20.7.日常とはまた別の日常4(間話3)
「失礼しました。近衛騎士団『灰』の副隊長を務めているオラヴィと申します。今日は訳あって『赤』の護衛代理ですが。続きは私からご説明します」
正直なところ、アマリアはかなり驚いた。
普通、近衛騎士団それぞれの職分は侵さないのがルールだ。代理ならば同じ『赤』の者が務めるのが普通だろう。アマリアの知らない間に常識が変わってきているのだろうか。
オラヴィはアマリアの疑問が分かったのか、にっこりとしたが、特にそのことに言及はしないようだ。
「昨日の話はご存じのとおりですが、いなかった者たちが納得せずに『使い手』殿の力量を図りたがったのです……」
──やっぱりそうなのね。ぽっと出の聖剣の『使い手』なんて胡散臭いでしょうしねぇ。
アマリアは、しょうがないわよねと納得していたが、ルーカスクローは胡散臭いものを見る表情を変えない。
「……というのは建前でして、納得しないフリをして、皆がかの方の弟子と噂になっている『使い手』殿との一戦を希望したのです」
──ん?
「しかし、『使い手』殿の学園入りは既に決定事項。今更選考差戻しなどできません。ましてや王太合陛下がすでにお認めになった決定事項ですので。そして王太合陛下御自身にもどうすることもできません。決定が揺らぐような態度はとれませんから」
とても常識的な話をしているはずなのに、直前のセリフが邪魔をしてどんどん胡散臭い気配を濃くしていくのは気のせいだろうか。
「ですから我が王太合陛下は『青』の隊長と『灰』の副隊長である私に、この件の解決を丸投げなさいました。志願者と見学希望者が多くて大変だったのですよ?私などはこのとおり、護衛代理を務める羽目になりましたし。『使い手』殿が最後に戦われた相手は我が国が誇る『藍の老元帥』ことアウグスト殿です。ご存じで?」
『藍の老元帥』アウグストは、『青』の隊長、近衛騎士団の団長を経て、騎士団全軍の総団長になった男だ。隣国の『聖剣クロー』とも渡り合ったことがある者として知られており、『青』のころより着用している藍色のマントから、引退した後に敬意をこめて『藍の老元帥』と呼ばれるようになった。
──ご存じも何も!人伝手にはめちゃくちゃ知ってるけどよ!?
聖剣クローはマルク少年に、最初こそ騎士としての剣術を教えていたが、後半は冒険者としてやっていける剣術を教えてくれた。
その時に言っていたのだ。今後騎士を志すことがあるのならば、隣国のアウグスト将軍のようなタイプの剣術を参考にした方がいい、と。
それはともかく。
そしてルーカスクローの正体が事実上バレているかもしれないことも、ともかくとして。
聖剣クローは20年も前から行方が分からなくなっている伝説の人、というのが現在の定説だ。うっかりしたことを言うわけにはいかない。
「一線を退いても衰えを見せないとは、さすがヴァロルの『藍の老元帥』。どうりで」
対アウグスト戦。
最初は、重量級の魔獣を相手にするかのような戦いが展開された。藍の老元帥は、持ち前の体格のとおり、それを生かした戦闘スタイルだった。
だが、途中から変わった。
そこからは『負けない闘い』を強いられる一戦となった。大半の者には勝負がつかなかったように見えたようだが、見る者が見れば防戦一方にも見えたかもしれない。
──まだまだ、上には上がいる。1年ここに残ってガキんちょの相手をすると決まったときにはどうなるかと思ったが……
楽しみが増えたな、とルーカスクローはにやりとした。
アマリアが、ルーカスの師匠は有名人なの?と聞いてきたが、さあな、と素知らぬフリだ。
それにしても、とセラフィーナは後ろを軽く見上げて言う。
「丸投げとはひどい言いがかりだわね。やる気のある者に任せたのよ。適材適所でしょう?」
「ええ。我が王太合陛下はいつもそうやって楽しい仕事を私たちに任せて下さる。感謝に耐えません」
冗談なのか本気なのか、オラヴィは冗談めかした顔で慇懃無礼なお辞儀をしている。
二人とも、「ふふふ」「おほほ」と、不思議な空気で笑っている。
どうも、セラフィーナの周囲は、アマリアが知っている王族と側近のような関係とはちょっと毛色が違うようだ。
クラウスと「戦友」だと言っていたことも、何か腑に落ちるような気持ちだった。
「騎士団のやんちゃのお話はそういう訳よ。でもお二人にここに来てもらった理由は別にあります」
セラフィーナは、こほんと改まったように会話を変えた。
いつの間にか、お茶の世話をしてくれていた侍女が全ていなくなっている。
一瞬、ぴりっとした緊張感が漂う。
──え?なに?何かあった……?いえ、何かした、かしら?
何か怒られるような錯覚を感じたが、目の前のセラフィーナから感じるのは怒り、ではないような気がする。興味や好奇心、とも違う。何かはわからないが、ともかく感じるのは強烈な『圧』だ。
「あなたたち────」
『圧』
ひたすら『圧』が押し寄せる。
アマリアは悲鳴をあげないようにするので精一杯だった。
「────付き合ってるのかしら?」
「へ?」
「は、恥ずかしかったぁ!」
セラフィーナとの会談は、誤解をなんとか解いて終了した。
セラフィーナや騎士たちに誤解されていただけではなく、自分たちの中でも誤解があったことが分かり、それはそれで助かったのだが、恥ずかしくてしょうがないという結果になった。
何かというと、街歩きをしたときに、どうやら騎士の一人に腕を組んで歩いているとこを見られていたようなのだ。
そして、誤解を解く会話の際に、セラフィーナに言われたことが、もう一つの誤解を知るきっかけとなった。
「念話の逸話は記録に残されています……が、そこまで接触している必要はなかったはず。違いますか、聖剣様?」
「え?…………デュー君?」
そうなの?と気持ちを抑えて聞いてみる。正直アマリアにとっては、今までなんで黙っていたのかと怒りが湧きそうだ。
「念話は、そうだね、服が接していればできるんじゃないかな」
──なんですってぇ!
口に出すのは抑えたがアマリアがそう非難してもしょうがない状況だったはずだ。
「いや、お前、あの時こうするしかないって言ってたよな?」
さすがにルーカスクローも抗議する。
王太合に、『聖剣に手を出す男』というレッテルを貼られるところだったのだ。文句の一つも言いたいだろう。
「それはそうでしょ?男女で街に出たら腕組んでないと不自然でしょ?」
「んん??」
「って、先代の周りのみんなが言ってたよ」
「はぁぁぁ!?」
デューン説明を聞いても良く分からなかったので、おそらくだが、先代の頃に街中で「男女が街を歩くなら腕を組んでて当たり前」のような会話を、たまたま、断片的に、聞いてしまったようだ。
当時の聖剣の『使い手』の周辺状況といえば最前線だったはずだ。いるのはほとんどが傭兵のたぐい。デューンの話にある街が形成されていたとしても、他にいるのはせいぜい商売人、娼婦。この状況で常識が培われるはずもなく。
「デュー君とは普通に話せていたから油断したわ。もっとちゃんと会話しないとだめね」
「……俺は危うく生きたまま殺されるところだった……」
ルーカスクローは、『圧』が相当ダメージだったらしく、未だにおびえている。
アマリアにはさっぱり違いが分からないが、剣士などが放つ殺気とも全然毛色の違う、とにかく相容れない何からしい。
「まあまあ、気を取り直してちょっと訓練でもしていきましょう?さっきの話聞いてたら少し体を動かしたくなっちゃった」
訓練所に特に予約なく行くときは、基本的に自主練になるから気も楽だろう。
そう思って足取り軽く訓練所へ向かう。
そんなアマリアが、筋肉痛で苦しめられるのは、丸一日後の話だった。
『灰』のオラヴィ副隊長は、観戦もしくは参戦を希望した『赤』と『青』のために、護衛代理を引き受けました。ちらっと嫌味言ってましたね(笑)
一章の後ろの間話はこれにて終わりです。続きません。ご安心を。
間話のせいで二章が若干?後ろ倒しになっている感は否めませんが……げふんごふん(吐血)
ちゃんと(夢の中で)進めてますのでゆるゆるとお待ちください。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます!
いいね&ブックマークもありがとうございます。
ただいま二章(作者の)応援キャンペーン実施中!(注:なにもありません)
いいね&評価など、ぽちっといただけたら作者にガソリンと灯油と軽油が充填されます(危険)
二章開始まで、ゆーっくりとお待ちください。
今後ともよろしくお願いします。




