5話(探索 ~ダンジョン~)
5話(探索 ~ダンジョン~)
1
翌朝、僕たちは、アルシギウの洞窟を捜索のため、出発をすることに……。
エルバー州/フライベール街道
「しかし、昨夜はさ、超大変だったよね」
「うん、そうですよね。まさか、英雄扱いをされてしまうなんて……(苦笑)」
「おおー⁉ 英雄様ご一行じゃないか⁉」
「あのね、ダンジョン探索についてはね、英雄様から、行ってきなよ! 俺たちは、後日で構わないからさ」
と、昨夜、ダクフとネムル、帰路に就く途中、とても歓迎を受けていた模様……。
「ホント、英雄様はさ、やめて欲しいよね」
「あはは、すごくむず痒【がゆ】いですよね」
「でもね、称賛はね、素直に受け取っておくべきだよ。あまり、遠慮がすぎると、すごく失礼だからね。まあ、慣れない気持ちはね、すごく理解できるけど……」
「ねぇ、ガイアルさん? ホントにね、よかったの?」
「うん、よかったとはね……何⁉」
「い、いや、武器屋と道具屋にはさ、返品したんだしさ、何も、リールを払わなくても……」
「ふふっ。元々、店主さん方のお手柄でもある訳だからね。トリックに気がつくキッカケをね、与えてくれたのは、紛れもなく、店主さん方がご奉仕【ほうし】をしてくれた、武具たちだからね。それに、寄付はね、僕の個人的な感謝だよ。すごくお世話になったとね、少なくとも、僕はね、思っているの」
「ま、まあ……ガイアルさん自身がさ、自覚があってね、行【おこな】っている善意だからさ、俺から、言うことは何もないよ。事実、高火力……高魔力……によって、肥大化が加速したのも、事実な訳だしね」
「うん、すごく間接的ではね、あるけれど、すごく縁の下の力持ちになってくれたのは、疑いようのない事実だからね。僕もね、すごく的を射【え】ていると思っているよ」
「ふふっ。そのように、おっしゃっていただけるとね、僕としても、すごく嬉しいよ」
「さあ、三人でさ、仲良くいこうぜ!」
「あ、兄貴……すごく強いですよ!」
(まったく……すごく調子がいいよね)
ダクフ、ガイアルとネムルの両肩に腕を回して、とても意気揚々【いきようよう】とアルシギウの洞窟に向かっていく……。
2
エルバー州/アルシギウの洞窟
「さあ、ようやく、本命だね……って、うん⁉ 二人共、どうしたの⁉ 興奮しないの⁉」
「あのね、自覚はね、ないの?」
「ええ、自覚って、俺さ、何かしたかな?」
「はあぁー……無自覚ほど、恐ろしいものはないよね」
「あははぁ……そ、そうだよね」
「うーん……?」
……。
「さあ、それじゃあね、出発するよ。ダクフさん、ネムルさん、心の準備はね、いいかい?」
「ああ、いつでも、いいよ!」
「うん、僕もね、すごく万端だよ」
「了解……。ダンジョン内は、神出鬼没だから、注意しなよ」
「ああ、聞いたか⁉ ネムル、そういうことだぞ!」
「うん、もちろんですよ」
(……ダクフさん、どちらかといえば、あなたのことだよ)
アルシギウの洞窟に突入……。
ダンジョン内……。
「うーん……如何【いか】にもという感じだよね」
「はい、すごく薄暗くて、すごくおっかないですけど……」
「ネムルさん、大丈夫⁉」
「う、うん……大丈夫」
「まあ、何かあったらさ、俺が守ってやるから、お前はさ、安心しな!」
「うん、ありがとう」
(すごく先はね、思いやられるけど、何とか、杞憂【きゆう】に終わりそうだね)
ひとつの大きな部屋に出る……。
「うわあぁ⁉ 何だよ、ここ⁉」
「はい、古代遺跡みたいですね」
「どうやら、大昔に建てられたというのは、ホントみたいだね」
「ああ、数十年……いや、数百年かな?」
「兄貴……すごく幅がね、広すぎでしょ⁉」
『5つの柱……それにしても、すごく奇妙な配置だよね』
上から見ると、サイコロの5の目の形に配置されている柱……無論、真相は謎である。
「よし、先に進むぞ!」
「……そうだね。柱以外、特異な点は見当たらないみたいだからね」
「うん、そうだね。でもね、ガイアルさん、すごく奇妙な柱だよ」
「うん、メモを取っておいた方がよさそうだね」
「了解だよ!」
ダクフを先頭に、先に進む……。
「あ、ははぁ……ら、螺旋階段、超時代錯誤だね」
「あ、兄貴……絶対にね、先駆者がいるでしょ⁉」
「うん、ネムルさんのおっしゃる通りかもしれないね。改装が行われている……そのような、印象だね」
「ああぁぁー⁉ ガイアルさん、そのような、夢のないこと言わないの⁉ 超気が削【そ】がれるよ」
「兄貴、着目点はね、そこじゃないでしょ⁉ 先駆者がね、いるということでしょ⁉」
(ふふっ。ホント、すごくおもしろい兄弟だね)
すごく大きな部屋に到着する……。
「こ、これさ……」
「うん、どうしたの? すごく浮かない顔をしていますけど」
「あ、あのさ、ダンジョンというより、秘密基地とでも言っておこうか……?」
「確かに、そうだね。まあ、鍛冶屋さんにはね、すごく重宝すると思うよ」
「ガクッ! ガイアルさん……俺はさ、そのような、答えはね、求めてなかったんだけど」
「まあぁ、まあぁ、兄貴……」
ネムル、ダクフを宥【なだ】める……。
(……それはね、さておき。再び、5つの柱……先ほどの螺旋階段の形状から、考慮をすると、真下だということは、すごく容易に想像がつくよね)
洞窟から、帰還する……。
「あぁーあぁー……これといって、収穫なしだよ」
「まあ、まあ……ひとまず、鍛冶屋さんにもね、伝えておきましょうよ」
「唯一の救いだよな」
ネムル、落ち込むダクフを宥【なだ】めながら、帰路に就いていく……。
ガイアル、ふと、洞窟の上部を眺め……。
(……そうだね。改装を行【おこな】っている時点でね、すごく容易に想像がついたよ。節穴を利用したトリックということがね)
3
夕暮れ時……。
エルバー州/アルシギウの洞窟[ガイアル]
「これはね、すごくラッキーだね。生活の確保としても、拠点地の確保としても……欺【あざむ】かせてもらって、すごく申し訳ないんだけどね。こちらも、任務なのでね」
ガイアル、ロープを使用して、洞窟の上へ……。
「やっぱり、僕の想定した通りだね。5つの柱の頭上にあたる場所……そして、1カ所だけ、シンメトリーじゃない配置……何かあるとはね、思っていたけれど、まさか、ダンジョンへの入口とはね……うん、真ん中の柱のところだけ、すごく凸【つばく】んでいる。昔の人も、すごく考えたよね」
そして、ガイアル、凸【つばく】んでいる、柱の元へ……。
「うんっ⁉ どうやら、ホット傾向みたいだね。まあ、ダンジョン内だから、心配いらないでしょ。さあ、それじゃあ……」
((ああぁぁー……⁉))
「⁉」
「やっぱり、だよ!」
「うん、後をつけて来て、正解だったね!」
「はあぁー……すごく完璧だと思っていたんだけどね。どうやら、拠点地としての計算はね、ご破算かなぁ……」
……。
「ガイアルさん、すごくひどいよ! 僕たち、グループでしょ⁉ どうして、一人でね、行っちゃおうとするの⁉」
「ああ、ネムルの言う通りだよ」
「理由はね、すごくシンプルだよ」
「「ええっ⁉」」
「聞かれなかったからだよ」
「ええ、そんな理由なの⁉」
「マ、マジで……」
「うん、グループとしての行動はね、ひとまず、解散をした訳でしょ。したがって、今はね、プライベートの時間だよ。僕の言動に、難癖【なんくせ】をつける資格はね、ないと思うんだけど」
「あ、あのさ、俺たちをさ、粗【あら】探しをする連中扱いしないでくれよ」
「……そうだね。ガイアルさんの意見って、正しいような、間違っているような……(苦笑)」
「まあ、どちらとも取れるでしょ。所謂、すごく中庸【ちゅうよう】ということだね」
「ああー、もういいよ! 超調子が狂うから!」
「ああ、そうだ! ひとつ、補完をさせてもらうよ」
「うんっ⁉ 補完……」
「また、すごく唐突だね」
「まあ、自己擁護ということで。あのね、これから、ホット傾向になるでしょ。したがって、ダンジョンという名の避暑地だよ」
「あまり、答えになってないような……」
「うん、そうだね。でもね、すごく言い得て妙だね」
「ネムル……感心しないの」
(ホント、狡【ずる】賢い人だよな)
……。
ガタンッ!
「うわあぁ⁉ 超空洞じゃん!」
「道理で気がつかない訳ですね」
「ねぇ、引き返すのなら、今のうちだよ。おそらく、すごく本格的なダンジョンだろうからね」
「バカ、言うなよ! 起死回生のチャンスがさ、巡【めぐ】って来たんだ! 確実にものさせてもらうぞ!」
「ホントだよ。すごく悲願だもん」
「勘違いしないで。今さら、ダメだなんて言わないよ。でもね、二人共、ホントにね、いいの? 特に、ネムルさん、怖くないの?」
「うん、兄貴とガイアルさんがいるから、僕はね、怖くないよ」
「ああ、もちろんだ。ナムルに、仇【あだ】をなす奴は、容赦しない!」
「えへへ、ありがとう。それに、ガイアルさんだっているから、すごくおっかなくないと言えば、ウソになっちゃうけど、それ以上にね、すごく安心なの」
「なるほどね……。だったら、僕からはね、何も言うことはないよ」
「ありがとう、ガイアルさん(照)」
「それじゃあ、お喋【しゃべ】りはね、おしまいだよ。僕がね、先導をするから、ネムルさんはね、後に続いてね」
「うん、了解だよ」
「ダクフさん⁉ 殿【しんがり】をね、お願いするよ」
「ああ、超無難な選択だね」
ガイアルを先頭に、真【しん】のダンジョン内に突入……(なお、梯子【はしご】である……)。
4
梯子【はしご】を伝【つた】って、下りていく……。
「ガイアルさぁん⁉ まだ、着かないの⁉」
「うん、どうやら、すごく深くまで繋がっているみたいだね」
「えへへ、これはね、すごく大空洞だね」
「ねぇ、ダクフさぁん⁉ 上はね、大丈夫⁉」
「ああ、大丈夫だ! 誰にも、つけられていない!」
「了解!」
『ひとまず、すごく視界はね、クリアだね』
……そして、しばらく、下降がつづき。
「ふうぅー……ようやく、到着したね」
「しかし、どこまで、下りて来たんだ……上がさ、全く見えないんだけど」
「まあ、そこはね、僕たちの専門じゃないよ。ひとまず、最奥をね、目指して進むよ」
「おおー‼」
「うん、ダンジョン探索の始まりだね!」
「ふふっ」
(ひとまず、好奇心が勝っている間は、一安心だね)
道なりを進んでいく……(少し下りになっている……)。
「うん、兄貴、どうしたの⁉」
「いやあ、何というか、超妙じゃない⁉」
「ええ、何か、奇妙なことでもね、ありましたか?」
「だって、トラップらしいトラップがさ、ひとつもないじゃん。さすがに、超勘繰【かんぐ】るだろ⁉」
「まあ、そうだね。ダクフさんの解釈もね、一理あるよね」
「どうやら、俺と同意見みたいだね。超安心したよ」
「ふふっ、それはね、ありがとう。えっとね、これはね、僕の想定だけど、実質、スタート地点がね、トラップみたいなものだったでしょ。それに加えて、すごく長い梯子【はしご】の階段……うん、トラップとしての役割は、すごく充分に果たしていると思うんだよね」
「なるほど……ある意味、トラップ……ね。まあ、強【あなが】ち、間違ってはいないよね」
「クスクス……」
「うん、ネムル、どうしたの?」
「いや、二人共、すごく楽しそうで、このような光景ってね、改めて、すごくいいなぁと思いまして……」
「まあ、そうだね。俺もさ、超楽しませてもらってるよ」
「ふふっ、それはね、どうも」
……そして。
立ちはだかるは、巨大迷路……。
「うわぁ⁉ マジかよ⁉ 建物ありの巨大迷路かよ!」
「あははぁ……これはね、すごく途方に暮れそうですよね」
「うわぁ⁉ 冷たぁ⁉ 何だよ、水⁉」
「うん、雪解け水だね」
「雪解け水って、多分だけど、コールド傾向だったのはさ、三日前だよ! 遅すぎじゃない?」
「うーん……あまり、驚くことでもないと思うんだけどな……」
「ええ、どうして⁉」
「言ったでしょ⁉ ホット傾向だって! 融【と】けていなかった雪があっても不思議じゃないでしょ⁉ すごく深いダンジョンだということもね、考慮すると、タイミング的にはね、すごくありえる話でしょ?」
「かああぁぁー⁉ それはまた、超リアルな考察だね」
「えへへ」
「さあ、それじゃあ、気合いを入れて、行きますか⁉」
「ふふっ。お遊びをしている時間はね、ないと思うよ」
「「ええっ⁉」」
「確かにね、すごく大迷宮かもしれないよ。でもね、法則がね、あるでしょ?」
「「ほ、法則……」」
ガイアル、左手を、左の壁に当てて、壁伝【づた】いに進んでいく……。
「あのね、すごく時間はね、かかるかもしれないけど、すごく確実にね、ゴールに到着することがね、できるよ」
「ああぁぁ……夢がないなぁ……」
「あのね、夢より、現実だよ」
「ガイアルさん……すごく相変わらずだね」
「ああ、そうだね。財宝が優先だ! ネムル、俺たちもさ、つづくぞ!」
「あ、あははぁ……あ、兄貴も、すごく切り替えが早いですよね」
……。
「「「……」」」
「どうやら、世の中、そんなには、甘くないみたいだね」
「まあ、姑息【こそく】な手法はさ、通用しないってことだよ」
「ふふっ。迷路の醍醐味【だいごみ】を味わうことができるよね」
迷路内の床が、大回転している……。
「あ、あのさ、タイミングを見誤【みあやま】るとさ、落っこちちゃうんじゃないの⁉」
「そうだね……。少なくとも、命の保証はできないよね」
「だ、だから、どうして、そこまで、冷静でいられるの!」
「ふふっ。現実から、目を逸【そ】らしてもね、しょうがないでしょ。それだけのことだよ」
「答えになってないよ」
「あ、あははぁ……そ、そうだね」
―そして。
「よーし、行くぞ! 正面突破だ!」
「うん、そうだね。今回ばかりは、ダクフさんの主張にね、賛同するよ」
「だから、素直にさ、褒めてよ……」
「ふふっ(微笑)」
……。
「よーし、今だ! 猪突猛進【ちょとつもうしん】!」
ダクフの声を合図に、総員、先に続いている足場に、全力疾走……!
と、その時……!
「あ、あれ……あ、足が動かない……」
ネムル、足の自由が利かない……そして、ふと、足元を見ると……。
「えっ⁉ 何、これ⁉ 足に手錠……ど、どうして⁉」
ボトオォーン!
と、ネムル、強く音を立てて、前方に転倒をする……!
「ネ、ネムルさん⁉」
と、ガイアル、後ろを振り返り……そして、ネムルの元に駆け寄る……!
「ガイアルさん⁉ 来ちゃダメだよ! 僕はね、助からないから、先に進んで!」
「心配しなくても、大丈夫だよ。君をね、見捨てることはないから」
「で、でも……このままだと、ガイアルさんもね、お、落っこちちゃうよ!」
「し、静かにしな!」
「ひいぃ⁉」
「うーん……ダメだね。すごく頑丈だね。やっぱり、叩き割るしか……」
ガイアル、足の手錠の解錠に、悪戦苦闘……。
「ダクフさん、てをか……ま、まさか⁉」
「クククッ。どうやら、一足遅かったみたいだね。うん、俺の勝ちだね」
と、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、別人のように語る、ダクフ!
「あ、兄貴……ど、どうして……⁉」
そして、無情にも、フィールドが大回転……。
「あっ、あああぁぁぁー……⁉」
「クッ⁉」
ガイアルとネムル、底の見えない下に落っこちていく……!
「悪く思わないでよ。世の中はね、騙し合いだよ。騙された方がさ、負けなんだよ!」
5
ダクフ、最奥に向かって、歩みを進め……。
「フフッ、ようやくのお出ましだね」
―(ウイーン)[大門の開く音]。
最奥……。
奥には、とても立派なひとつの宝箱が……。
「さあ、漕ぎ着けたよ」
ダクフ、ゆっくり、宝箱の元に歩み寄っていく……。
「さあ、もう少しだよ」
目と鼻の先に、宝箱……しかし、その時!
⦅止まりなよ!⦆
「だ、誰だ⁉」
⦅ま、まさか、僕の声をね、忘れちゃったの? 先ほどまで、行動を共にしていたのに、すごく悲しいね⦆
「バ、バカな……あの高さから、落っこちて、無傷な訳が……」
⦅しかし……あれだね。本性【ほんしょう】というのは、すごく恐ろしいものだよね。すごく簡単にね、靡【なび】いてしまうのだから……⦆
「ガイアル……いや、あんた、何者だ⁉」
⦅しがない盗賊だよ。パーティーを組んでいるのだから、それくらいはね、覚えているでしょ⦆
「あ、ああ、超よく分かったよ。あんたがさ、化け物ということがね」
ガイアル、ダクフの目の前に、姿を現す……!
6
「フフッ。まさか、悪魔に化け物呼ばわりとはね、すごく夢にも思わなかったよ」
「だ、誰が、悪魔だよ⁉」
「それはね、お互い様でしょ⁉ あんただって、僕のこと、化け物呼ばわりをしているのだからね」
「フッ、そんなことはね、まあいい。一体全体、どのような、トリックを使った⁉」
「あなたにね、教える義理はない」
「なあにぃ⁉」
「世の中はね、騙し合いなんでしょ⁉ まあ、引き分けということだね」
「た、確かに、あんたの言うように、引き分けという言葉はさ、超的を射【え】ているね。どうだろう? 今回はね、引き分けということで、山分けにするという提案はさ」
「……そうだね。常識のある人間同士であれば、すごく真っ当な考え方だろうね」
「す、少し棘【とげ】があるみたいだけど、そこはね、ご愛嬌【あいきょう】ということでね、善処【ぜんしょ】するとしよう」
「戯れ言【ざれごと】はね、それくらいに、してもらおうかな?」
「はあっ⁉」
「言ったでしょ⁉ 常識のある人間同士というのが、条件だとね」
「あ、あんた……」
「リールに毒された悪魔……あなたにね、すごく相応【ふさわ】しい異名だよ。悪魔というのは、すごく強欲の塊だからね。目的のためなら、どのような手段だってね、厭【いと】わない……人間にとって、すごく忌【い】むべき存在だよ」
「随分【ずいぶん】な、物言いだね。ぞんざいな扱いはね、はめ……」
「致し方ないよ。悪魔という生き物はね、無自覚で行動をしているからね。そう、目的以外はね。さあ、お喋【しゃべ】りはね、これで、お開きだよ。悪魔という存在である、あなたをね、殲滅【せんめつ】させてもらうよ」
ガイアル、構える……。
「フフッ。超やる気だね。でもさ、あんたはさ、超臆測を誤ってるよ」
「…………(目を閉じる)」
「盗賊が武闘家に、火力勝負で勝てるとでも……まさか、本気【ほんき】で、思ってる訳じゃないよね?」
「……そうだね。火力勝負であるのなら、万一【まんいち】でも、勝ち目はないだろうね」
「だろ⁉ だったら……」
「でもね、そのような理屈がね、罷【まか】り通ると、他の職業の存在意義というものが、なくなっちゃうよね。それに加えて、悪魔に毒されているあなたはね、現状、すごくスキだらけだよ。事実、宝箱の中身が盗まれていることにも、気がつかない」
「な、なあに⁉ そんなバカなこと……」
と、ダクフ、慌てて、宝箱の中身を調べる……。
「ええ……。って、オイ⁉ あるじゃないの……って、あれ⁉ いない……」
チクッ!
「ううっ⁉ い、痛っ⁉」
ダクフ、首元に何かが刺さったような気配がして、思わず、首元を押さえる……!
そして、再び、元の位置を確認すると、ガイアルの姿が……。
「ねっ、すごくスキだらけでしょ⁉ 悪魔という生き物は、臨機応変な対応ができないからね。目的のことにしか、リソースが割【さ】けないからね」
「まあ、でもさ、こんな姑息【こそく】な手段じゃあ、とても止【とど】めを刺すことはさ、できないよね?」
「……そうだね。時間がないから、伝えておくよ」
「うん、時間⁉」
「あのね、どうして、彼のことをね、裏切ったの⁉」
「な、何を今さら……」
「えっとね、僕のことをね、見捨てるのは構わない。でもね、彼はね、違うでしょ」
「ち、違う……」
「どうして、ホントのお兄ちゃんのように慕【した】っていた、彼のことをね、いとも容易【たやす】く、切り捨てることがね、できたの? 僕にはね、とても理解ができないよ。あなたの行動はね、極めて残酷なものだよ」
「だから、言ったよね? 騙し合いだって……それに、財宝はね、山分けするものじゃない。独り占めするものだ……そう、俺のものなんだよ」
「すごく愚【おろ】かだったよ。悪魔に毒されている、あなたにね、その言葉の重みがね、理解できるはずもなかったよね」
「フンッ。好きなだけ、吠えてな! さあ、早速……ううっ、な、何だ⁉」
ダクフ、突然、全身の力が抜けて、その場に跪【ひざまず】く……!
「どうやら、効いてきたみたいだね」
「あ、あんた……一体、何をした⁉」
「大したことはね、していないよ」
「……そうかよ……⁉」
「あなたの首元に、毒針をね、打ち込んだだけだよ」
「な、何だって⁉」
「神経を刺激する、猛毒針だよ。あなたの行動を阻害するために、楔【くさび】を打ち込ませてもらっただけだよ。悪魔を野放しにすることはできないからね。目的を達成したら、新たな目的を定める……それが、悪魔の特徴だからね」
「ひ、ひとつだけ、言っておくぞ。英雄相手に、このような行為……所謂、処刑の対象だよ」
「そうだね……。ひとつの都市を救った英雄……禁忌に触れたといっても、過言じゃないかもしれないよね」
「フフッ。自覚しておきながら、このような行為に及んだ訳だ。あんたも、大概【たいがい】だね」
「すごく大切なことをね、忘れているよ」
「ええっ⁉」
「すごく口を酸【す】っぱくして、言っているけど、あなたはね、悪魔だよ」
「はあぁ……それが、どうした⁉」
「したがって、あなたはね、英雄でもなければ、剰【あまつさ】え、人ではない。語るまでもないよね」
「な、何を、屁理屈を……(苦)」
「すごく耐えているよね」
「ううっ⁉(悶)」
「すごく計算の範囲内だよ。すごく適量の毒針で調整したからね。すぐには、死なないようにね」
「あ、あんたこそ、人のことを言えたもんじゃないよね(悶)」
「聞こえない。悪魔の発言はね、聞こえないよ。悪魔は悪魔らしく、悶【もだ】え苦しみながら、息絶えてもらうよ」
「し、正気じゃない……うぅ⁉ ゲホッ⁉」
……そして。
ダクフ、息を引き取る……。
7
ガイアル、後始末をしながら……。
「まったく、悪魔の誕生はね、すごく予想外だったよ。無論、この街とはね、お別れすることにはね、違いはないんだけど、悪魔の芽を摘む任務が発生した訳だからね。……そうだね。人というのはね、油断ならない生き物だね。優しさとはね、《弱さ》だよ。この街から、新たな悪魔がね、誕生をしないことをね、願っているよ。芽を摘むことが、できなくなるからね」
そして、ガイアル、宝箱の中身を回収する……。
リールの全額を、メルサの街に寄付することにした……。
8
エルバー州/機械都市メルサ
……真夜中(人の気配は、全くない)
ガイアル、街全体に、あるものを噴射している……。
灰色の煙が、街全体を包み込む……。
「心配しないで。これはね、無毒性のものだから。僕に関する全ての記憶……そして、関連したものをね、全て消去する。……うん、消去完了だね」
ガイアル、特殊な装置を回収する……(灰色の煙の噴出が収まる……)
「うん、それでは、任務を再開するとしよう。それでは、お元気で」
ガイアル、そう言い残して、メルサの街を後にする……。