16.譲らざる得ないもの、これからの日常?1
お待たせしましたm(__)m
──王都、とある宿──
「えーと、つまりなんだ」
ルーカスクローは部屋の椅子を前後逆にして、背もたれに両腕と顎を乗せて座っている。
聖剣は、椅子がないので少し離れたベッドに腰かけている。
気を使われているのか、あまり広くない部屋とはいえ端と端。
それが今のルーカスクローとアマリアの距離感を表していた。
「聖剣は魔王を倒してからずっと呪われていて?その聖女である貴族令嬢を喰らって呪いが解かれた。んで、お嬢ちゃんの魔力か聖女の力か知らんが、それが強かったんで…………消滅せず今に至ると?」
ルーカスクローには聖剣の知識が全くなかった。
外国では、魔王討伐は『王子が聖剣で倒した』ことで知られているが、聖剣そのものについては『魔物に有効な金属を使った剣』くらいの認識で、あまり重要視されていない。
ヴァロル王家がそのように認識するように情報統制したせいでもあるが、そもそも諸外国は、魔物退治をヴァロル王国に押し付けるつもりだったので、その手段については興味が薄い。
ヴァロル王国内でも、同様の情報統一の結果、英雄ウラノー王子のことばかりが有名だ。
ましてや呪われた聖剣など、醜聞でしかないため秘匿され、盗まれた後も公表されることはなかった。
宿を取ってすぐ、真っ先にルーカスクローは、気になっていたところ、つまり聖剣がなぜ人間の女の姿なのか、一人の人間に二人分の精神が入っているのか?ということを聞いた。
「端折りすぎ……まあだいたい合ってるけど」
聖剣の自我は、最初ベッドの上に胡坐で座ったが、中のアマリアが「やめてー!スカートでそれはやーめーてー」と騒いだので、今は普通に腰かけている。
ちなみにスカートは王宮で平民用……というか町娘変装ルックを用意してもらった。
王太合が「私のお古で悪いけど」と聞き捨てならないことを言ったのを、ルーカスクローが心の中で「何十年前のだよ!?そしてなぜまだ持っている!?」とツッコんでいたが、近侍達をちらりと見ると、全力で目をそらしたり聞かなかったふりをしていたので、それに習うことにした。
「中にいる……体の元の主の名前はアマリア。元は公爵令嬢らしいけど……あんまりそれっぽくない」
アマリアが何か文句を言っているのだろう。聖剣は肩をすくめている。
「なあ、アマリアと会話する方法はないのか?伝言だけだとやりづらくてしょうがない」
「この体はアマリアの体であってアマリアの体ではないんだ。一度完全に消滅しているからね。聖剣の力で再現している聖剣そのものでもある。だから体の主導権は僕にあるけど、交代できないわけじゃない。でも……」
「でも?」
「弱くなるからやりたくない」
アマリアは中で軽くショックを受けて、「訓練とかしたことないし、どうせ弱いわよ……」といじけている。
聖剣が言う主導権交代のプロセスは、つまりこうだ。
特に意識しない素の状態では、聖剣の自我が表に出る。見た目はアマリアでも、実際に話したり動いたりしているのは聖剣の自我の方だ。
だが一旦アマリアに体を貸し出すと、『使い手』の命令か、アマリアの同意がないと交代できないらしい。
アマリア本人は聖剣ではない。だから聖剣が本来持っている能力を使うことができない。言ってしまえばただの人間になるのだ。
常に魔物との最前線に立つことを課せられた聖剣が、わざわざ弱くなる選択をすること自体、自己否定であり自殺行為だ。
──あ、れ?でも、最初と、謁見の日、途中までは、私、自分で動けていたけど?
「あれは、どちらも『目覚めた』直後だから。アマリアに体を自由にする許可を出したのとはわけが違う」
なるほど。とアマリアは思う。
聖剣の言う『目覚めた』は起床の意味ではなく『起動した』方の意味だろう。
王宮に来た後、『使い手』の魔力が切れて仮眠?の状態になり、再び接触することで、正統な持ち主が目覚めたので、強制交代が成立した、ということだ。
「は、な、し、づ、ら、いっ!」
アマリアの中で二人が会話をしていることに気づいたルーカスクローが苛立ちぎみに文句を言ってくる。
「やだなー。嫉妬?聖剣の『使い手』ならみっともないことはしないでよね」
「おまっ!?そんなことどこで覚えてくるんだ」
「先代」
「!?」
伝説の英雄の綺麗な部分しか聞いたことがなかった外国育ちのルーカスクローとしては、「やっぱり人間だったんだ」と良くも悪くも納得しかけているとすぐにセリフが続く。
「の、周りの人たち、かな」
何も考えるまい。英雄ウラノーはやっぱり英雄で、周りの者は意外と愉快な仲間たちだった、それでいいじゃないか。
「まあいい。それで、会話だけでもなんとかならんか?」
「やってみてもいいけど、会話、成立するかなぁ」
いうと聖剣は目を瞑った。
──アマリアに口から発音することを許可した。何か話してみて。
「……あ。あー。あー。てす、てすてす?」
「……なんだぁ?何語?いや、言語なのか?」
アマリアが突然分からないことを言い出したので、一瞬、言葉が通じないのかと思ったのも無理はない。
「……話せる。良かった。嬉しい……。えーと、こほん。家名は省略するわね。元公爵の娘で前国王クラウスの元婚約者、元聖女の卵?のアマリアです」
やっと声が出せるようになったアマリアは、ひとまず自己紹介をした。
説明もいちいち面倒なので、全部ひっくるめて。あとは聞いてくれるなと言わんばかりの自己紹介だ。
「前国王の婚約者って……何歳だよ。ええと……」
「十九!じゅうくですぅ!永遠の!」
ルーカスクローが計算する前にアマリアは叫んだ。
「え、だってあの王太合より、う……」
「ほんとにじゅうきゅうだもん。実際その歳で死んでるし、前の時もそのくらいで……」
アマリアは拗ねて言い訳するようにぶつくさと呟いている。
「前の時?」
「あ、ううん、なんでもないわ」
聖剣が言った通り、確かにアマリアは貴族令嬢らしくなかった。
というか平民とも違う、令嬢が平民を装っているというか、平民がつけ焼き刃で令嬢になったというか、とにかく変な違和感だった。
実際、アマリアは長い放置生活のせいで、かなり元の、前世の状態が素として戻りつつあった。
それを、ルーカスクローは知るはずもなく、「まあいいや」の感想のみで先延ばしにした。
「ルーカスクロー。冒険者だ。ルーカスでいい」
「僕もルーカスって呼んでいい?長いと面倒くさい。ルーでもカスでもいいけど」
「いや、そこはルーカスで。ぜひ。ルークでもいいけど聞き間違えやすいんだよな」
アマリアに挨拶したつもりが、同じ顔で聖剣に割り込まれるという初体験に目を丸くするが、さらには変な呼び名を付けられそうになり、慌てて止める。
────『……ーク』
なぜか聖剣も目を瞬かせたした後、「じゃあルーカスで」と言った。
アマリアと聖剣が連続して同じ口から話す様はかなりシュールだ。見ている側としては、正直キモイと思ったがそこは空気を読んで押し黙る。
そして、あれ?と気づいた。
「聖剣。お前、名前は?」
「────ない。付けてよ」
「ええ?今まで不便じゃなかったのか?ううん、そうだなぁ……」
ぽち、たま、などとペット並みのことを考えていると、聖剣が先読みして制した。
「変な名前にしたら、アマリアと家出して、襲われたって言いふらすから」
「ちょ、おまえ、それはひどくないか?!」
アマリアも、うーんと考えていたが、ふと聖剣から零れる雫が聖水になっていたことを思い出した。
「……デュー……ン。……デューンとかどうかしら?」
なぜかアマリアの顔がほんのり赤くなる。
目を見開いて、対面のルーカスクローを見たが、ぱっと俯いて「それでいい」と呟いた。
「デューンちゃん。名前決まって良かったな。美人に名付けてもらえてうれしいか?」
さっきの意趣返しとばかりににやにやとからかうルーカスクロー。
「うるさいな、そんなんじゃない」と憮然と返すも、顔が赤いままのデューン。
話していくうちに、デューンが精神的に少年であることに気が付いたアマリアは、あらあらまあまあと、姉のような気持ちで見守っていた。
もっとも「姉のような」と思っているのはアマリアだけで、口に出していたらルーカスクローからおばちゃん臭いと言われたことだろう。
────『デューク』
遥か昔、呪われるよりも前にデューンを呼んでいた声を思い出す。
他の人からあの名前で呼ばれたくない、そう思って名づけを申し出た。
なのに、なぜか決まったのは似たような名前。
それが不思議と嬉しくて、くすぐったくて、憮然とした顔が笑みに変わる。
「な、なんだ?突然にやにやして気持ち悪いやつだな」
見ると、ルーカスクローの顔までほんのり赤くなっている。
アマリアと会話していたと思って油断していたが、アマリアが会話をしている時は一時的に身体制御をアマリアに渡した方がいいのかもしれない。
よく考えたらさぞや変な人に見えていたことだろう。
──このまま街に出ていたら狂人扱いだったな。
そうならずに済んでよかった、とデューンは心底思った。
長すぎたので分割しました。話の切れ目って難しい......
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