14.終息しても譲れない?
いつまでたってもなかなか旅立たない……
もう少し続くようです。
「じゃあ、本題に入りましょうか」
セラフィーナは先ほどの笑顔のままにっこりと言い放つと、少しの間、目を伏せ、真面目な面差しで聖剣を見た。
「聖剣様に伺います。聖剣様の制作者、制作の経緯、『使い手』の選定基準を、ご存じの範囲で教えていただけますか」
聖剣の自我から帰ってきた答えはあっさりしたものだった。
「私の自我が目覚めたのは、ウラノーが『使い手』となってしばらくしてからだ。その前のことはほとんど知らぬ」
作られている時に、魔を滅ぼす強い意志を叩き込まれた「らしい」、というのが唯一の記憶。
どうして『使い手』を選ぶのかは分からないが、触れたときに流れ込む魔力に反応しているのだとか。
魔力自体についても、分かっていないことが多い。
ここ何十年かで、多かれ少なかれ、全ての人が魔力を持っている、と言われるようになってきたが、行使できる者は少ない。
過去には、隣のトゥイロア共和国で一割程度、西側ほど若干だが多くなる。
西隣にヴァロル王国が建国してからは、魔力行使者が爆発的に増えた。それでも国内で約半分といったところだろうか。
ともあれ、聖剣の目覚めは『使い手』が触れることが絶対条件だ。
通常は、自然界から魔力と同等のエネルギーを得ることが出来るのだという。
聖剣は自分の手のひらを見ながら続ける。
「だがこの体、人間の体の時は、時々『使い手』から魔力を貰わないと、聖剣の自我としては活動できなくなるようだ」
──あ。だから先日はルーカスクローから離されて、しばらく経ったあたりから話せなくなったのね。
聖剣から、そうだ、と肯定が返ってくる。
聖剣の自我が活動できなくなっても、アマリア本人の意思が活動できるから、この体のままでもこの数日問題が発生しなかったというわけだ。
結局、『使い手』の条件は、魔力が似ていればいいのか、それとも遺伝子情報まで見ているのかは分からないままだ。
聖剣の自我は、『使い手』の選別を「なんとなく」と言った。かなり感覚的に生きている存在らしい。
セラフィーナは、この回答を予想していたようで、そうですかの一言ですませた。
「今後の話ですが、『使い手』殿の希望を聞いておきましょうか。一応、聖剣の使い手として王宮の騎士には叙す予定を……」
「それには及ばない」
ルーカスクローはセラフィーナの言葉を遮る。
「俺は冒険者だ。宮仕えはしない。そもそも、聖剣は『使い手』が持ち主になるんじゃないのか?だから聖剣は俺のものだ」
「んー。まあそうだね。『使い手』が主だ」
「聖剣様!」
聖剣は自分の所有権の話だというのにお気楽だ。
最初の威厳はどこいった、とアマリアは思う。
それとこれとは話が違います、とセラフィーナは聖剣を窘めた。
「聖剣はもともと建国王が作らせた、国を守り、魔を倒すもの。国の所有物です。魔国が力を増大させたときに所在が知れないとあっては国の存亡に関わります」
「魔王は倒したんだろ?だったらいーじゃねぇか」
「あー。魔王、復活するよ?」
「……え゛……」
セラフィーナは、困った子を見るように苦笑して、話を引き取る。
「歴史的にみても、魔国は数百年に1度程度には、勢力を盛り返して害をなしてきています。次がどの程度後でどの程度の規模かは分からないし、魔王自体が復活するかも不明ですが」
これに対しても、またもや聖剣があっさりと言った。
「次は、倒してから200年後だ」
目線を落とし、その表情は先程と違って暗い。
「分かるのですか?そういう話は伝わっていませんが」
「うん、ウラノーは知らない。僕と……いや、『なんとなく』だから」
聖剣は少しうつむきながら、ぽつんと呟いた。
ウラノー王子。『使い手』の初代。
共に戦い、魔王を倒した英雄ウラノーの話をする聖剣は、なんだか急に子供にかえったかのようだ。気づけば一人称まで変わっている。そういえば先ほどから段々子供っぽくなっているような。
まあ確かに、頑張って魔王を倒した人に「200年後にまた復活するけどね」とは言いづらいだろう。
それに倒した直後に呪われたという話だし、伝える余裕もないのかもしれない。
「倒したのがヴァロル歴72年ですから、200年後というのが真実であれば次は272年。今が224年ですから、仮に『使い手』殿が存命だったとしても魔王と戦うのは無理でしょう。次の『使い手』を探さなければなりません」
セラフィーナは「聖剣を渡すことはできない」と、はっきり言った。
「そこを何とか!ちょっとだけ!」
「一寸だけ貸し出すとか、無理だからね?」
冒険者の人生なんてそんな長くないから少しだけ貸しといてくれていいじゃないか、と正確に言えばいいものを、変な短縮系でお願いし始めるルーカスクロー。
分かっているのかいないのか、冷静?にボケを返す聖剣。
──あああ。やっぱり収集がつかなくなった!
頭を……ココロの中でだが……かかえるアマリア。
すると、ふと、頭の中で返答があった。
──まあまあ。ちゃんと何とかするよ。
え……と思っていると、再び聖剣はアマリアの口で話し始める。
「王太合。時がきたらあの台座となっている岩に戻ることを約束しよう。だからそれまではこの男に貸しておいていいんじゃないかな」
どうせ『使い手』なんてなかなか現れなさそうだし、とアマリアの体で肩をすくめて見せる。
時が来たら戻る、そんなことが可能なのか。
セラフィーナも同様に確認するような目でこちらを見ている。
「あの岩との関わりも長くなってしまった。『使い手』が……『使い手』でなくなったとき、自動で戻ることくらいはできるだろう。長びいたとしても、そうだな……」
聖剣はちょっと考えるそぶりをした。
「新しい『使い手』の気配を感じた時点で戻る、というのはどうかな」
「ちょっと待て!最低でも冒険者を辞めるまでいてくれ!」
いつ現れるか分からない『使い手』。
今まで何十年も現れなかったと言っても、次はすぐ現れるかもしれない。
そんな約束など冗談ではなかった。
セラフィーナはちらりと男を見て言う。
「それはどのくらいのことなの?あまり長いようでは承服しかねるわね」
「死亡で終えることもあるが、転職やケガ、体力の衰えなどで引退するものもいる。大体平均して40から60歳台前半くらい。それ以上続ける者もいるが……それは、まれだ」
魔王復活が現実のことであれば、セラフィーナの言う事ももっともだ。ルーカスクローだとてわかってはいるのだ。
だがしかし……何かが、手放してはだめだと訴えてくる。
まるで甘い誘惑のようだ。
これは自分のわがままなのか。
理性に喝を入れて譲歩の道を探ろうもするも、途端に身を裂かれるような感覚に襲われる。
ルーカスクローは少しの間、苦痛に耐えるように目を閉じたあと、決心したように顔を上げた。
「今から28年後なら魔王復活まで20年ある。その時まで聖剣は俺のものだ。これ以上は譲歩しない」
話がつかないと、離してもらえません。
(セラフィーナに、ルーカスと作者が(笑))
ルーカス自身は最大限の譲歩をしたつもりです。
譲る気がないのを譲歩したわけですから。
でも聖剣は「うわ、こいつ、譲る気ねえ」と思っています(笑)
その根拠は次回に。
(気づいてもらえるかな……)
ほんとにキャラたち、エンディングに向かって進んでくれるんだろうか……。
いつもお読みいただきありがとうございます!
作者のやる気充填にぜひご協力を!(笑)
(いいねとか、評価とか、感想とかw)




