20.予定外という名の想定外?
話が決まってからの1週間は多忙を極めた。
何せ、学園の新学期は既に始まってひと月が経過していたのだ。
編入するにしても違和感がないよう、準備をしつつも早めに授業に参加しないと手遅れになってしまう。
言われるままに準備を進め、学園に行く前日になりようやく、詳細について話をする場が設けられた。
「アマリア様は、イソリンネ子爵の養女という身分を用意しました。帝国に留学していて帰国が遅れたことにします」
この国で、ただ「帝国」と言えばトゥイロア共和国の南東にあるプロストリア帝国を指す。
子爵位で帝国へ留学に出すのは珍しいことだったが、イソリンネ子爵は領地収入によらず、持ち前の商才により富を築いた富豪で、その子女を各国へ留学させることが多いことでも知られていた。
「『使い手』殿には、聖剣の騎士として一代貴族の男爵位が授与されます。『タハティ男爵』。それがあなたの貴族としての名前になります」
「かー。やっぱ、そうなるかぁ。俺には仮そめの身分とかないのか?」
いかに聖剣を所持している間の限定とはいえ、王宮の騎士となるのだ。ルーカスクローは爵位については覚悟していたようだった。ますます縛られるな、とブツクサこぼしていた。
「ございません。そのまま聖剣の『使い手』として学園の教員に就任していただきます」
「そこはオープンなんだな。分かった。腕が鳴るな!」
ルーカスクローは、学園の荒くれ学生が勝負を挑んでくるのではないかと期待しているようだった。
だが、学園に通う大半は貴族だ。期待に沿える荒くれものがいるかどうか疑わしいところだが。
「身分は、まあ、諦めるとして、就任の遅れはどう誤魔化すんだ?アマリアと一緒というのも、敵に疑いをかけられる要因になるかもしれない」
「それは問題ないでしょう。『使い手』となったこと自体がつい最近なのですから。『使い手』殿が王都を離れようとしているところを頼み込んで急遽就任していただくことになっています」
「頼み込んで……」
ルーカスクローが少し遠い目をする。
断れない依頼を「お願い」のように言われて釈然としないのだろう。
だが、契約上は断れるのだ。であれば受けたのはルーカスクローの方。文句のあろうはずもない、そのはずなのだ。なのに釈然としない。
「まあ、事実に近い建前といいますか、あまり事実とかけ離れていると諜報活動を生業としていないお二人に負担が大きいでしょう?」
なんとなく空気を読んで宥めてくれているこの男は、近衛騎士団『赤』副隊長補佐のアーロンだ。今回の学園入りに関して、二人の世話役を兼ねた連絡調整役を引き受けてくれている。
「それにしても、諜報活動は『灰』の職分なので、お世話役は『灰』から派遣されるものを思っていました。あ、アーロン様に不満があるわけではございませんよ?」
アマリアは、王族の元婚約者だけあって、近衛の体制についてはある程度の知識があった。
対処内容が混在している場合ならともかく、今回は潜入調査、つまり『灰』の管轄のはずだ。
当時アマリアは近衛へ指示する権限を持っていなかったが、はたで見ていても職分を超えることは敷居が高かったことは分かった。なのに、なぜ?と単純な疑問を口にした。
「それはですね今回に限って言うと、お二人に、いえ、正しくは『使い手』殿に表立って接触するのが『赤』でなければならなかったからですよ」
「あ」
確かに。とアマリアは気づかされる。
こんな中途の時期に着任した出自不明の男が、頻繁に『灰』と接触などしていたら怪しい以外の何物でもないだろう。
「おっしゃる通りですね。ちなみに『灰』の方は既に潜入されているのですか?連携など取る必要はございますか?」
「それは私からはなんとも……必要があれば『灰』から直接接触があるでしょう」
「そうですか……」
実は、アーロンが訪ねてきて、学園に入るにあたり詳細な話を始めた時は、今回の事件についての詳細も教えてくれるものと思っていた。
だが、アーロンは開口一番にこう言った。
「まずは、入って1週間。先入観なしに生活してみてください。詳細はそのあとで。あ、アマリア様は勉強されに行くわけですから、勉学に励んでいただいてかまいませんよ」
にこにこと話すアーロンに対し、そんなんで大丈夫なのか?とルーカスクローは心配したが、正式な調査を終了したフリをしてからまだ日も浅く、そんなタイミングで新しい人が入ってくると警戒される恐れがあるから、かえって何も知らない方がいいのだと言う。
「事件があったこと自体も、本当は知らない方がよいのです。学園内で初めて話を聞くまでは知らなかったことにしておいてください。それにあなた方お二人と同じタイミングで、もうお一方編入する方がいらっしゃいます。その方は何もご存じないと思いますので」
ちょうどよいタイミングで遅れてきた人もいたものだ。
少し目立つ御仁であれば一時的に良い隠れみのになるかもしれない、と思っていると予想外の存在がアーロンから告げられた。
「帝国の第五王子、ランベルト殿下。この方もアマリア様と同じで1年の期限で留学していらっしゃいます」
「え?それでは私が帝国へ留学していたという肩書はまずいのではありませんか?」
「大丈夫です。このランベルト殿下は、幼少より共和国の首都で過ごされていて、帝国在住歴がほとんどない方なのです。一応何か聞かれたら、訳あって名を偽って留学していたことにしてください。該当する者がおりますので大丈夫でしょう」
マリー・ローゼン
訳あって偽名で帝国へ留学しており、先月卒業して戻ってきた女性だ。その女性のフリをすることは本人に承諾を得ているという。
フリをすると言っても、偽名は明かさず、匂わせるだけだ。
準備が良いのか、たまたまだったのかよくわからないが、そういった丁度よい人材を見つけてこれる手腕は、素直にすごいと思った。
「あ、そうそう。年齢ですが、学園は15歳から17歳までの3年間というのはご存じですよね?」
アマリアは当然知っていたので、黙って頷いた。
「今回アマリア様は、最高学年に『17歳』という設定で入学していただきます。よろしくお願いしますね」
ぴきーん
……という、自分が凍り付く音をアマリアは聞いた気がした。
この1週間で色々と準備をしてきた。
その中には、学園の制服も含まれていた。
正直、在学年齢をオーバーしてから制服を着なおすことに少しの抵抗があったが、留学生であれば年齢が上になることは良くあったし、自分の肉体年齢からみても、最高学年のプラス2年だ。ぎりぎり許容範囲!と心に言い聞かせていたのだ。
だが年齢まで偽るとなると話は変わってくる。
アマリアの中で、『そういう立場になったのでやむを得ず制服を着る』のと、『年齢を偽って制服を着る』の2者には激しく大きな隔たりがあった。
──ななななんの羞恥プレイなのっ!!?
どうせ着るのに何が違うのやら、とデューンは全く賛同してくれず、情け容赦なくアマリアから体の制御を取り上げた。
デューンは、アマリアが訳の分からない単語を心の中で叫び始めた時の対処にすっかり慣れてきていた。
こうして、脳みそがオーバーヒートしたアマリアを放置して、話は進んでいった。
明日、二人は、学園の学生と教師になる。
第一章、これにて終了です。
当初想定していた、旅立ち、にはなりませんでした。
台座から旅立ちましたorz
……げ、解せぬ
第二章、想定外があり、ちょっとお時間いただくことになるかもしれません。
ゆるゆると上げていきますので、どうぞまたご贔屓に。よろしくお願いしますm(__)m
この第一章終了までお読みいただいた方、どうもありがとうございます!
次章への活力のために、ぽちっといいねや評価などいただけると嬉しいです。




