー、タケキ達はいいなー』


 リザが二人の間を飛び回る。食事ができることが羨ましいのだろう。タケキとしては少々鬱陶しいが、リザの気持ちも考えると邪険にはできない。ここは我慢する他なさそうだ。


「タケ君は約束守るつもり?」


 皿の中身が半分ほど減った頃、ホトミが問いかける。タケキ達が解放され監視の目が緩まったのも、その約束によるところが大きい。


「カムイを使った兵器の開発なんて、関わりたくないとは思う」


 捕縛したタケキ達に対し《モウヤ・クレイ共同安全保障治安維持局 局長 ジルド・ヤクバル中佐》を名乗った男は、解放の条件としてカムイを使った兵器の開発に協力するよう提案してきた。返事をするまでの猶予として十日待つという、破格の条件だった。更に、協力を約束すれば勾留中のレイジも現職復帰させるとのことだ。


「さすがに、あの場では断れなかったが」

「レイジ君、心配だもんね」


 ヤクバル中佐は、レイジの所属する諜報部の責任者も兼任している。レイジの身柄を確保したのもその立場からだろう。つまりは人質だ。タケキ達がレイジを見捨てられないことをわかっているようだった。

 レイジが研究施設破壊事件に関与してると疑われたのは三回目が終わった時。その後は敢えて泳がせて三回、そして今回の七回目ということだ。自分達の迂闊さに腹が立つ。


「アレはもう作らないとは言ってるが、どこまで本心か」


 タケキの言うアレとは、中央棟で襲い掛かってきたカムイを使う兵士のことだ。中佐からは《カムイ兵》と呼ばれていた。人為的にカミガカリのような兵士を作ることを目的に外科的、内科的、心理的、それぞれの手法を駆使して作り上げたらしい。その結果、比較的単純な『物を動かす』という特性でカムイを行使する兵が誕生した。ただし、対象者の精神はそれに耐えられなかった。単調な命令に従うだけでは費用対効果が割に合わないということで、中佐は失敗作と呼んだ。あの時感じた怒りを忘れることはないだろう。


『その辺全部本当だよーっ』

「うわっ」


 怒りを反芻していたタケキの眼前にリザが現れる。中央棟での出来事以降、弱い力であればリザの意思でカムイの行使ができるようになっていた。嘘か本当かという程度ならば、レイジ程ではないが心を読むこともできるそうだ。中佐の言葉の真偽も読んでいたらしい。


「リザちゃん。姿は見えないけどそこにいるのは感じます。お行儀悪いよ」

『はーい』


 叱られたリザは素直に応じ、タケキの真上に移動する。ホトミはそれを見て満足げに頷いた。その適応力にタケキは感心してしまう。


「で、リザちゃんは何て?」

「中佐は嘘をついていないって」

「そうかー」


 ホトミは最後の根菜をフォークに指して口に入れつつ思案する。


「あっちはリザちゃんを認識してないで、タケ君にカムイを集める能力があると思ってるんだよね」

「そうだな」

『まったく、私を何だと思ってるんだ。失礼な』


 ホトミは空になった皿の上にフォークを置き人差し指を立てた。


「あいつらは、そんなタケ君を十日間怒らせないで確保しておく必要があるんだよ。ということは、十日後に何かがあるってこと」

「それの正体がわからないと動けないよな」


 ホトミは薄いが形のいい唇を横に大きく広げ、不適な笑みを浮かべる。そしてタケキの上、リザがいる辺りを指差した。


「だから、大至急リザちゃんと仲良くなります」


 驚く二人と、満面の笑みを浮かべる一人。一日目の夜が更けていく。

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