20.5.日常とはまた別の日常3(間話2)
──王宮──
1年間の王都滞在と学園潜入が決まって、その翌日。
アマリアはセラフィーナから、ルーカスクローは騎士団から呼び出しを受けていた。
正しくは二人ともセラフィーナからお茶の招待を受けていたが、ルーカスクローだけ先に騎士団に顔を出すように言われたのだ。
「本日はお招きいただきありがとうございます。王太合陛下」
「ようこそ。アマリア様。どうぞわたくしのことはセラフィーナとお呼びくださいな」
「はい…………ありがとうございます。セラフィーナ様」
セラフィーナがお茶を勧めたあと、お茶を味わいながらも少しの沈黙がながれる。
──そういえばちゃんとお話しするのは、初めてだわ。
前回は、途中どころか、挨拶の直前で、聖剣であるデューンに割り込まれてしまっていた。今回はルーカスクローが来るまでは二人で話をさせてくれるようお願いしてあるから大丈夫だと思うが、前回はまだデューンが表に出ている状態ではアマリアは話すことができなかったのだ。そう思うと、一気に緊張に襲われる。
「ふふ。こうしてお話するのは初めてですね。どうぞ気楽になさってください」
セラフィーナの方から、気遣う言葉がかけられた。元はアマリアの方が年上とはいえ、やはり皇后として王を支えてきた女性である。アマリアにはない人間の深みを感じる。
「先日、聖剣様が、『使い手』がいない頃のことは分からない、と仰いました。アマリア様は、聖廟に祭られていたときの記憶は、あるのかしら?」
聖廟────それはクラウス王が毎日訪問していた、聖剣を安置していた廟。
アマリアが、長い長い、クラウスの後悔を聞いた場所。
「……はい」
クラウス王の訃報を知らせに来た時のセラフィーナを思い出す。誤解を解きたかったが、セラフィーナに欠ける言葉が見つからない。
セラフィーナは、ほんの少し困ったような顔をした。
「本当に、貴女に聞かれているとは思っていなかったから、余計な事を言ってしまったようね。わたくしとクラウス王の関係は、たぶん……貴女が思っているような関係ではないのよ」
セラフィーナが婚約候補としてクラウス王と会ったのは、アマリアが亡くなってから10年もしてからだった。
アマリアの死後、一切婚約者を決めなかった当時王太子のクラウスは、セラフィーナと会う2年前に初めて婚約候補を設けたが、そのすぐあと王が亡くなり、クラウスは王位を継承した。
その後、婚約候補者は変わり続け、一向に定まることがない。
あまり結婚に興味がない21歳のセラフィーナに婚約候補の話が舞い込んできたのは、そういった事情だった。
父親から、アマリア嬢という元婚約者のことと、その死が尾を引いているということは聞いていた。だが、長く連れ添えば情も移るだろうから、と父親に説得され、なんとか顔合わせまでこぎつけた。
だが、会ってみて、婚約候補者がなかなか定まらなかった理由は、分かった。
クラウス王の、決して何者にも触れさせないところにある、深い闇。
気づいてしまえば、隣に在ることは耐え難いだろう。
────殉教者
父が言うような、いずれ情が自分に移るかもしれない可能性は、すでに捨てていた。
過去の婚約候補者たちと同じように、早くこの件から手を引くべきだ、そう思った。
だが、自身の状況を理解し、誠実にこちらに選択を任せてくれる王、自身の傷を顧みない王から目を離すことができなかった。
「忘れたくない方を無理に忘れる必要はございません。ですが、もし許されるのであれば、わたくしを王の補佐として生涯共に歩むことをお許しいただけますか……?」
幾度目かの顔合わせを経て、結局、情が移ったのはセラフィーナの方だった。
セラフィーナは、この殉教者と共に国に殉ずることを選んだ。
だがそれは決してクラウスと同じではない。自らそうあろうと選んだ道だった。
「クラウス王とわたくしは、国に殉じて生きる戦友のようなものでした。女性が官僚にはなれなかったこの国で、王の補佐という役職はわたくしにも都合がよかった。これでもクラウス王には結構感謝しているのですよ?」
「そう、ですか……」
不遇な立場の王妃として王を恨んだりしたことはない、セラフィーナはそう言った。
アマリアは、話に慰められていた。セラフィーナが自身で納得できる人生を歩めていることが嬉しかった。
しかし、それと同時に、話の途中、本題ではないところに驚愕していた。
──クラウスってば、セラフィーナ様にプロポーズの言葉を言わせちゃったの!?今の話ってそういうことよね?あああ、元をたどれば私のせいとはいえ、セラフィーナ様にあまりにも申し訳ない……。というかセラフィーナ様ってそのころから印象に反して男前だったのね……
自分が謝るのは違うということは分かっているので、つい黙ってしまう。
そのあと、セラフィーナはこの話を切り上げ、アマリアの生活の心配などいろいろと気を使ってくれるのだった。
「来たわね、ルーカスクロー」
「どうも、っていうか何なんすか、あれ」
「昨日、あなた方が来た時に居合わせなかった者たちが、どうしても、と言うのでね?部下の要望もたまには聞いてあげないとストレスを溜めてしまうでしょう?」
「俺は王宮おかかえのストレス発散魔道具じゃないんですけど?」
コロコロと笑う王太合に、精一杯の嫌味を返すルーカスクロー。
先に騎士団の訓練所に顔を出すように言われていたようだったが、何かあったのだろうか?と顔を向けた。
「訓練所について早々、獲物の木剣をこっちに放り投げられて、いきなり襲い掛かられた」
「えっ!?」
「それも複数人数一斉に」
「ええっ!?」
「あらあら、楽しそうねぇ」
この古狸め、と思っているルーカスクローを、アマリアには聞こえないようにデューンはくすくすと笑っている。
「しかもそのあと、重魔獣みたいなじじいと真剣勝負させられるし。何なんだよ一体」
「あら?真剣勝負は一人だったかしら?重量級で白髪の?」
「他にもいたのかよ……。その一人だけだったぜ」
──あら、では『青』のクスター隊長は譲ったのね。今日のところは。
頭の中で怪しいことを考えつつも、セラフィーナは種明かしをしてくれた。
「ほら、昨日、急遽あなた方の学園行きがきまったでしょう?アマリア様の入学は学園長権限で良いのだけれど、剣術指南の教員は騎士団にも人選の発言権があるのよ。昨日は最短で決定してしまったけど、居合わせなかった騎士団の上の人たちが納得しなくてね?」
「こぉんの、く…………俺達がアマリアの訓練の相談を騎士団にしてから、話が決まるまでおおよそ2時間足らず。いくら何でも早すぎだろ。王太合様ってのは、もっと後ろに構えて、下の者に仕事任せた方がいいんじゃないんですかねぇ」
「あら。聖剣に関する全権はわたくしにあるのよ?こんな200年スパンの、おもし……イレギュラーな案件、他に任せられるはずがないでしょう?」
──やっぱり面白がってやがった!
ルーカスクローは、全権の所在を初めて聞かされて、絶望的な顔になった。
どう聞いても「このおもちゃの権利はわたくしにあります」としか聞こえない。
「心配されなくても、王太合陛下はちゃんと下の者に仕事を任せていますよ」
苦笑と共に、セラフィーナの後ろに控えている男から声が掛けられた。
普通、貴人の護衛はこういった場では口を挟まないものだが、セラフィーナの顔色は変わらない。それが許されている立場の者なのだろう。
「失礼しました。近衛騎士団『灰』の副隊長を務めているオラヴィと申します。今日は訳あって『赤』の護衛代理ですが。続きは私からご説明します」
ルーカス「違う、そうじゃない!」
アマリア「ボケツッコミに、マジレスする強者が現れたわ!?」
デューン「あれ?少し魔力ある?」
三者三様の、対オラヴィの感想でした。
すみません。間話、終りませんでした。
ゆるゆる続きます。




