20.3.日常とはまた別の日常2(間話1)
本編には流れ的に入れられなかったのですが、一章と二章の間に入れておきたかったお話です。
もう一つありますが、合体だと長くなりそうなので分けました。
一章の箸休めか、二章の前菜か。
どうぞゆるりとお楽しみください。
「いっっ、つあ……ぅ……ぃたぁい」
学園へ行くのが決まってから、翌々日の夜。
アマリアは、激しい筋肉痛に襲われていた。
あの日、学園に入ることが決まったあと、準備や訓練所通いがあるなら城に部屋を用意すると言われたが、1週間後には学園の寮と宿舎へ入ることが決まったため、丁重にお断りして宿の滞在をさらに1週間伸ばしていた。
「辛そうだな、てか、先は遠そうだな」
言いながらルーカスクローは他人事のように笑っている。
昨日は夕方に少し訓練、というかアマリアに関しては筋トレ特訓を受け、夜は普通に剣として就寝した。
翌朝、体はすっきり爽快。だから気づかなかったのだ。
今日は、午前に特訓し、午後は学園行きの準備のため服の採寸に行った。
夕飯の途中でうたた寝をしてしまい、気づくと筋肉痛だった。
これが治ればもうひとランク上の特訓もきっと!と思っていると、ふとデューンが言った。
「剣になってリセットしちゃうと、訓練の意味なくなるかも……」
「え?」
リセット。そういえば以前デューンは、聖剣に戻った後の人体がそうなると言っていた。
「もしかして、筋トレ損なの!?っっぅぅぅあたぁ」
息を吸うのも痛いのに、思わず全身に力が入ってしまった。最早、寝ても覚めても痛い。
「今の生活……毎日剣に戻る生活だと、そういうことになるかも?」
「そんな、殺生な。無意味なんてひどすぎるわ。いきなり訓練の挫折だなんて。もしかして剣術自体や魔術訓練も?!」
アマリアは、もう泣きそうだ。
この体ではやったこともないであろう、きつめの筋トレを頑張った上、こんな筋肉痛にまで苦しんでいるのに、それが全く意味をなさないなんて。
「あー。この前は分かってないことも多かったし、詳細な説明するには情報が足りなかったけど、少しわかってきたからちゃんと説明するよ」
デューンは、申し訳なさ半分、苦笑半分といった感じで説明してくれた。
「まず聖剣には、回復しようとする機能と現状を維持しようとする機能がある。ここまでは知ってるよね」
回復については毎日お世話になっているし、現状維持も、毎日人体と聖剣の体を行き来するアマリアにとっては日常となっている。といっても、ケガをしているわけでもないので実感は薄いが。
さらに、生活するようになって分かったことだが、剣になる直前の持ち物・服装は全て維持されることが分かった。
これにはルーカスクローが興奮して、色々大量の荷物を使って実験し始めたが、どうやらアマリアが「持っている」または「装備している」ことが大前提らしく、床に置いてある大荷物を抱えてみたが、持ち上げていないものについては範疇外ということが分かって、少しがっかり、と言うほどではないが、やっと興奮が落ち着いた。
「ルーカスが動けない時に逃げる足かせになるから、大荷物はやめよう?」
最後は、アマリアのちょっと怒気のはらんだ一言で実験はお開きになった。
ついでに「それとも旅に出る前に荷物を捨てさせたいのかしら?」と言われて、限度を超えた実験に付き合わせたことを平謝りしたのは言うまでもない。
デューンの説明は続く。
「だけど、レベルアップの為に『より良い変化を受け入れる』こともする。例えばアマリアの体術や筋力がアップすれば、次回からそれが基準になるという感じだね」
「それじゃあ……」
アマリアは、諦めかけていた希望にすがるように表情を明るくする。
「筋肉が付いてから剣に戻れば……」
「うん。でも筋力ってそんなにすぐ付くものかな?」
そうなのだ。
筋肉痛は筋肉が疲労したり傷ついたりしている状態のはず。であれば聖剣に『良い変化』判定されるのは難しいだろう。
「筋肉ってどのくらいで付くのかしら……あーもう。インターネットが欲しいわ」
「いんたーねっと?……って何?」
「んー。そうねぇ。この世のあることないことが、のべつ幕なしに記されている便利な沼ね!」
「え?それ、便利、なのか……?」
素直に聞いてくるデューンに、無責任に答えるアマリア、ルーカスクローはそのおかしな仕様に突っ込まざる得ない。頭にたくさん「?」を描きながら、また王宮の秘術か何かの話か?と勝手に解釈する始末だ。
「物語の話よ!まあ、ないものの話をしていてもしょうがないわ。よくわからないけど、筋肉をつけるなら最低一か月から半年は覚悟しないと無理かもしれないわ」
この世界からみたあちらの世界は十分ファンタジーだ、そう思って皮肉ってみたのだが、妙にしっくりきて少し可笑しかった。
アマリアが誰にも気づかれない言葉遊びを楽しんでいると、ルーカスクローが嬉しい提案をしてくれた。
「まあ、ずっとってのは無理があるかもしれないが、この1年は比較的平和な場所にいられるんだし、必要がない限りは人体のまま生活してパワーアップに励んだらいいんじゃないのか?」
学園の寮に入れば自動的にそうなりそうだしな、とルーカスクローは言う。
確かに、アマリアが聖剣であることを秘密にしている以上、寮内で剣に戻ることはできない。かえって好都合というわけだ。
「どうしても必要な時は剣に戻ってもらうが、まあ王都だし、魔獣や、ましてや魔人なんて伝説級な奴らはここまで来ないだろ?なら普通の剣で十分だ」
「ありがとう、ルーカス!私、頑張って筋肉付けるわね!……っっぁあ、いたーい」
ようやく特訓の希望が見いだせて思わず力んで自滅するアマリアに、「筋肉付ける」発言を若干複雑に思いつつも、さすがに気の毒になったのかルーカスクローが助け船を出すことにした。
「ひどそうだな。マッサージでもしてやろうか?軽めのやつ。マシになるぞ」
「ううう……お願い……します」
なんとか苦労のかいもあって、アマリアは翌日には歩けるくらい回復した。
ルーカスクローの行為が役得だったかどうかは本人のみぞ知るところだが、この日から6日間、一人床で丸まって寝るしかなくなったことだけは確かだった。
しかも布団を借りに言ったことで、宿のおかみさんには室内別居とか言われて揶揄われる羽目になったのは、また別の話だ。
気分的に"閑"話というより"間"話なので、そう記載しています。意味は一緒ですが、作者の中では意味深に違います。
もう1話、間話続きます。(まだ完成してないですが……)




