18.日常の始まり
「よっし!じゃあ買い物がてら、飯行こうぜ!」
いうと、ルーカスクローは立ち上がってアマリアに手を差し出した。
「お嬢さん、お手をどうぞ?」
「あ、ありがとう」
宿のベッドは椅子と比べるとかなり低めのローベッドだったので、アマリアはありがたく手を借りた。
──こういうことが出来るあたりも元貴族っぽいわよね?言葉遣いは全然そうじゃないのに。そういえばセラフィーナ様との会話でもなんか怪しかったし、きっとそうなんでしょうけど。
ルーカスクローが、自分の出自を特に話さなかったので、アマリアはまだ半信半疑だ。
ルーカスクローとしては、もうそれほど、頑張って秘密にする気も失せていたが、生家との縁は本気で切れていると思っているので、話す必要性を感じなかっただけだ。
そんなエスコートもここだけの、ちょっとしたおふざけだ。
どう見ても平民に見える二人が、お貴族風エスコートをされながら街を歩くなんて違和感すぎて、二人の常識でもありえない。
自然に手を放すと二人は出かけるために部屋を出た。
ところが、宿を出てすぐにアマリアは、ルーカスクローにぶつかる勢いで腕にしがみついてきた。
「んん!?どうした?街を歩くのが怖いのか?」
アマリアかデューンか、どちらの行動かさっぱりわからない。
まともに外を歩き回るのも、ン十年ぶりだろうし、そもそも二人とも街歩きなんかしたこともないかもしれない、そう思ったのだ。
だが予想しない反応が返ってきた。
──このまま行こう。こうやって接触していれば念話出来るし、僕からの念話なら二人に同時に意思疎通できるから。
「いや、しかし、これは……」
腕にしっかり当たっていた。胸が。むしろ押し付けられていると言っていい。
アマリアは了解しているのだろうか。いや、絶対してないだろ?と思う。
──外で、僕とアマリアの同時会話は、やっぱり不自然だ。念話なら、会話の連続性は不自然だけど、どうせ聞いている人なんていないよ。代わりに口での会話はアマリアに任せるから。
「なん、なんで、この体制?これじゃあまるで男女の逢引きじゃない……」
やっと話したと思えば、アマリアは涙目だ。
離れないところをみると、会話と表情のみがアマリアの制御下なのだろう。
──しょうがないだろ。違和感なく接触しつつ会話するならこれしかないんだ。魔力ブーストでお互い回復するから、調子もいいだろ?……ん?あれ?
「どした?」
──いや、なんか魔力の流れが……?……いやなんでもない。大丈夫。
言われると、確かに心地よい暖かさがある。
そういえば剣の時にも感じていた。いろんなものが回復していく心地よさ、それの縮小版という感じだ。
デューンから「これしかない」と言われたこともあり、諦めてそのまま街を歩きはじめる。
それからデューンは二人に念話の話を教えてくれた。
「それじゃあ、こうやってくっついていても、私とルーカスとでは念話はできないわけね」
──そうだね。出来るのは僕とだけだ。意識しないと強い思考は聞こえちゃうから気を付けてね。
デューンはくすくす笑っているようだ。
「普段から私の思考がデューンに聞こえているわけじゃないのね?」
──うん。念話は強く相手に伝えようと思ったことだけが伝わる。ある意味会話と変わらない。話そうと思ったことしか聞こえない。でも意識せずに強く思うと聞こえてしまう。絶叫したり思わず口から洩れたりするつぶやきがそれに該当するイメージかな。
アマリアは、ほうほう、と感心している。
今までデューンに聞かせられないことを考えていたかどうか、いまいち覚えていないけど、きっとセーフよね!と思うことにしたらしい。
この思考はばっちりデューンに聞こえていたが、アマリアにはデューンがにこにこしているのが伝わるのみだ。
それはそうと、ルーカスクローがいやに大人しい。そう思ってみてみると、憮然とした顔で言った。
「……俺は、アマリアに思考がだだ洩れじゃないならそれでいい」
意識しないと思考が伝わってしまう話をきいて何やらビビっていたらしい。
思わず吹き出してしまう。
「ルーカスってばエッチねぇ」
「な!?エッチってなんだよ!?」
あー、通じないか。と思いながら言い直す。
「スケベってことよ」
「!」
がーん、とルーカスクローの頭の中で何かが響いている。
「ぷっ。あははははは」
思わず噴き出したのは、デューンだった。
──ごめんごめん。つい。音声に出して発散するのって結構楽しいものだね。
念話の方が圧倒的に慣れているにも関わらず、思わずつい吹き出した挙句、声を出して笑ってしまった。
そもそも今まで五感と縁がない生活を送ってきたのだ。今ようやくその良さを実感し始めていた。
「ああ、もう。いい男には秘密の十や二十あんだよ!……それより、さっきデューンが言っていた『魔力ブースト』って何だよ」
あ。逃げたな、と思いつつも、アマリアもそれは気になっていたので、デューンの反応を待った。
──『魔力ブースト』は、まあ勝手にそう呼んでるだけだけど、『使い手』と聖剣との間で行う魔力循環のことだ。普通、相手に魔力を渡せたとしてもそれだけだろ?「魔力交換」ですら相手に渡しっぱなしだ。
「魔力交換?」
二人とも知らないようだ。
そもそも人間がそこそこの魔力を持つようになってから年月も浅ければ、「そこそこ」持っている人間の数もまだ多くない。
本筋ではないのでデューンは省略することにした。
──とりあえず今は関係ないから置いておく。とにかく渡しっぱなしってことだ。だが『使い手』と聖剣の間で行う魔力循環は魔力が徐々に回復する。だから『魔力ブースト』。
「ええ?なんでなんで?ありえないでしょ?エネルギー保存則に反するわよ!?どんな不思議なの?」
アマリアの疑問は最もだが、何を言っているのか、分かるようで分からない。
──え?エネルギー保存則?聞いたことないけど、何それ?
逆に質問されてしまった。やばい。
「あ、いえ、聞いたことがないならいいのよ。(私の中の)機密に関わるから」
前世の話は、アマリア自身が「話せない」こととして心に鍵をかけているため、デューンにも伝わることはない。
「機密?王太子の婚約者だったくらいだし、国家機密?」と勘違いされた。
──まあ、いいや。えーと……
デューンが言う魔力ブーストの説明はこうだった。
まず『使い手』が1の魔力を聖剣に渡すと、1の回復効果が返ってくる。
この時点で『使い手』は魔力1と体力やケガが1回復する。
「え。その時点でおかしくない?」
アマリアが途中でツッコミを入れる。
1に対して、1が二つ帰るのだ。算数や物理を学習する前世の世界人としては納得いかない。
──こればっかりは聖剣の能力として納得してもらうしかないかな。
「んー。つまり『使い手』の魔力1を消費して、体力と魔力各1回復の混合ポーションが手に入るわけね。分かった、納得する」
──んん?まあいいか。続けていいかな?
時々アマリアはよくわからない言いまわしをするなと思ったが、納得するというのでデューンは気にせず話を続行することにした。
──戻った回復効果で、体力が戻るだろ?この時点で、『魔力回復能力』が自動的に上がる。いや、体力低下のせいで下がっていた能力が戻る、が正しいかな。すると最終的に魔力は1出して1+α得ることにになる。まあ時間の経過もあるから、どうしたって1+αになるんだけど。
「あー。んー。なるほど?なんでやねんとは思うけど解ったわ!」
「さっっぱり分からん」
ルーカスクローは最初の、聖剣チートの時点で躓いたようだ。さもありなん。
「あったま、固いわねぇ。そういうものと受け入れることも大事なのよ」
「いいんだよ、これで困ったことないんだから」
「でも、デュー君?これだけだと、なんか『ブースト』と呼ぶには弱い気がするんだけど……」
──…………。
「デュー君?」
デューンは、意外にもアマリアの勘が良いことに驚くを通り越して固まっていた。
1つは『ブースト』に対するツッコミだが、もう1つは『デューク』と同じ音を発したこと。
そういえば『デューン』の名付け親自体がアマリアだった。
止まりかけたかと思った何かが動き出す。
──あ、いや。アマリアが意外に勘が良くてびっくりしただけ。うん。実は体力の回復の時に一定時間だけ魔力回復アップに割り増しを付与されてるんだ。最終的に余剰が発生すれば聖剣の活動源になるし。
「はぁ。そうやって力を蓄えていって、魔王を倒すのかしらねぇ」
──それは分からない。『使い手』が変わると一旦弱体化するみたいだし。
「え!?そうなのか?英雄ウラノーみたいに、魔獣バッタバッタ倒したりできないのか?」
ルーカスクローは聖剣を使うことをこっそり楽しみにしていた。何せ英雄の剣だ。さぞすごいパワーを持っているだろう、と。
──残念ながら。聖剣は『使い手』が文字通り使いこなすことで戦闘レベルが上がるようだね。
「くぁぁ!そうなのかー!じゃあやっぱ地道に雑魚魔獣から退治するかぁ。あーあ……」
こうして、二人+1は食事やその日の買い物を済ませた。
かなり意思疎通も上達してきていい感じに旅ができそうだ、と思っているのは今のうち。
実はスタートでボタンをかけ間違っていたことに気づくのはもう少し後だった。
中に出てきたので聖剣の五感について。
以前の剣のみの時に、一見、見たり聞いたりしていたように思われる方もいるかもしれませんが、五感の「見る」「聞く」とは違う方法でそれを補っています。なので「五感と縁がない」としています。
裏設定なので多くは語らず(-b-)……
落ち着いた話が増えてきましたが、続きに少しでも興味がありましたら、いいね&評価&ブックマークをお願いします!
既に実施されている方!ありがとうございます!あなた方のおかげでこの小説は成り立っています(笑)
明日、日曜日は基本お休みにしようかと思っています。また2……3日後(まだ自信ない)にお会いしましょう。




