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次は、どの県を食べようか?  作者: 落川翔太
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5.群馬県

5.群馬県


金曜日だった。

その日の昼も、彩乃のそのお店はランチを食べにくる人たちで賑わっていた。

午後一時半頃、そのお店にベビーカーを押した若い女性が入って来た。茶髪でショートヘアの女性だった。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

晴斗がそう訊くと、「二名です」と、その女性は言った。

その後、晴斗はふと、その女性に見覚えがあるように思った。それから、晴斗は以前、彩乃と出会った時、有楽町にあるフランス料理店でその女性と会ったことを思い出した。晴斗は懐かしさを感じた。

 それからすぐに彼女は厨房にいる彩乃を見つけて、「あやのん、久しぶり!」と言った。

「あ、シオリ! 久しぶり!」

 彩乃は彼女に気づくと、嬉しそうにそう言った。

 彼女は杉下栞里すぎしたしおりと言うらしい。彼女は彩乃の友達で、今日は彼女の料理を食べに来てくれたのだと言う。杉下さんは、早速空いているテーブルに座ると、メニューを見て、特製オムレツを頼んだ。それからすぐに彩乃はその特製オムレツを作った。

 それができると、早速、杉下さんはその特製オムレツを一口食べた。

「おいしい!」

 彼女は嬉しそうに言った。それから、彼女はおいしそうにそのオムレツを食べていた。

「いやー、しかし、まさか彩乃がこんなフランス料理店を開くなんてね」

 彼女はケラケラと笑って言った。

 確かにそうかもしれないなと晴斗は思った。

「全部彼のおかげだよ」

 彩乃が杉下さんのテーブルの近くにやって来て言った。

 晴斗は彼女にそう言われて、少し照れくさくなる。

「いや、羨ましい」

 杉下さんがニタニタと笑って言った。

 それから、彩乃は彼女と話をし、晴斗もそれを聞いていた。

「ねえ、栞里? どこかお勧めの県ってない?」

 突然、彩乃が杉下さんにそう訊いた。

「お勧めの県って? どうしたの急に? 旅行でも行くの?」

 いきなりお勧めの県を聞いて、彼女が困るのも当然だ。それに、そう訊かれると、どこか旅行にでも行くのかと思うのも無理もないなと晴斗は思った。

「いや、違くって。おいしい料理がある県ってどこか知らない?」

 それから、彩乃がそう訊くと、「北海道とか?」と、彼女が答えた。

「それから、沖縄とか、京都とかかな?」

「それ以外は?」

 彩乃がそう言うので、「それ以外か……。」と彼女が言って、考え始めた。

「群馬は?」

 その後、彼女がそう口を開いた。

「群馬?」

「うん、うちの地元なんだけど、群馬もおいしいものいっぱいあるよ」

 それから、彼女がそう言って、にこりと笑った。

「へー、そうなんだ。そう言えば、地元って群馬だったんだね」

彩乃がそう言うと、「うん、そうだよ」と、杉下さんは笑った。

「そっか」

「それで、群馬って何が美味しいの?」

 それから今度、晴斗がそう杉下さんに訊いてみた。

「ええっと……。」

 そう言って、彼女が考える。それから、「こんにゃくとかごぼうとか、水沢うどんとか、後、おっきりこみですね」と、彼女が嬉しそうに話した。

「ほうほう」と、晴斗は相槌を打つ。

「あ、後、焼きまんじゅうも美味しいです!」

「焼きまんじゅう?」

「そうです。あ、焼きまんじゅうって言うのは、蒸したお饅頭に、砂糖とか水飴が入った味噌だれをつけて、それを焼くんです」

「へー、おいしそう」と、彩乃が感嘆を上げた。

 なんだかおいしそうだなと晴斗も思った。

「群馬料理か……。」

 晴斗がそう呟くと、「アリだね」と、彩乃がにやりと笑って言った。

「二人とも、それがどうかしたの?」

 その後、杉下さんは晴斗たちの様子を窺い、そう訊いた。

「ああ」と晴斗は言い、「実はね」と、口を開いた。それから、晴斗は彼女に、最近二人で様々な日本の県の料理を食べ周っていることを話した。

 すると、「なんだ、そう言うことか」と、彼女は納得したように言った。

「今度は、日本か」

「そうなの」

「でも、スケールは小さいね」

 彼女はそう言って笑った。

「うん、まあそうだけどね。もう世界は制覇しちゃったもんだから」

 彩乃がそう言うと、「もう世界征服しちゃったんだ!」と、彼女が驚いた。

「それはすごいね」

「えへへ」と、彩乃が笑った。

「でも、いいなあ。彩乃、楽しそうで」

 ふと、杉下さんがそう言った。

「私だって、栞里のこと羨ましいと思うよ。だって、もうママなんだもん」

 それから、彩乃は彼女のベビーカーを見た。晴斗もそちらに目をやった。そこに、一歳か二歳くらいの男の子が眠っていた。

 晴斗がその子の名前を訊くと、杉下さんはかけると言った。歳は今一才六カ月らしい。

 それから、晴斗たちは杉下さんの子育て奮闘記の話を聞いて笑っていた。

 その後、眠っていたその男の子が起き、泣き始めたので、杉下さんは急いでその子を泣き止ませた。少しして、その子が泣き止んだ。その後、彼女が腕時計をちらりと見た。

「あ、もうこんな時間」

 晴斗も店の時計を見た。午後二時を過ぎた頃だった。

「彩乃、あたし、そろそろお暇するね」

 それから彼女はそう言って、席を立った。ベビーカーを押し、レジまで向かう。彼女は会計を済ませると、「ごちそうさま。じゃあまたね」と、晴斗や彩乃に言って手を振り、そのお店から出て行った。

「行っちゃったね」

 杉下さんが出て行った後、彩乃が寂しそうに言った。

「うん」と晴斗が頷くと、「でも、いい話が聞けたね」と、彼女が笑顔で言った。

「群馬だってね」

「ね! 次は群馬県にしよう」


 翌週の月曜日。

夜六時半頃、晴斗たちは白金高輪駅にやって来ていた。そこから三分程歩いた所に、群馬料理のお店があった。

その店に入ってすぐに若い男性の店員に案内され、奥のテーブルに二人は座った。早速、二人はメニューを開き、何を注文するかを決める。

その時、晴斗は杉下さんが話していたことを思い出す。こんにゃくやごぼう、水沢うどんやおっきりこみなどと彼女は言っていた。

メニューに下仁田しもにたの刺身こんにゃくとおっきりこみうどんがあったので、二人はそれを頼むことにした。

晴斗は店員を呼び、その二つを注文する。ついでに、オランダコロッケと上州じょうしゅう豚のスペアリブと生ビールを二つ注文した。

すぐに生ビールがやって来たので、二人は乾杯する。

「はー、うまい」

 晴斗はビールを飲んで息を吐いた。

「うん、おいしい」と、彼女も言った。

 それから少しして、刺身こんにゃくがやって来た。

「こちらのたれは、酢味噌になります」

 店員がそう言って、酢味噌の入ったお皿を二人の前に置いた。

「どうぞごゆっくりお召し上がりください」

 それから、店員はそう言って、その場を立ち去った。

「へー、これが刺身こんにゃくか」

 彼女がそう言って、その刺身こんにゃくを珍しそうに見た。

「食べたことない?」

晴斗が訊くと、「ないの」と、彼女は言った。

「俺は一回あるよ」

「そうなんだ。おいしいの?」

「食べてみれば分かるよ」

 晴斗はそう言って、にやりと笑った。

「うん。いただきます」

 彼女はそう言って、その刺身こんにゃくを箸で取り、手前にある酢味噌に付けてそれを食べた。

「あ、さっぱりしてて美味しい!」

 それから、彼女が目を丸くして言った。

「でしょ?」

「うん、この酢味噌とも合う」と、彼女は嬉しそうに言った。

 晴斗もその刺身こんにゃくを一つ、酢味噌に付けて食べてみる。口に入れると、そのこんにゃくはつるりとしていて、噛むと弾力があって面白い。

「うん、うまい」

 晴斗は思わず笑顔になった。

それからしばらくして、オランダコロッケがやって来た。晴斗はメニューを見て、そのコロッケが高崎名物とあったので、頼んでみることにしたのだった。

そのコロッケは揚げたてのようで、湯気が立ち、いい匂いがした。

「おいしそう!」

 彩乃が声を上げて言った。

「だね。うまそう」

「じゃあ、お先に」

 彼女はそう言って、そのコロッケを取り皿に移した。それを半分に割った。

「あ、チーズだ!」

そのコロッケの中からチーズが伸びて出て来た。

「おー、本当だ。オランダコロッケって、中にチーズが入っているんだね」

 晴斗もその意外な中身に驚いた。

 それから、彼女がそのチーズ入りのコロッケの半分を食べた。

「うーん、メッチャ美味しい!」

 彼女は目を大きく見開き、嬉しそうに笑って言った。

「本当に?」

「うん、もうヤバい!」

 それから、彼女がそう言ったので、晴斗もそのオランダコロッケをそのまま一口がぶりと食べた。いつものコロッケの味だけでなく、チーズの味が濃厚であった。それと、ハーブのような味も口の中に広がった。とても美味であった。

「うまっ! 何これ!」

 晴斗も思わずそう言った。

「でしょ?」

「コロッケとチーズって意外と合うんだね」

「ね。知らなかったね」

「うん。知らなかった」

 そう言って、二人はもう一口食べて、そのおいしさに思わず笑い合った。

 それからややあって、店員がスペアリブとおっきりこみうどんを持って来た。どちらも美味しそうである。

 すぐに彩乃が深皿にそのおっきりこみうどんをよそい、晴斗に渡した。その後、彼女は深皿に自分の分もすくった。

 それから、彼女はそのおっきりこみうどんを一口啜すすった。けれど、幅広のそのうどんが啜り切れず、とうとう噛み切ってしまう。

「このうどん、大きいね。でかくて啜れないよ」

「本当だね」

 晴斗もそれを啜ったが、麺の幅が広いので啜り切れないでいた。

「このうどん、地元の人はどうやって食べてるんだろうね?」

 そんな疑問を晴斗が口にすると、「さすがにラーメンとかそばみたいに啜らないんじゃないの?」と、彼女が言った。

 確かにそうかもしれないなと晴斗は思った。

「ちゃんとごぼうも入ってるんだね」

 その後、鍋の具材のごぼうを見つけた彼女がそう言った。

「本当だね」

 晴斗も自分のよそってもらった所から、ごぼうを見つけた。それから、彼女がごぼうを食べたので、晴斗も自分のごぼうを食べた。そのごぼうもシャキシャキとしていて美味しかった。

 その後、スペアリブも食べた。スペアリブは甘辛いタレが絡んでいた。かじると、そのスペアリブは柔らかくホロホロとしていた。それに、豚の脂がジューシーで病みつきになるようだった。スペアリブを食べながら、彼女がビールを飲んだ。晴斗も、そのスペアリブを食べて、ビールを一気に飲んだ。

「はあ、うまい」

 その後も、二人は刺身こんにゃくやスペアリブ、それから、おっきりこみうどんを食べた。

 ひとしきり食べ終えた後で、今回のデザートタイムが始まった。

「焼きまんじゅうがおいしいって言ってたよね?」

 彩乃が杉下さんの言葉を思い出して言った。

「そうだね」

 晴斗が頷くと、「すみません」と、彼女が店員を呼んだ。

「焼きまんじゅうを二つ」

 それからしばらくして、焼きまんじゅうが届いた。

「おいしそう」

 その焼きまんじゅうは、一本に餅が二つ付いたものだった。焼きたてだからか、味噌の香りや水飴の甘い匂いがした。

「ね。いい匂い」

「うん、いただきます」

 彼女はそう言って、その焼きまんじゅうを一口頬張った。

「うーん、おいしい」

 彼女は笑顔でそう言った。

 晴斗もそれを一口食べてみる。外はカリッとしていて、中がふわっとした食感だった。そして、その味噌と水飴や砂糖で出来たそのタレが、なんとも甘じょっぱかった。

「本当だ。この味噌ダレがいいね」

「うん、病みつきになりそう」

「そうだね」

 その後も、二人はその焼きまんじゅうを堪能していた。

 彩乃が腕時計をちらりと見た。

「もう八時半か」

 彼女がそう言った。晴斗はもうそんな時間かと思った。

「そろそろ、帰る?」

 晴斗が彼女にそう訊くと、「うん。そうしよう」と彼女が言った。

「はー、お腹いっぱい」

「俺も。行こっか」

「うん」

 会計を済ませて、二人はその店を出た。駅まで歩き、二人はホームで電車を待った。

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