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君の姿と、この掌の刃  作者: 日諸 畔
エピソード2 「私だって」
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「私だって」part.2

「ホトミ、どうした?」


 出迎えたタケキはホトミの大荷物を見て驚いた様子だった。いきなり押しかけているので無理もない。普段のホトミなら多少の遠慮をするのだが、今回ばかりはそうもいかない。


「今日から私もここに泊まるね」

「は?」

『え?』


 タケキとリザの感嘆が綺麗に重なる。ただし、ホトミにはリザの声が届いていない。


「ほら、これからの事も考えると一緒にいた方が都合がいいと思うの。リザちゃんの事もあるし」


 タケキ達には解決しなければならない問題が山積みだ。治安維持局との契約、レイジからの依頼、リザの願い。どれも簡単には解決できない。それを考えると同じ場所で生活するという提案は合理的だ。


「約束まで十日だし、時間ないもんね。あ、もう夜だから実質九日だね。お邪魔します」


 タケキの返答を待たず、ホトミは靴を脱いで上り込んだ。そのまま短い廊下を進み、左側の扉を開く。ここの事はよく知っている。


「この空き部屋使うね」


 退役軍人扱いの面々に宛がわれている集合住宅は、基本的に同じ間取りをしている。台所と繋がった大部屋がひとつに小部屋がふたつ、そして浴室と便所という構成だ。物持ちが少ないタケキは、小部屋のひとつを持て余し空き部屋としていた。度々タケキの世話を焼きに来ていたホトミはそれを把握していた。


「ちょっと待っててね。軽く掃除しちゃうから」


 タケキが事務所と呼んでいる大部屋から電気式の掃除機を持ってきて、手際よく掃除を始める。それを見たリザは、何かに気付き密かに口角を上げた。ホトミには見えず、タケキはそれに気づいていない。


『そういうことね』

『何が?』

『あー、こっちの話』


 掃除を終えたホトミは持ってきた大型の鞄を開き、様々な生活道具を取り出す。着替え、洗面用具、化粧品、寝袋まで。一泊二泊のつもりはない。


「意外と荷物多くてねー」

「いやいや、待て」

「なぁに?」


 生活する環境を整えだしたホトミに、漸くタケキが口を挟んだ。


「本当にここに泊まるつもりか?」

「うん」


 これまで出入りは頻繁にしていたが、泊まると言ったのは初めてのことだ。タケキは動揺が手に取るようにわかる。


「まずくないか?男女でその……一緒に住むとか」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。それにタケ君と私だし」

「まぁ、そうだが」


 ホトミの有無を言わせない正論に、タケキは引き下がるしかなかった。


「お待たせ。今後の事も相談しないといけないんだけど、まずは食事ね。どうせ何も食べてないでしょ?」


 持ってきたお気に入りのエプロンを体に巻き付けながら、ホトミは台所に向かった。冷蔵庫には出かける前に作った鶏肉と野菜の煮込みが残っている。それを温めながら少し手を加えて、夕食としよう。


「タケ君、あいつらの約束って守られてると思う?」


 鍋をガスの火にかけながら、ホトミは問いかけた。焦げ付かないようにかき混ぜ、煮詰めて水分を飛ばす。


「それは大丈夫。監視がないのは探知で確認した」

「探知って、リザちゃんの力?」

「そう。俺単独では無理な精度で」


 タケキの話を聞く限り、リザの力は相当なもののようだった。タケキの特性は探知ではない。それでも特性を持つ者と同等以上にカムイを行使できる。タケキはさほど気にしていないようだが、ホトミは恐ろしさを感じていた。カムイの塊としては感じられるが、正体はわからない。そんなモノを信用してもいいのだろうか。ましてや、タケキにはそれが若い女の子に見えているらしい。しかも、頻繁に話しかけてくるらしい。ホトミには聞こえないし見えないが、目の前でだ。


「そのリザちゃんだけど、タケ君だけに見えたり聞こえたりするのは不便だよね」

「そう、それは困ってる」


 ホトミだけでなく、タケキもこの事態に困っているようだ。ほどよく水分が飛んだ煮込みを耐熱皿に盛りつけ、その上にチーズを振りかけた。耐熱皿ごと備え付けのグリルに入れたホトミはタケキに振り向いた。


「今の猶予期間は、リザちゃんと関係性を作る時間にも使った方がいいと思うんだ。私も見えるようになりたいし、できるなら力を借りられる状態にしたい」

「そうだな。その方がいい」

「あの人の言いなりになるつもりもないでしょ?」

「出し抜くには、リザが必要だよな」


 タケキが返事をしつつ左上を向いた。ホトミはその視線を追う。何度考えてもそこに女の子がいるとは思えないが、事実は受け入れなければならない。そこにもホトミの戦いがあるのだから。


「いろいろあるけど、まずはお腹いっぱいになりましょ」


 厚手の手袋を付けたホトミは、グリルから取り出した皿を食卓へ運んだ。胃袋を掴むことは重要だと本で見たことを思い出した。

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