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次は、どの県を食べようか?  作者: 落川翔太
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3.秋田県

3.秋田県


 それから一週間後の月曜日である。

 正午を過ぎた頃、晴斗たちは自宅でお昼ご飯にラーメンを食べていた。

 ちょうどその時、テレビではいつもの料理の番組がやっていた。その日のテーマは秋田料理であった。

「秋田か……。」

 晴斗がそう呟くと、「美味しそうね」と、彩乃が言った。

 それから、「あ」と、彼女が声を上げた。

「次、秋田料理なんてどうかしら?」

 彼女がそう言った。

 秋田料理。いいだろうと晴斗は思った。

「いいと思う」

 晴斗が言うと、「じゃあ、そうしましょう」と、彼女が笑った。

 昼ご飯を食べ終えた後、晴斗は秋田料理の店がどこにあるかを調べた。どうやら銀座にあるという。夜はそこへ行ってみようと、晴斗は思った。

 そして、夜六時。晴斗たちは自宅を出て、電車で銀座まで向かった。銀座駅から五分程歩いた所に、そのお店があった。早速、二人は中へ入る。

 若い男性の店員に案内され、二人は店の奥の席へ座った。早速、二人はメニューを見た。

メニューには、きりたんぽやハタハタ、いぶりがっこ、比内地鶏の料理や横手焼きそばなど様々な秋田の郷土料理が並び、どれも美味しそうである。それから、ドリンクメニューも秋田の地ビールや日本酒なども豊富であった。

 晴斗はどれを注文するか迷った。どれも美味しそうだからである。メニューを見ながら、二人でどれにするか考える。

しばらくしてそれを決めた後、「すみません」と、晴斗は店員を呼んだ。すぐに先ほどの若い男性店員がやって来た。

「はい、お伺いします」

「きりたんぽ鍋を一つと、比内地鶏のつくねを一つ。それから、ぶりこハタハタの三五八さごはち焼きを二つといぶりがっこを一つ。後、地ビールを二つお願いします」

 晴斗がそう言うと、その店員は注文を繰り返した。それから、「以上でお間違えないでしょうか」と、彼は言った。

「はい、大丈夫です」

 晴斗は言った。

「かしこまりました。失礼いたします」

 その店員はそう言って、その場を去った。

「ねえ、このハタハタの三五八って何のことだろう?」

 それから、彩乃が晴斗にそう訊いた。

 確かにと晴斗も思った。晴斗もそれがよく分からなかったので、店員に訊いてみることにした。

「すみません!」と、晴斗が店員を呼ぶと、「はい? どうかしました?」と、先ほどとは違う別の男性店員が二人の所にやって来た。

「お聞きしたいんですけど、このぶりこハタハタ焼きの『三五八』って何なんですか?」

 晴斗がそう訊くと、「ああ、それは」と、その店員が口を開いた。

「その料理はハタハタを塩と米麹こめこうじと米で漬けていて、その割合が塩が三割、米麹が五割で、米が八割ということなんですよ」

 その店員は笑顔でそう答えた。

「なるほど。そういうことですか!」

 晴斗は納得して言った。彼女も納得したように頷いた。

「美味しいですよ。ぜひ食べてみて下さい」

 それから、彼はそう言った。

「はい」と、晴斗が返事をした後、「あ、そう言えば」と、彼女が口を開いた。「お米で漬けるって珍しいですね」

彼女の言葉に、「ああ、確かにそうですね」と、その店員は言った。「秋田は米どころなので、米麹やモチ米を使った漬物とかも多いですし、日本酒なんかも多いですね」

「なるほど。そうなんですね」

「はい」

「すみません。お忙しいところ……。」

 彼女がそう言うと、彼はにこりと笑って立ち去った。

 それからしばらくして、地ビールの瓶が二つ届いた。

「じゃあ、乾杯」

 晴斗はそう言って、持っている瓶を彩乃のそれと合わせるようにして、瓶を鳴らした。そして、二人は一気にその地ビールを瓶のまま飲んだ。その地ビールは、意外にもすっきりしていて飲みやすかった。

 それから、少ししていぶりがっこがやって来た。

「おいしそう!」

 彩乃が嬉しそうに言った。

「だね」

「じゃあ、いただきます」

 彼女がそう言って、手を合わせた。晴斗も「いただきます」と言って、手を合わせる。

 早速、彼女が箸でそれを一枚掴んで口へ運んだ。彼女の口からシャキシャキと音がする。

 今日の昼の番組で、その「いぶりがっこ」が紹介されていた。いぶりがっことは、大根をならや桜の木で燻製や乾燥をさせて作られた漬物のことらしい。「がっこ」というのが秋田弁で「漬物」を意味するのだと言っていたのを晴斗は思い出した。

 それから、晴斗もそのいぶりがっこを一つ食べてみる。大根のシャキシャキとした食感とスモークされた味わいが口の中に広がった。すぐにビールが飲みたくなり、晴斗は地ビールを一口飲んだ。

「はあ、うまい」

「ね。これはビールに合うね」

 そう言って、彼女もビールを一口飲んだ。

「お待たせしました」

 その後、つくねとハタハタの三五八焼きがやって来た。

 つくねのいい匂いと、ハタハタの焼き魚の独特な香りがした。

「うまそう」

「ホントだね。じゃあ、私はつくねから」

 彼女がそう言って、つくねを一本取り、それを一口食べた。

「うん、おいしい!」

 彼女は目を輝かせて言った。

「本当? じゃあ、俺も」

 そう言って、晴斗もそのつくねを口へ頬張ほおばる。そのつくねは肉の塩味と絡んでいる甘いたれがちょうどよかった。

「うん、うまいね。このつくね」

「ね? これ、生卵につけても美味しいみたい」

 そう言って、彼女は今度、別皿の卵を溶き、残りのつくねにそれを絡めて食べた。

「うん、マイルドになって美味しい」

 それから、彼女は笑顔でそう言った。

 その後、晴斗も別皿の卵を溶いて、自分も同じようにして食べた。確かに卵がそのつくねに絡むことで、マイルドな味わいになった。

 そして今度、二人は「ぶりこハタハタの三五八焼き」を食べてみる。因みに、ぶりことはハタハタの卵であるらしい。噛むと、ブリブリという音がするほど歯ごたえがあるという。

 早速、晴斗はそのハタハタを食べてみる。噛むと、本当に「ブリブリ」と音がした。そのハタハタはジューシーで、ぶりこの音も面白く病みつきになるなと晴斗は思った。それから、先程の店員が言っていたように、塩や米麹、それから、米で漬けたような独特の匂いや味もした。

 それから、地ビールの瓶が空になり、晴斗は秋田の地酒である日本酒を頼んだ。彼女も日本酒を頼む。

 それからすぐにその日本酒がやって来た。晴斗はその日本酒を一口飲む。すっきりとした辛さで飲みやすかった。彼女も一口飲んだ。

「うん、飲みやすい」と、彼女も言った。

「お待たせしました。きりたんぽ鍋です」

 店員がそう言って、晴斗たちの目の前にきりたんぽ鍋を置いた。鍋はぐつぐつになっていて、いい匂いがした。

「わあ、おいしそう!」

 彼女がその鍋を見て、嬉しそうに言った。

「うまそうだね」

確かに美味しそうだなと晴斗も思った。

 彼女は晴斗の深皿に鍋をよそった。

「はい、あなた」と、彼女が晴斗にそれを手渡した。「どうも」と言って、晴斗はそれを受け取る。そして、彼女も自分の器に食べる分だけの量を盛った。

 彼女はよそい終わると、「いただきます」と言ってふうふうときりたんぽを冷ましてから一口食べた。

「熱っ」

 やけどしそうになりながら、彼女はそれを食べた。

「うーん、おいしい」

 それから、彼女は晴斗の方を見て微笑んだ。

 晴斗も、よそってもらったそのきりたんぽをふうふうして一口食べる。

「うん、うまい!」

 きりたんぽは美味かった。

 その後も、二人はきりたんぽ鍋やいぶりがっこ、ハタハタなどを食べながら、日本酒を嗜んだ。鍋の〆に、稲庭いなにわうどんも食べた。

 一通り食べ終わってから、デザートでも食べようと言うことになり、メニューを見て彼女が「ババヘラアイスでも食べない?」と言った。

 そういや、その番組で「ババヘラアイス」の紹介もしていたのを晴斗は思い出した。いいだろうと晴斗は思い、二人でそれを食べることにした。

 少しして、そのデザートが届いた。そのアイスはバラの形をしていた。

「ババヘラって面白い名前だよね」

 彼女がそのアイスを一口食べながら言った。

「おばさんたちがヘラを使ってコーンにアイスを盛ったんでしょ?」

 晴斗はその番組で観たことを思い出しながら、そう言った。

「そうそう。うん、美味しいね。このアイス」

 晴斗も一口食べる。味はいたって普通のバナナといちご味のシャーベットアイスであった。

「うん」

「一度でいいから、そのババヘラアイスは行って食べてみたいかも」

 それから、彼女がそう言った。

 確かにババヘラアイスを売るババたちには会ってみたいなと晴斗は思った。

「おいしかったね」

「うん、秋田料理もアリだね!」

 彼女が笑って言った。

 デザートを食べ終え、時計を見ると、午後八時半を回っていた。晴斗たちはそろそろ帰ることにした。会計を済ませて、二人はその店を出る。それから、電車に乗って、自宅まで帰った。


 深夜十二時を過ぎた頃、晴斗はベッドで寝転がっていた。

「ねえ、あなたまだ起きてる?」

 それから、寝室に彩乃がやって来てそう言った。

「起きてるけど?」

「なら良かった。よいしょ」

 彼女はそう言ってベッドへ入り、晴斗の隣に来た。

「どうしたの?」

「今日は一緒に寝たいなと思って」

 それから、彼女がそう言った。

「一緒に寝ようって、いつも一緒に寝ているじゃないか」

「寝てるけど、今日はそうじゃなくて……ほら」

 彼女が甘えているのが晴斗には分かった。なるほど、どうやら今日は甘えたい日のようである。彼女は時々こうして晴斗に甘えてくるのだった。

「分かった分かった」

 晴斗はそう言って、彼女をゆっくりと抱きしめた。彼女の髪からシャンプーのいい匂いがした。

「ねえ、キスして」

 それから、彼女がそう言った。

 キスか。晴斗は彼女の顔を見つめた。それから、晴斗も彼女のその可愛らしい顔を見て、キスがしたくなった。

「いいよ」

 晴斗はそう言い、彼女の唇にキスをした。

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